カールは何処へ

"人はタバコを吸うから休むのか、それとも休むためにタバコを吸うのか"

喫煙率が高い前職、俺が現場から戻ってくると事務所の空気を嫌って喫煙所にたむろする上長者達をみて毎度そう思うのであった。

JTの試験を受けるために俺はタバコを吸い始めた。21歳を過ぎて。真っ当に、だがしかし阿保そのものの理由で。小売業ならそこで売ってるものを試してみるのが一番取っ掛かりがつくと思って。
間もなくして俺はアッサリ彼らにお祈りされてしまった。仙台と東京を新幹線で行ったり来たりして。まさしくあれほど徒労に終わった時はない。今後一切金輪際俺は洋モクしか吸わねえ、と心に決めたのはその時だった。もちろんライセンスなので彼らにお金は入るのだが。

歳を取ることは寛容になることのような気がする。小さな時ほど、やりたい放題ではないと思うが。かといって順調に老衰で死ぬ間際になるほど、物事には不寛容になりそうな気もするが。しかしながら他人の嗜好とのズレは寛容とはまた別個のような気もする。

時に、タバコの銘柄は様々なステロタイプを生むらしい。ハイライトはジイさん、セブンスターはオッサンみたいな。
銘柄を頻繁に変える奴は浮気症だとか。これは多分その時の彼氏に銘柄を左右されがちな若い女性へ当てつけのような気もするが。ということは俺はトンデモナイ浮気症になるわけで。モテなくて良かった。逆に。阿保なので学生時代に金のある限りは、わりかし色んな銘柄を買って吸っていたと思う。(童貞卒業して変に自信つけて他の女を抱いてみたくなるあの感情に近いかもしれない)
昔みたいに、ジャンプやマガジンくらいの値段で買えるものだったなら、喫煙者人口は全然いたのではないかと友人と話したのが懐かしい。ちなみに、そいつは親兄弟がスパスパ吸うのにも関わらず非喫煙者だったが。

俺はもうめっきりタバコを吸うことが無くなった。あれから、さすがにある程度したら浮気症が治って、定番が決まっていた。それも街の真っ当なタバコ屋じゃないと売っていない、探すのも面倒な銘柄だ。面倒な人間に好かれるような洋モクだからこそ愛おしい。とはいえ1ヶ月に2箱吸えば十分な人間にはそう面倒なことではなかったのだけれど。
銘柄はアークロイヤルのバニラ。それとカールトンのウルトラライト。結局二股じゃねえかと言われるけれど、別にタバコはとやかく口うるさく言わないし、人のスマホも勝手に覗かない。湿気ったタバコもまたそれはそれで結構なものだから。ただ、カラッカラに乾いた封切りたてのラッキーストライクの一口目、こればかりは筆舌に表し難いくらいに美味いからベツバラだ。

バニラ着香なら他にもピースやキャスター等々色々とあるけれど、俺はこれが1番好きで、葉巻用の葉っぱとそのテイストで、記載されているタール値よりもずっと軽く吸えてしまう。そして何よりもその珍しさは話のタネになる。だから、ヘタすると自分で吸うよりもずっと他人に貰いタバコさせた本数の方がずっと多いかもしれない。その点で言えば、ショートピースも、話のネタにはなるけども、なんてったって俺の実用に欠ける。でもあれは紙巻の状態はめちゃくちゃに香りが良いんだ。これを部屋の香にしたい。燃やすとかなりキョーレツではあるが。

カールトンは元々俺の友達が吸っていた銘柄で、今はもう廃番になってしまった。去年の冬頃に。ほんと服に匂いも残らないし、煙も少なくてそのシャレて上品なパッケージ同様に上品な味のタバコだった。とても気に入っていたのだけれど、仕方がないことだ。最後の一本を吸った場所を覚えておこう。思い出は永遠だ。秋田のくだらねー店だったけど。

ある友人は俺にこんなことを言った。「お前は自分は変わり者と思っているかもしれないがお前は世間そのもの、だからお前に届けば有名人だ」
大学に入った頃、おしなべて俺はグループアイドルの類いに全く疎く、高校時代に嫌いな野球部の連中が総出でハマっていたので坊主のグローブまで憎く全くその耐性を得る機会を失っていたわけである。なにせその頃はまだまだグラビアアイドルが全盛だったのだから。

乃木坂46が本当に出始めの頃だった。前述の友人はこの中で誰が1番タイプ?と俺に聞いてきた。俺は殆ど迷いなく、当時アンダーメンバーだった深川麻衣を選んだ。理由は顔が好みどストライクだったからという他はない。

俺は何かチームだとか、そういった目線で追っかけるのが非常に苦手だ。沢山のデータをいっぺんに捌けないからだ。とはいえ理由は一言で言えば面倒だから。これに尽きる。結果がさらに結果を出す過程が好みだ。だから俺は深川麻衣を観続けた。そしてツイッターで仲良くなった友人に布教した。そいつの母ちゃんには会ったら刺されること間違いなしだってくらい、彼は乃木坂の沼にハマっていった。ちなみに乃木坂を布教した後輩は秋元真夏に握手会でベロベロに酔わされてズブズブと沼に引きずり込まれていった。ドジョウが出てきてこんにちはみなさん一緒に歌いましょうってことだ。そんな深川麻衣もあっという間にアイドルを卒業して、俺も大学を出て。ウワーッとした勢いで女優に彼女はなった。今度は世間が俺に追いついたというわけだ。しかしながら俺はというとなんていうこともしない怠惰な生活をしているだけだ。同世代のヒーローやヒロインに嫉妬するほど、まだ俺は何もかも熱量不足だとつくづく感じる。

俺はどこまでも深みにはハマれない、情熱の欠けた人間なのかと、何かに熱中している人を、見るたびに思う。熱中している人を、20歳過ぎてバカにした事はない。そっちの方が絶対に面白いはずだと思うから。マルチとかネズミ講以外では。熱量を持ってして、自分を突き進められるバイタリティはただひたすらに羨ましく思う。おそらく俺にもそれくらいのエネルギーはあるのだろう。例えていえば様々な料理の味見だけではなく、そこで出会ったその一品、その全てに俺は没頭してしまいたい。その為に俺は今日も美味そうなエサを探しまわっているのかもしれない。

それこそがお前の情熱だろうと言われたいのかもしれないが、俺はもっと真っ直ぐに、どこか、何かに対して、身を焦がすほどの熱を帯びて走り達したいのである。

心の何処かで、自分がそう考えている理想の道は単に青く見えているだけなのかもしれないという疑念を抱きながら。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?