六の倍数

元日の「おめでとう」電話かと思ったら
「雑煮の餅を喉に詰まらせて死んだ」と姉から電話。
姉の連れ合いの安(やす)さん75歳。
雪のちらつく峠を越えて、ちょうどスタットレスタイヤに履き替えていた。
2日の午後葬儀社の仮安置所に。
白い棺(ひつぎ)の中に青白い安さんがいた。


姉が棺に煙草を入れた。葬儀社の若い社員(増田さん)がマッチを添えた。
安さんはヘビースモーカー。
安さんの胸には小さな袋が。
「6円いれてあります」と増田さんは見せた。
「三途の川を渡るのに」と。
そうか6文か。僕のポッケットにも。
「ちょうど6円あるよ」
「じゃー それも入れましょう」
と増田さんは嬉しそうに。
3日の午後安さんの骨は焼却炉から出てきた。姉と安さんの弟が
骨壷に入れて持っていった。
夜の峠を越えて家に。
灯りがついていた。消し忘れれたか。

「お帰り 屠蘇の残りもらっていたよ」
炬燵に安さんが入っていた。
「往復の渡し賃もらったんで ありがとさん」
・・・・・
「帰らせてやるが代わりに誰か連れてこいと
向こうの係がね」

とっろとした目をして安さんが言った。

読み切り。投げ銭スタイル。

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