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新・コンサル探偵シリーズ 復帰後第一弾:怒りのカステイラ

2年と2ヶ月に及ぶ国家機関への潜伏活動も何とか終え、組織に復帰したコンサル探偵。組織に戻れば戻ったで、腰も落ち着かないうちに歯車として動き回る日々。毎週どこかの街に出張が続く。

その中でも、国家機関での最後のミッションで仲間と訪れた異国の町・長崎。コンサル探偵の復帰後初の事件は、なんとそんな新しい思い出の地で待っていた。

梅雨時の九州地方、長崎の街もどんよりとした分厚い雲が立ち込め、時々しとしとと雨が落ち、蒸し暑さと不快指数を一層高めている。そんな天候のせいか、本日の任務は無事終了したものの、限られた平地と斜面部にへばりつくこの街が過去に背負った大きな災いも心をよぎり、少し憂鬱な気持ちになる。この地で過去に別のミッションを遂行していた組織の仲間は、「風光明媚なところ」と言っていたが、そんな景色も少し憂いを帯びて私には素直に受け入れることが出来ない。能天気なその組織員を少しうらやましく思う。

そんな憂鬱な気持ちで長崎の市内を後にし、東京に戻るため飛行場に向かう。憂鬱だなんだと言っておきながら、国家機関の仲間に教えてもらったカステラ屋でお土産のカステラをしこたま買い込んでいるので、空港でのお買い物はせずゲートイン、カウンター付近で機内に通されるアナウンスを待つ。

程なくしてアナウンスが流れ、早めに機内へ。

シートベルトを締め、街中でのブルーな気分はどこにいったのか、機内サービスで何を飲もうかな~「ふふん~♪」なんてのんきにしていたら、事件は落ちてきた。

「バチーーー!!」

突然頭の真上に何かが落ちてきた。近年めっきり薄くなっている頭頂部に箱状の物体の底面がもろにぶち当たり、機内にはかなり大きな音が響きわたる。

何がおきたか分からずに頭を抱えてうずくまる私。痛さはそれほどでもないが、不意をつかれたこともあり、個人的にはかなりの衝撃。古傷(その昔組織で上を向いて居眠りをしていて痛めた頚椎)がうずく。

首と頭を抱えてうろたえる情けない中年男に、キャビンアテンダントが上から声をかける。

「申し訳ございません、お客様!大丈夫ですか!お客様!」

瞬間、少しざわつく機内。

「お客さんに当たったのか!?」なんて声も聞こえる。

声の主は落下物体の所有者であろう。

首を押さえて苦笑する私に謝りながら、先ほどの落下物体を拾うCA。

どうやら私の頭頂部を直撃した物体は、長崎名物カステイラのようだ。

機内の注意事項ビデオで紹介される

「無理をして入れると荷物が滑り落ちる恐れがあります。」

ってやつ、あれだね・・・(みんな、カステラ買いすぎだよ・・・俺も今回は沢山買ったが。。。)

後ろの席の人が入れた上の棚の荷物をCAが移動させた際に落下したらしい。

落ちてきたものがカステラ(探偵の感的には、おそらく1.5号ぐらいある幅広のもの)でよかったと言えばよかったが、、、

私やカステラばかりに気を取られていられない忙しいCA達は、次々と機内に乗り込んでくる乗客への対応へと、何事も無かったかのごとく動き回っている。

私はと言えば、あまりにも突然の出来事のショックから立ち直るべく、首を押さえたり回したり、少し大人気ない仕草に余念が無い。首を回して気がついた、通路を隔てて隣の席の女性は美しい。

そんな欲望に渦巻いた私の演技が効を奏したのか、乗客対応が落ち着いて暇になったのか、私の頭上に1.5号級のカステラを投下したCAは、アイスノンを持ってきたり、お茶を一番に手渡してくれたり、様態を聞いてきたりと色々と声をかけてくる。チーフCAとやらも、慇懃に

「先ほど、私どもの客室乗務員がコンサル探偵さまの頭にカステラを落としてしまい、大変申し訳ありませんでした。」

などと謝罪に訪れる始末。からかわれているのか、心配されているのか分からない対応を受けたりする。

アイスノンと数々の謝罪の言葉と隣の席の女性の横顔が効いたのか、首のうずきは治まってきた。機内では、あとおよそ15分で東京国際空港に着陸しますとアナウンスしている。着陸の衝撃に首が痛まなかったらまず大丈夫だろう。

しかしやはり今年は前厄男、そして、今のところ今年は頭関係の災難が多い。。。

いや、それもこれも、長崎でのミッションにあたっては、その昔長崎での悲劇を忘れるなとの神のしわざか・・・

何はともあれ、着陸後、荷物を出すときには最大限の注意を払おう。この世は事件にまみれている。コンサルの神さま、クライアントと私をお守り下さい。

これにて復帰のご挨拶とさせて頂きます。

皆様、今後とも宜しくお願いします。

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