病院にて

病院にて:耳が遠くなった車椅子の奥さんに耳元で語りかける旦那さん。夫婦2人が、そんなにも近くで、耳元で、話す機会というものは、何も若い頃に限った訳でもないのだよなあ。人生は余りにも遠くて、短すぎる。多分に俺は、それを眺める俺は、ともあれ複雑な心境になった。人間はどこでもいつでも死にそうだ。

いつだって俺ら、お互い好きになるスピードの違いがあるってだけで、もう少し色々と待っててほしいと思ってさ。もうちょっと熱いままの鉄でいてほしいとか思っていてもさ。前髪を褒める前に、いつのまにかセルフでパッツンになってたりしてさ。

だからこのまま、もうすこしだけ、君のことを好きのままでいさせてくれないか、だとか、そんなめちゃめちゃにキザな言葉がうっかり口から滑ってしまいそうになる。そんな景色を見ていたら。あなたと過ごす1秒にどんなものよりも価値がある。良い夢も悪い夢も、起きても忘れない、だからおれが死んで、あの世で目が覚めても。

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