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気づいたら泣いていた。

ときどき、あなたのことを忘れてしまいたいと思うことがある。
とりとめのない思いをこの160mちょっとの体いっぱいにしてくれるあなたのことを。

例えば、小さい頃集めていたものをしまっていたお菓子の箱を見つけてしまったとき。その中には昔家族でよく行っていた中華料理屋さんでお子様セットを注文すると貰えた安っぽいきらきらした指輪だったり、学校で隣の席になった男の子と仲良くなって筆箱の中を覗かせてもらったときに入っていて綺麗だと言ったらくれた銀色のつやつやした石だったり、形はないけれど帰り道に友達と内緒で食べた裏庭の木いちごを初めて食べたときの味だったりが入っている。
他の人が見たらどう思うだろう。こんなダサい指輪のどこがいい、汚い石ころなんか入れて、そう思うかもしれない。
でも私には全部宝物だった。そんな箱を開けたときの気持ちが今、みっちり私の中に満ちているのだ。なんて幸せなんだろう。

ふと、私がこの箱をしまってしまったときのことを思い出した。
ずっとずっとこの箱の中を眺めていたいけれど、我に帰ると怖くなる。もしも突然私の気持ちが変わってこの箱ごと捨ててしまいたいと思ったら?もしもこの箱がどこかに消えてしまって見つけることができなくなってしまったら?私は耐えられるだろうか。
それはまだ何も知らない私が純粋に好きだと思った大切な気持ちだったから。恥ずかしくもそれが本当の私だったから。いつしか誰かの目を気にしてぎゅうぎゅうに閉じ込めてしまった大切な気持ちだから。でもなんだかこの箱をあなたに全て見せてしまうようで、それが怖くて、それでもきっと一緒に綺麗だねって言ってくれる、こんなに幸せな気持ちにしてくれるあなたのことも忘れてしまいたいと思った。

でも、もしかして本当の意味で忘れてしまうことの方が怖いのではないか…?

はっとすると外が明るいことに気づいた。結局、眠れないまま朝になってしまったのだ。がらっとカーテンを開け、窓も開けると朝日が日本を照らし切っていない澄んだ景色だけが広がっていて、その景色は妙に生きていることを実感させた。すぅーっと深呼吸をして、目を閉じた。まるで日本のどこかで同じように生きているあなたが、どうか幸せに今日も過ごせるよう何かに祈るように。

今幸せな気持ちにさせてくれるあなたと、いつか幸せな気持ちにしてくれるあなたへ。