掌小説 15001


家内が初詣に行こうかと、「そんな恥ずかしいことできるか」と取り合わない。家内もすぐに諦める。そう僕が神仏を信じない男で真似ごとすら嫌っているのを知っている。
「じゃ温泉行こうか」とどこかにでかけたいらしい。
元旦のランニングで背中が痛かったから「おぅ」と。
近くの日帰り温泉、正月に飽きた客でごった返していた。
湯船も洗い場もごった返している。
寒いせいか露天風呂は少しは空いていた。源泉かけ流しの湯に浸かる。
隅の岩の間に老人が横になっている。半分は湯に浸かっている。
器用なもんだなと思いながらジェット風呂や高炭酸泉などはいって、ようやく空いた洗い場でシャンプー。
もう一度露天風呂に行ったら、まだ老人があの岩の間に挟まっている。
寝ているようだが、まるで動かない。声をかけて揺さぶろうかと思ったが
いい気持ちでいるのを邪魔するなといわれるがおちだろう。

風呂から出て家に帰る道、救急車がサイレンを鳴らして、狭い道だから路側帯によけて停車。
バックミラーに映る救急車は日帰り温泉の門へ吸い込まれていった。

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