あたりまえはうつろいやすい

‪ある日の帰宅途中。

自宅最寄り駅の階段を登っていてふと隣の下り階段に目をやると、色白で大人しそうな男の子が階段の中ほどに佇んでいる。

その後、彼はまるで生まれて初めて階段を降りる子供のように、手すりに上半身を預けながら身体を半身にして一歩ずつそろりそろりとホームを目指して降りていた。‬

年齢は20代くらい、見た目は大学生風だけど内向的な雰囲気と繊細さが表情に出ている。

‪きっと身体が不自由なのかと思い、彼を助けようかと一度は登りきった階段を降りかけたけれど、そのあまりにも真剣な表情と雰囲気になぜか手が出せなかった。‬

彼の背中からは、なんとなく手を出さないで欲しいという意思のようなものすら感じた気がしたからだ。

次の瞬間、ホームには発車のメロディが流れた。きっと彼はこの電車には間に合わない、そう思ったけどもう遅い。

いったい彼にどんな問題があるのか、彼の身体の動きからは判別がつかなかったけど、おそらく身体の問題とは別な問題に思えた。

自分の当たり前は、他人の当たり前じゃない。
そして自分の当たり前も、いつ当たり前じゃなくなるかわからない。

彼のか細くて骨張った背中を見ながら、そんなことを考えていた火曜夜の9時。

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