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2016夏・豊﨑由美さんが文庫を買う! 週刊読書人文庫企画//本紙に載らない本棚トーーーク♪ ③

 週刊読書人7月29日号掲載の「文庫を買う」企画から、本紙には掲載しない豊﨑由美さんの裏トーク(本棚前トーク)をお届け。豊﨑さん選25冊の読者プレゼント、詳細は本紙で!(編集部)
       (先にその①を読む方はこちら)(その②を読む方はこちら

岩波文庫にも昔からお世話になっています。『カンディード』があれば……残念、ないですね。
 『贋金つくり』がある。ジイドが書いたポストモダン小説です。これは個人的に買います。岩波文庫では、まだ読んでなくてきっと面白いに違いないものを選びましょう。ゴーゴリ『ディカーニカ近郷夜話』は妖怪話がたくさん入った、とっても面白い本です。『大江健三郎自選短篇』が出ているんですね。二十代は、ほぼ大江健三郎を読んでいました。読みなおしたいです。トーマス・マン『ブッデンブローク家の人びと』も楽しい。北杜夫『楡家の人びと』が好きな人はこれが元ネタだから、読まないと。尾崎翠の「琉璃玉の耳輪」も入ってますね。これを元にして津原泰水さんが小説を書いていますよね。伊藤比呂美『ラニーニャ』は、傑作です。どうして芥川賞を取れなかったのか。今年復刊されたんですね。『サハリン島』は、『1Q84』への引用で話題になり、復刊されたんですよね。チェーホフはどれも面白くて、外れがありません。
 引用と言えば、この詩人の言葉が、『羊と鋼の森』に引用されてましたよね。私はこの方の詩集をちゃんと読んだことがなかった。これを選ぼうと思います」

新潮文庫は立ち止ってしまう本がたくさんある。私の世代、50歳前後の文庫デビュー本で、一番多いのは星新一『ボッコちゃん』ではないかな。私はモームの『月と六ペンス』でしたが、小学生だったからその魅力が分からなくて。実質、楽しんで読んだ一冊目は、井上ひさしの『ブンとフン』でした。

 新潮文庫は名作をなるべく生かして、絶版にしないようにしてくれようとしている気がします。筒井康隆『虚航船団』も残っている。この本で、当時はポストモダニスト、非ポストモダニストの対立がありました。梨木香歩さんはいい作家だよね。『家守綺譚』とか、どうして梨木さんが直木賞の候補にならないのか。ファンタジーやSFを差別するなと言いたいですよ。『トットチャンネル』は、ドラマの満島ひかりさんのしゃべり方が最高でしたね。宮部みゆきさんは本当にすごい作家。多作なのに、クオリティを保っている。将来、宮部みゆき文学賞ができればいいですよね。クオリティを保つ作家にあげる賞。

 新潮社といえば村上春樹ですよね。村上さんは『ねじまき鳥クロニクル』と『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』がいい。〈村上柴田翻訳堂〉シリーズは、始まってうれしいです。マッカラーズの『結婚式のメンバー』を復刊させたのはお手柄。サリンジャーの『ナイン・ストーリーズ』も生きている。
 カミュは『シーシュポスの神話』がいいですよね。海外の名作を、私はかなり新潮文庫で読んでます。ドストエフスキーも新潮文庫でした。江川卓、原卓也、米川正夫訳。亀山訳の「カラ兄」も読んでいますが、呼び名を統一したことで、読みやすくなったんですよね。批判もありましたが、今の時代にもう一度読んでもらえるようにしたのは、いいことですね。
 若島正訳の、ナボコフ『ロリータ』は読んだ方がいい。今でいうロリータとはズレがあるけれど。マキューアンの『アムステルダム』も傑作。私は昔、トーマス・マンの『魔の山』に行きたかったんです。おいしいもの食べて、日光浴して、学校行かなくていいと思って(笑)。

 ヘミングウェイもヘッセも、新潮文庫で読んでいますね。ヘッセは、『シッダールタ』と『クヌルプ』が面白いですよ。『クヌルプ』はダメ男小説みたいなところがあって、説教臭くない。レマルクの『西部戦線異状なし』も名作ですよね。第一次大戦は肉弾戦で、それゆえに悲惨なんです。それをリアルに描いた作品。大江健三郎も大学生のとき夢中になって新潮文庫で読みました。世代に訴えかける話を書く作家ですよね。
 そう、忘れちゃいけない、アメリカは、ポストモダンのこの作家。ありとあらゆる翻訳家から尊敬され、愛されている藤本和子さん訳の、この作品を選びましょう」

 「ハヤカワ文庫は、やっぱりSFかな。私が好きなのはバラード。ディックはサンリオSF文庫で『ヴァリス』を読んで胸打たれましたね。ディレイニーもいいけど、私のディレイニーとは訳者が変っている…。バチガルピはまだ若い作家で、面白い作品を書く。ハヤカワ文庫はepiなど頑張っているシリーズが、いろいろありますね。ジョナサン・フランゼンの『コレクションズ』は批評性があって面白い家族小説。中西部のバイブル地帯といわれている、保守層が集まる場所の家族の話です。

 それから、演劇文庫。戯曲のシリーズがあるのは、すごいことですよね。決して売れ筋ではないですから。マイケル・フレインの『コペンハーゲン』は、最近、宮沢りえさんが舞台でやりましたね。ハロルド・ピンターは、大人のドラマを作る人、「背信」など大好きです。有名な戯曲なら、ソーントン・ワイルダー『わが町』、オールビーの『動物園物語』、アーサー・ミラーもあります。岸田國士、前田司郎、コーマック・マッカーシー、三好十郎『浮標(ぶい) 』も面白いよね。野田秀樹さんのものもよく読みます。
 早川といえば、ミステリとSFと思うところを、ここは敢えて演劇文庫から、1冊選びましょう」その④へつづく

本編、「豊﨑由美さんが文庫を買う」は、週刊読書人7月29日号です!
豊﨑由美セレクトの文庫25冊(2万5千円相当)の詳細も本紙で!

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