知床遊覧船 桂田社長の会見を聞いた所感
2時間強に及ぶノーカット会見映像(前半/後半)、及び初期の報道内容等から感じたことを箇条書きで並べました。
※ ‘分析’ ‘想像’ に重きを置いた内容のため、社長をこきおろして全面的に糾弾したいだけの人にはおすすめしません。
※個人的な推測多めの内容です。あしからず。
所感(箇条書き)
冒頭の「この度はお騒がせしまして、大変申し訳ございませんでした」は、現実に起きていることと比較して軽く聞こえてしまうので、リスクコミュニケーションとしてはミスだと思う。
実際心の中でどう思っているかは別として、また家族向け説明会を既に複数回開催していることを考慮したとしても、多数の死者・行方不明者を出した酷い事故の後の公式声明の第一声としては表現が不適切。「原因はわからない」は本音だと思う。社長は経営のこと以外はあまり関わっておらず、現場のことはほぼ把握していなさそう。
判断基準や責任分掌や統制がガバガバ。安全管理規定等はたぶん形だけで、なんとなくの申し合わせで動いていたと推測できる。ただ逆に言うと、(良いか悪いかの判断は別として)小規模零細企業はどこもそんな感じが多い気もする。
ロザンの動画の陸・海・空交通で比較していたのは興味深いが、小規模事業者でも参入しやすい点、設備の場所・数が限られていなかったり乗り物が長大ではない点から見ても、船舶レジャーは(バス輸送等と比較しても)さらにずさんな管理が起きやすい環境なのかもしれない。今回の事故当日がどうだったかも大事だけど、同時に過去にも似たような判断をしたことはあるのか、普段からどういった出航判断手順を踏んでいるのか、他社ではどういう体制がとられているのか、といったところも同じくらい鍵になってくるはず。
普段どういう運用をしていて、それが業界的にどれくらいのレベルで、事故当日は普段と比べてどうだったのか?をもっと知りたい。(他の人のコメントでもちらほら見かけるように)コロナ禍等の厳しい経営環境の中、できるだけ営業して顧客満足度を稼いで先に繋げたいという意識は、少なからずあったんだろうなと感じる。
第2便の話は初めて聞いた・・(事故船と同じコースだったのか? 1時間で帰港しているということは途中で引き返したのか? などが気になる)
強風注意報・波浪注意報が発令されたことを知った上でも、行けるところまで行こうというのはちょっとどうなの?
浸水に至る前(12:30頃、12:45頃)、帰港が遅れる旨の連絡が船長からちょこちょこ入っていたあたりの時系列・誰経由・どの通信手段、等の事実確認がいまだにできていないのは、ちょっとやばいなという感じ。
そもそもの連絡体制がずさんすぎる、社長が周囲の人間から信頼されておらず積極的に協力してもらえない、等が考えられるだろうか。会見がこの日になったのは、まあこれくらい遅れるのは有り得るかなと思った。もっと大きな組織ならいざしらず、(社長自身の口からもあったとおり)10名程度の小さな会社の社長が対応できるキャパは完全に超えていると思う。
家族向けの説明会も日に3回開催していると報道で見たし(社長は毎回は出席していないようだけど)、他にも公的機関の取り調べやら監査やらに対応しないといけいないので。表現力不足や言い回しの問題、がさつさ、状況把握不足等はあるにせよ、2時間以上の会見を1人でそれなりに淡々とこなしている。(擁護ではなく単純にリスクコミュニケーションの観点では)それなりに我慢強く対応できている方ではないかな。わからないことは「わからない」と言っているし。
会見前のいくつかの報道を見ていて、もっとヤバい人が出てくるのかと思っていた。地域での同業者間や漁師等との地域住民間での横のネットワークが弱かったんじゃないかという点は、気になる。報道によれば、社長交代を機にベテラン船長たちが一掃されたという話もあるそうだし。
船体が回収されないと浸水した具体的な原因が究明できない(座礁等が原因なのか、船体の傷が原因なのか等)。生存者がいないと証言もとれない。少しでも手がかりが見つかって、直接的な原因に関しても特定されることを祈りたい。
追記:4/29午前、水深100mの海底に沈む船体が発見されたとのこと。船長と社長が当日朝に打ち合わせしたと言っているが、会見全体の説明を聞く限り、毎日の打ち合わせと出航判断を重視しているようには見受けられないし、以下の1・2のような実態だったのではないかという気もする。
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【1】普段はほぼ船長に任せきりで毎日丁寧に打ち合わせなどしていない/もしくは数分の立ち話・電話程度で簡単に話すだけ
【2】事故当日はシーズン初日だったため、たまたまいつもよりちゃんと打ち合わせただけ衛星携帯電話が積まれていなかった?事務所の無線アンテナが壊れていた?携帯電話で連絡がとれる?事故当時船長と同業他社従業員がアマチュア無線で交信していた?等の情報から、緊急時の具体的な連絡手段や手順、交信内容等については詰めて決められていなかった、ということではないか。
1:08:25~ の日本テレビ・フクナガさんの指摘が鋭くてよい。
「なんでも ‘条件付き運航’ にできてしまうんだったら、安全管理規定の意味ってなんなんでしょうか?」
社長も「あ~・・まあご指摘の通りではありますが、」と言っちゃってるし…。でもたぶんそれくらいの認識と運用でこれまでやってきたんだと思う。日本の記者って「すみません」「恐縮ですが」をよく使うな~
社長は「結果的には」という言葉遣いが多い。あまりいい印象は受けないかな。
と思ったら、55:05~ で記者さんが指摘していた。土下座はパフォーマンスだごまかしだという意見は多いと思うし、私もその行為そのものから誠意は感じない。
ただ、多数の犠牲者を出した今、この社長にはそれくらいしか表現手段がないんだと思う。経験も知識も適切な状況把握も持ち合わせていない以上、土下座くらいしか選択肢がないのだろう。
印象に残っている乗船者の言葉
(メディアは注目を集めるストーリー・感動話を掘り起こしたがるので、乗客の家族のことも考えると、私たち第三者が過度にストーリーを消費することのないようにする必要性は感じつつも)
私は前述の言葉が、特に生々しく頭にこびりついています。
私は愛媛に親類がいて方言を聞く機会があるので、~やけん、~しよるけんというイントネーションに親しみがあるからです。
瀬戸内圏のそれと九州のそれはまた違いがあるのかもしれませんが、文字を読むだけでとても現実味を帯びて脳内再生されます。
荒れる海と傾く船体を目の当たりにしながら、どういう気持ちで電話をかけたのだろう。
死を覚悟せざるを得なかった乗客たちのことを想像すると、言葉にできないような気持ちになります。
ただ、むごいとしか言いようがありません。
'22/05/03 最終更新
'23/08/09 最終更新(タイトルを一部のみ変更)
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