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権謀術数のチェルノボーグ

 アークナイツの世界観はファンタジーよりだが、設定に点在する歴史的要素によって独特なリアリティを有しており、メインストーリーも開発の本気を感じさせるシリアスとして、今時のスマホゲームにおいては読み応えのあるものに属するだろう。
 ストーリーはチェルノボーグに起きたレユニオン暴動を発端に展開され、現時点最新の7章でも終わりの兆しを見せていない。チェルノボーグ事変は間違いなくメインストーリーの基幹なる部分ではあるが、それに対する直接的な記述は0・1章に止まり、他は断片的なプロファイルでしか確認できない。
 大陸サーバーの最新サイドストーリー「ウルサスの子供たち」によって提示された情報は、謎めいたチェルノボーグ事変を解明するための、最後のピースとなった。有志たちの素晴らしい解説が次々と挙げられる中、これまでプレイヤー側に与えられた数々のヒントはようやく繋がり、シナリオのの全貌が見えてきた。この文章は幾つかの考察記事を基に、ストーリーを分かりやすく整理し直したものに過ぎないが、読者のみなさんがこれによってアークナイツをより楽しめるようになれば幸いである。
 ネタバレについてだが、日本サーバーはまもなく6章「局部壊死(訳者のセンスやばくない?」が解放され、次の7章ストーリーはどちらかというと戦闘部分にウェイトを置いているため、実質的にチェルノボーグ事変を解読するのに用いる情報はほとんど揃えたと言える。なお、キャラの実装及びサイドストーリーの時間軸はメインストーリーとの関連性が薄いため、ネタバレによる被害が比較的に少ないと考える。そのため、この文章は6章までのメインストーリー、全キャラのプロファイルとサイドストーリーの関連情報を利用する。しかしながら、「ストーリーを初見で読む楽しさを損なわない」程度の簡単な事実関係を、筆者の判断で書いていくこともあるので、予めご了承ください。
 それでは、チェルノボーグの事変を見ていこう。

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 先ず、事実だけを羅列していく。
 レユニオンは元々外部から、「無秩序な感染者組織」として認識されていた。しかしいつしか、タルーラの引率により組織的な行動が可能となり、チェルノボーグで暴動を起こし、都市をまるごと奪取した。その後、何人かの幹部を龍門に攪乱作戦を行わせ、その隙にチェルノボーグのコア部分を起動させ、ウルサス帝国の識別サインを発しながら龍門と衝突させようとした。
 そこで幾つかの疑問が浮上する。

◆レユニオンの大半は迫害を受けた感染者であり、中に軍出身者がいるとは言え、どうして簡単にチェルノボーグを奪取することが出来たのか?

◆チェルノボーグを支配下に置いたレユニオンは、資源欲しさに龍門に侵攻するのはいいとして、なぜウルサスの識別サインを発したのか?

 説明できないわけではない。レユニオンは綿密な計画を立て、天災まで計算に入れて、タルーラの圧倒的実力と合わせてチェルノボーグの防衛システムを瓦解した。ウルサスと龍門を衝突させ、その隙に勢力拡大を図ろうとした。
 しかし、やはりもやもやが消えない。トランスポーターに小細工を弄し、天災の隙に攻め込むという戦法に、軍事大国のウルサスは対策しない方がおかしい。そしてウルサスと龍門が衝突すると、レユニオンは邪魔ものとして先に両者に攻め入れられる可能性も高い。そもそもウルサスはチェルノボーグ事変以来、ずっと黙っているという態度が不気味である。

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 そして、チェルノボーグ事変の闇は次第に判明される。6章において、タルーラは一部の幹部から「以前とは全くの別人みたい」と不審がられたことがわかった。以前のタルーラは感染者の未来のために全身全霊で戦う英雄とするならば、現在のタルーラはレユニオンを利用し、感染者を駒扱いする陰謀家でしかなかった。龍門で死闘を繰り返したレユニオンは、作戦の目的すらわからなかったように、彼女の目に「感染者の未来」はすでに映っていなかった。
 「ウルサスの子供たち」で、チェルノボーグ事変の直前に、一部の貴族が都市から避難していたこともわかった。いくら綿密な計画であろうと、事前に拡散してしまっては元も子もない。チェルノボーグ事変の直接実行者はレユニオンとしても、その背後にタルーラ、ひいてはタルーラを操縦する者がいるに違ない。
 その者は誰だろうか?先の一連の動きを見て、一番得をしている勢力を考えてみよう。レユニオンではない。龍門でもない。プレイヤーが知る故もない第三の勢力も排除すれば、ウルサス自身の疑いが一番高いと言わざるを得ない。
 ウルサスの歴史的評価というと、ファイヤーウォッチ・シモーネの話からも、へラグ・パトリオットの話からも、軍事大国らしく、「戦を以て戦を養う」という、戦争行為によって資源を獲得することを国策としてきたようだ。それでも、龍門と戦う口実を得るためだけに、一都市をまるごと捨てるというのも割が合わない。
 さらに視野を絞ってみよう。ウルサス帝国ではなく、「ウルサスに属する一勢力」としたら、意外と可能性がある。その答えは、へラグとPocaのプロファイルにある。

「ウルサスはここ数十年で少なくとも百人にのぼる将校を処分しました。」
「血峰の戦い以降、貴族と新しい政治家は事あるごとに絶えず軍事力の削り合いをしています。」
「大貴族たちは血脈だけで安定な繁栄が約束されていたが、近代に入ってから、彼らの地位は新しく台頭する商業・政治エリートたちの挑戦を受けた。」
「少なくとも大反乱以前、大貴族たちは依然として絶大なイニシアチブを有していた。」
「Pocaによると、彼女の家族ロストフ家は大反乱によって台頭する新興貴族の一員であり、伯爵の従者でしかなかった彼らは伯爵が所有していたものを全てを得た。」
「チェルノボーグ市長のボリス伯爵も新貴族の一人」

 情報を整理しよう。ウルサスの旧貴族は新興貴族の挑戦を受けていた。血峰の戦い以後、軍の勢力も政治闘争によって大幅に削減された。「大反乱」というのは、恐らく劣勢に陥ていた彼らの足掻きであろう。それに失敗した旧貴族と軍は地位を失い、ほとんどのイニシアチブを失った。残念ながら、これは彼らの最後の足掻きではなかった。
 わかりやすく言うと、旧貴族の地位は軍功によって確立され、血脈で受け継がれてきた。そして軍事国家における軍の立場は言うまでもない。彼らはいわゆる「軍事主義の信奉者」である。一方、オリジニウムを動力とする技術を手に入れ、産業革命を経て台頭した新興貴族は「資本主義の信奉者」である。もちろん貴族だもの、陣営分けがはっきりせず、水面下で色々と絡み合っているだろうけど、傾向としてこの二つの陣営があると言ってもいいだろう。
 それで疑問は全て解消される。チェルノボーグは新興貴族の陣営に属しており、開戦の口実が欲しい旧貴族派にとっては生贄にしても何の痛みもなかった。なぜなら、事変の前に情報は既に旧貴族と旧貴族と絡みのある貴族に流され、避難が済んだからである。チェルノボーグの防衛システムは警察だけではなく、近くに駐屯軍もいたが、最初からグルであった彼らの支援を期待するだけ無駄である。ちなみに、元ネタのロシアに詳しい人にとって、貴族たちは知識・文化を独占しているはずなのに、チェルノボーグに貴族学校も一般人の学校もあるということに違和感を覚えるかもしれないが、新興貴族は生産的な需要に従って教育普及に努めていたと考えれば筋が通る。
 そして、チェルノボーグ事変の具体的な流れも浮かんでくる。
 先ず、治療しようもない感染者を使い捨ての労働力として扱うところ、新興貴族派も旧貴族派も大して変わらないが、オリジニウム技術に支えられた大量生産は、正に新興貴族派の命脈である。そこにウルサス帝国の差別政策に加えて、チェルノボーグが抱える大量の感染者は、いわば時限爆弾である。
 そして龍門は、程度の差こそあるものの、同じ爆弾を抱えていた。よりによって、大量生産された製品を利益に変換するのに、チェルノボーグと龍門は定期的に近づいて貿易しなければならない

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 そこで、旧貴族派の毒蛇、魏長官生涯の敵――コシチェイ公爵が登場する。コシチェイと龍門の因縁はここでは省くが、かつて戦争があって、和平協定を結んで質としてタルーラを養女として迎えたことだけ押さえよう。5章のストーリーにおいて、コシチェイはタルーラに殺されたとある。
 一方、コシチェイの元ネタはスラヴ神話における「不死のコシチェイ」であり、魂と肉体が別々にあって、魂が無事である限り、殺しても死なないという。そこで当然疑問が生じる:

◆今のタルーラは本当にタルーラなのか?タルーラに纏わりつく「陰」とは何なのか?

 とりあえず、コシチェイは何らかの方法で、タルーラに影響を与えたことが確実である。タルーラの元に集まった感染者の集団レユニオンは、いわば彼の手駒のような存在である。後は、天災がチェルノボーグの進行ルート上に現るのを待つのみ。トランスポーターから報告を受け取り次第、レユニオンに暴動を起こしてもらい、天災と共にチェルノボーグを破壊する。後は、軍と仲良く高みの見物するだけである。
 チェルノボーグ事変によって、新興貴族派は大打撃を受けた。そして、「凶暴な感染者を大量に生み出す新産業の危険性」を全国に印象付けることで、旧貴族はイニシアチブを取り戻す。さらに、コア部分を龍門にぶっつけて、昔の恨みを晴らすとともに、軍に良い餌を与える。資本主義によって揺らされたウルサスの国策を、再び軍事主義に戻すのだ。
 なにより、この一連の陰謀に、旧貴族は表に出ていないし、非難されようがない。タルーラのカリスマ性を利用し、不安分子としての一般感染者と、氷原に反旗を翻すパトリオット遊撃隊を集めさせて、思い存分利用してから、龍門との戦争で消す。新興貴族派は旧貴族派の野望と狂気を過小評価し、自分の甘さに代償を払わなければならない。反撃しようにも、そもそも感染者問題に責任を持つのが自分であり、なにより暴動を先に処理しなければならない。どうやら感染者の「明るい未来」は、最初から存在しなかったようである。

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 コシチェイ唯一の誤算は、ロドスの存在である。感染者たちがタルーラというリーダーにしがみついでいる間は、彼の思うままに利用されるだろう。しかし、そのシナリオに、タルーラと同格の器を持ち、あるいはより強い信念を持つアーミヤがいなかった。そして、質として一人でコシチェイに立ちはだかるタルーラと異なり、アーミヤの背後にはロドスのバックアップが存在する。バビロンを前身とするロドスと、それに目を付けたサルガス・ヴィクトリア勢力の参入により、チェルノボーグを中心とするこの局面はさらに混沌と化すだろう。そこに、感染者の勝機も隠れているに違いない。これからのアークナイツストーリーへの期待は膨らむ一方だ。


参考資料
https://bbs.nga.cn/read.php?tid=19821940&page=1
https://bbs.nga.cn/read.php?tid=22264048
https://bbs.nga.cn/read.php?tid=22235581
https://bbs.nga.cn/read.php?tid=22321245

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