Feelings sprout

｢ねぇねぇ、雨蘭ちゃんが香奈ちゃんの好きな人取ったらしいよ｣

｢えぇ、また！？この間は三組の彩花ちゃんの好きな人取ったって聞いたよ｣

｢ちょっと顔が可愛いからって調子乗ってるよね…｣

……また！？はこっちのセリフなんだけどなぁ。
好きな人取ったとか言われても普通に話してただけだし、全員から告白されてる訳でもないし。
行動しないくせに陰口だけは一人前、女の子の世界ってほんとうにめんどくさいや。

中学生になってからこういうのが増えてきて、学校でも一人でいることが多いけど、この方が楽だってわかったから気にしてない。
それに小学校から仲のいい子は今でも友達だし。
まぁ、唯一の楽しみだった調理部にも噂が広まって行きづらくなったのは悲しいけど。

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💚｢ただいま〜｣

兄｢お、おかえり雨蘭｣

ていうか、 学校がつまんなくても私にはお兄ちゃんがいるからなんの問題もないけどね！

兄｢なんか機嫌悪そうだな？｣

💚｢聞いてよ、お兄ちゃん！また好きな人取ったとかって噂されてるんだよ。ほんと飽きないよね。｣

兄｢はは、またか〜…まぁでも、雨蘭は可愛いからなぁ｣

💚｢もう、他人事だと思って！ …この時間に家にいるってことは今日はバイトじゃないんだね｣

兄｢今日は推しグループの円盤が届くからさ、しかも限定版！だから休みにしてもらったんだ。ホラ、自分の手で受け取りたいじゃん？｣

💚｢へぇ〜、そういうの私にはよくわかんないけど…お兄ちゃんが本物のオタクなんだなってことはよくわかるよ｣

兄｢雨蘭にも心の底から好きなものが出来たらわかるよ｣

💚｢お兄ちゃんのことは心の底から好きだよ♡｣

兄｢ありがとう、ありがとうございます。やっぱ俺の1番のアイドルは雨蘭だな〜！！｣

💚｢もしかして私、アイドル向いてたりして？…なんちゃって〜｣

兄｢いや、それなんだけどさ！兄ちゃん、雨蘭が結構マジでアイドル向いてると思ってたんだよな！
ビジュアルも全然通用するレベルだし、ちょっと小悪魔っぽい発言も刺さる人いるだろうし。でもそれを意識せず天然でやってるのがポイント高いんだよなぁ〜！それに歌やダンスはレッスンを重ねたら上達できる！
普通の女の子だった子がアイドルとして成長していく姿を見られるのが最高にいい…数々の有名アイドルも最初はそうだった…あ、ちょっと待って、想像しただけで泣けてくるわ…｣

相変わらずアイドルの話になるとすごいマシンガントークだなぁ。
だけど、私のことそんなふうに思ってくれてたなんて知らなかった。
……アイドル、かぁ。

💚｢ふふっ、本当にアイドルが好きなんだね｣

兄｢もちろん！生きる希望っていうか推しに生かされてるっていうか君がいるから俺がいる、みたいなもう無くてはならない存在というk｣

💚｢じゃあ、私もそんなアイドル目指しちゃおっかな〜？｣

兄｢え、ガチ！？マジで！？俺そんなの、そんなの…ファン第1号決定じゃん！いや、むしろ０号か…？生まれた時から可愛い雨蘭は俺のアイドルみたいなものだったし…いやでも、雨蘭の可愛さが全世界に……う〜〜〜ん…少し複雑ではあるな。
いや、うん、そっか、本物のアイドルか…兄ちゃんは全力で応援するぞ！！｣

💚｢ちょ、ちょっと待ってよ、まだ本気で言ったわけじゃ…｣

兄｢せっかくだし今から届く円盤も一緒に観よう！ちゃんと観たことないだろ？？まずは兄ちゃんがアイドルの良さをしっかりレクチャーするからな！！
アイドルに興味を持つきっかけは、どんな些細なことでもいいんだ！！｣

こうなったお兄ちゃんはもう誰にも止められないって私が1番知ってる。

それに、なんとなく日々を過ごしてる私をお兄ちゃんなりに元気づけようとしてくれてるのかな。
…新しい世界に飛び込むチャンスかも。

💚｢もう、わかったから！一緒に観るから！
…でも、好きになるかはお兄ちゃんの力量にかかってるからね？？｣

兄｢任せろ！雨蘭はそこで座って観てるだけでいいからな！｣

楽しそうにアイドルの魅力を話すお兄ちゃんの笑顔や、画面越しにでもしっかり伝わるキラキラしたステージ、全力の歌とダンス。
魅入られないわけがなかった。
私も、いつかこんなふうに誰かのことを笑顔に、幸せな気持ちにしたいと、純粋に心からそう思えた。

それはどこかつまらなさそうに生きていた少女に、初めて夢が芽生えた瞬間だった。
そして、その夢が叶う日もそう遠くはない話であるとはまだ誰も知らない─────