横に並んで商談をする

商談のため訪問した、とある運送会社。ぼくは社長室に通されたが、社長はいなかった。茶色の使い古されたソファに座る。思ったより深く沈む。部長が来た。部長もゆっくりと腰を下ろす。間にはガラスのテーブル。上には翡翠色の灰皿が2つ。丸と四角。ぼくはパソコンを出す。説明をしようとパソコンを部長に向けた瞬間、「ちょっとあなた、横に来なさい」と部長。こうして、横に並んで商談をすることになった。

パーソナルスペースと言うものがある。パーソナルスペースは、基本的に前には広く、横には狭い。他人が、自分の真横立っているのと、自分の目の前に立っているのとでは後者の方が不快感が強くなる。お互い背中合わせだと不快感を感じなくなるが、向かい合うと一気に不快感が強くなる。これがパーソナルスペース。ご存知の方も多いだろう。

商談において、この距離感は心地よかった。圧迫感も無く、説明もしやすい。今日は受注をいただくことが出来たが、1時間半も話すことになった。かといって、次から横に並んで商談するのは無理に近い。図々しい。

商談ではなく、普段の生活では応用できそうだ。例えば上司への相談。まっすぐデスクに向かい、正対したまま話しかけてはいけない。さり気なく横に並ぶ。お互いに無意味なところでストレスがかかることは無くなるのではなかろうか。

白髪の生えた部長。御年60歳あたりだろうか。動きもおっとりしていたが、「リスティング広告」を熟知されており、頭の回転は早かった。ぼくを横に来させたのは、若者が年寄りに恐縮しないようにといった配慮だったのかもしれない。思い返せば、アポイントを頂戴した電話越しからも人柄の良さは伝わってきた。声のトーン、話すスピード、笑い声。「力」とは、出すものでは無くて滲み出るもの。生きた教科書から、ひとつ大事なことを学んだ。

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