雑踏

雑踏
俺が好きなことは旅ではなかった
ただ遠くに行きたいだけだった
それも地続きのどこか遠く
雑踏、もしくは俺くらいしか歩いていないその場所で
何者にもなれず、そこにいて
そこに来たからといっても何者にもなれず
ならず
ただ、俺がいることの手触りだけを
めくらの蝙蝠のように
停滞や澱み、エコノミークラス症候群のような日常を
うだつの上がらない日々
信仰を持てず、持たない弱さに、足腰もない
成れの果て、果ての成れ
藻が身体につくような
泳ぐには力がなさすぎて
どうしようもなく鉄の塊に身体を預ける
乳母車となんら変わりない
どこか遠くの場所で
新しい誰かと話すのもなんだか疲れるようになってしまった
仕事なら人見知りなんてしないが
自分が親交を持ちたい相手に慎重になってしまう
これは自分にカンバンや自信がないからだろうか
宙ぶらりんに
この場所で
この場所だから余計にそう思える
帰れる場所に後ろ足で砂をかけた
飛びたいと思って飛ばせてもらった
羽根も頑丈だ
おまけに手足も付いている
なんだか人付き合いに自信がなくなってきた
遠くにいる
逃走とは考えたこともない
自分勝手なもので消えるなら自分ではなく周りに消えてほしいと考える気質だ
俺は俺1人であると、何故か遠くに来るとしっくりと感じることができる
外面の良い人ほど家庭内暴力をするとか聞いた
家族との境界が分からなくなった迷惑な自傷行為だと思う
一生に3回は他人を殴っても罰せられなくなったら良いかもしれない
ラストエリクサーを腐らせる人間の俺は使わずに生涯を終えると思う
俺もあなたも愚かだ
言語化が下手すぎるし、怒り方を忘れている
他人が酷い目に遭えばいいと願ってもいるし、他人が幸せになって祝いたいとも願う
のんきに明日も1秒先も生きていると予感している
終わらない物語は嫌いだ
どこかの強張りがあそびを壊して身体も壊すことになる
自らの言葉が自らに影響を与える自家中毒者に乾杯
粗野に大胆に
鍛錬に裏打ちされていこう
遠く、雑踏で
遠く、どこかで
帰ってこよう
俺は俺だねと

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