ひまわりと月明 『最終話』
春の陽気に包まれた公園は、子供たちの無邪気な声で溢れ、平和という言葉を具現化している。
ベンチに座って、優しく吹くそよ風を浴びながら目を瞑る。
こうして、何もしないで眠ってしまうのもまた一興……
「パパー!」
聞きなじんだ声に目が覚める。
「陽葵。どうしたんだ?」
「あたしね、ママといっしょにね、パパにかんむりつくったの!」
「おー!どれどれ?」
僕が頭を下げると、陽葵がそっとそこに花冠を被らせる。
「どうかな?」
「ばっちり!」
「ちょっと……陽葵元気すぎ……」
陽葵からだいぶ遅れてやってきたのは、息が切れかかっているアルノ。
陽葵に付き合わされて、あちこち走り回ったんだろう。
「花冠、似合ってるじゃん」
「ホントにな~」
背後から聞こえた、飽きるほど聞いている声。
振り返ると手をつないでいる二人の姿。
「これ、陽葵ちゃんがつくったの?」
「僕のためにね。なんて可愛い娘なんだ……」
「親バカかよ」
やってきたのは××と咲月。
その××の陰に隠れる少年も一人。
「おいおい明斗。もう何回もあってるんだからさ、恥ずかしがって隠れるなよ」
明斗くん。
咲月と、××の息子。
「あきとくん!」
そんな、恥ずかしがり屋の少年に、うちの娘はそんなもの知ったことかと声を掛ける。
「いっしょにあそぼ!」
手を伸ばし、その手を取り。
陽だまりに向かって、二人は駆け出す。
ああ、なんて眩しいんだ。
僕はそんな二人を見て、過去に思いを馳せる。
ーーーーーーーーーー
「アルノ」
「は、はい……!」
「好きだ」
頭で考えるよりも先に体が動いていた。
心がそうした。
だけど、ちょっとだけ冷静になって、周囲のざわつきが耳に入る。
「ご、ごめん……!僕、テンション上がってて……!」
とんでもないことをしてしまったと、僕は慌ててアルノのことを離す。
離れて、アルノの顔を覗くと、アルノの頬には一筋の涙が伝っていた。
「アルノ……?」
「あ……ご、ごめん…….!これはその……違くて……!」
アルノは袖で涙をぬぐうけれど、決壊したダムの様に流れ続ける涙は中々止まらない。
「ほんと、ごめん」
「違うの……。嬉しくて……!」
涙でぐちゃぐちゃになった顔で、アルノは続ける。
「私、ずっと、○○のことが好きだったの……。私がつらい時、○○がずっと傍で支えててくれて……。だけど、○○がつらい時に、私は何もできなくって……」
「ううん。そんなこと無いよ、アルノ」
僕は、もう一度。
だけど、さっきの勢い任せとは違い、そっとアルノの頭をそっと撫でてから抱き寄せる。
「僕、演奏してるときにみんなの顔が浮かんだんだ。僕は一人でステージに立ってるんじゃないって。みんなに支えて貰って立ってるんだって。その中でもさ、僕の一番の心の支えになってたのはアルノなんだよ。アルノは何もできなかったて言うけどさ、そんなことは全然無いんだよ。だってアルノは、ずっと僕の傍で、僕のことを見守ってくれていたから」
僕は再び、アルノを離す。
思い返すはあの日の思い出。
もう、生きていけるのかどうかも不透明だったあの日。
僕の世界から、音楽が消えたあの日。
今日、僕は音楽を再び取り戻した。
その瞬間まで、ずっと僕の傍にいてくれたのはほかでもない、アルノなんだから。
「僕は、音大に行く。ピアニストを目指す。だから、僕の夢への道を、アルノにも一緒に歩いてほしい。僕が夢を叶える姿を、一番近くで見届けてほしい」
「わたしで……いいの……?」
「アルノじゃなきゃダメなんだ」
何も言わず、アルノが僕に抱き着く。
僕らを祝福するように、周囲からはいつの間にか拍手が起きていた。
ーーーーーーーーーー
「なんか、平和だな」
陽葵がグイグイ行って、明斗くんがそれに困惑して。
だけど、嫌じゃないんだろうなってのは伝わってくる。
「そういや、最近調子はどうよ」
「まあ、ぼちぼち」
僕は、高校を卒業して音大に進んだ。
一番の驚きは、アルノもその道を選んでいたという事。
どこか他人事だった音楽について、学びたいと思う機会があったらしい。
ドラムにハマってたなんて知らなかった。
そして、大学在学中にコンクールでそれなりの成績を残して、僕は今でもピアノを弾いて生活をしている。
「アルノのドラム教室の方も調子がよろしいようで」
「まあ、先生が優秀ですから」
「もう、〇〇!……××と咲月の方はどうなの?」
「そりゃあ大変だよ!××がいつケガするか気が気じゃない!」
「おい、縁起でもないだろ!今年は世界大会も控えてんのに!」
××も、ケガを乗り越えて夢を追った。
完治してすぐに、強豪大学のセレクションに飛び込んでいったそうだ。
考えなしなのか、無鉄砲なのか。
それでも、すぐに行動できる××はやっぱりすごい。
そこでちゃんと活躍して、今はプロとして活躍してる。
××と一緒に普通に出かけるなんてできないくらいの人気者だ。
「でも、ケガしても私がちゃーんとリハビリしてあげます!」
「お前の仕事はケガの予防をちゃんとさせることだろ」
咲月は、××を支えるって言葉の通り、スポーツトレーナーの道を進んだ。
誰かのためにが原動力になる咲月なら、ぴったりの仕事だ。
ただ、資格取るのがきついって何回もアルノに泣きついていた。
そんな大変な期間を乗り越えた今は、トレーナーとして××のチームに帯同している。
今は今で色々大変なこともあるみたいだけど、なんだかんだで楽しそう。
「にしてもさ、眩しいよね、あの二人」
「うん。私たちにもあんなころあったよね~」
「あのくらいの頃ってさ、○○悪ガキだったじゃん?」
「ちょっと、急に恥ずかしい話しないでよ」
「でも、○○は太陽みたいだったよ」
「それも恥ずかしいんですけど」
本音半分、からかい半分。
××は僕の方を見ていたずらに笑う。
「今はさ、どっちかというと××の方が太陽みたいだよね!性格的に!○○は……月?優しく照らす感じ!」
「二人とも成長しました」
「高校卒業してもう十年も経ってんだから、当たり前だろ」
「あの二人もさ、こういう話するようになるのかな?」
「今は……想像できねーな」
「でも、きっとすぐだよ」
そんな話に花を咲かせていると、僕が被っているのと同じ花冠をもった陽葵と明斗くんが駆け寄ってくる。
「ママの分!」
「おとうさんと、おかあさんに……」
あの頃の僕たちは、漠然とした何かを追いかけて生きていた。
それゆえに、何度も何度も苦しんだ。
「そういや、明斗。○○に言いたいことあるんだよな」
「あ、あの……!ぼ、僕に、ピアノをおしえてください……!」
花開いた僕らは今、それぞれの道を行く。
道は違えど、手を取り合える。
「陽葵も……」
「明斗くんのおとうさん!わたし、バスケットボールやりたい!」
春風に桜が舞う。
太陽が、優しく僕らを照らす。
道は違えど、光は届く。
だって僕らは、同じ空を見上げているから。
未来は、こんなにも輝いているから。
………fin
あとがき
最後まで読んでいただいた読者の皆様、ありがとうございます。
序盤の鬱屈した展開、結構大変だったと思いますし、同じシーンを別角度で見るという回想の都合上、飽きる展開もあったと思います。
それでも、最後まで読んでいただけてうれしいです。
この話は結構設定も深いところまで考えてあるんですが、話さないで内緒にしておきます。
一個だけ出してもいいかなと思うのは、ひまわりに関してです。
向日葵と言う花は感じにも含まれている通り、アオイ科の植物で、花開く前は太陽の方を向く向日性という性質があるのですが、花が開いた後は太陽を追いかけることなくずっと同じ方向を見つめる花なのだそうです。
そして、花言葉は「憧れ」「情熱」「あなただけを見つめる」です。
改めまして、最後まで読んでいただきありがとうございました。
一言だけでも感想いただけると嬉しいです。
では。
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