息子、退院が延びる

かぁーーちゃんがいぃーー
かぁーーーちゃんがいぃいぃーーー

今日入院生活が始まったであろう男の子の声が泣き声混じりで聞こえてくる。
かぁちゃんがいいよなぁ。
息子がまだ話せなくて良かった、こんなの聞いたら辛すぎる。

そのまだ話せない我が息子は今日で生後5ヶ月になった。
上手くいけば退院して家でお祝いできるはずだったが、私は今日も彼を一人残して家に帰る。

川崎病を患った息子の血液検査の結果が、今ひとつだったのだそうだ。

退院できるかもしれないと言われていた日を迎える数日前から、夫とふたり、期待しすぎないでおこうと話していた。
それなのに、退院できないと分かった昨日、病院からの帰り道で私はすっかりガクッと来てしまい、ご飯を作る気にもなれず、コンビニで夜ご飯にする冷凍食品を買い家に着いた。

家にあるパンや買ってきたシュークリームを立て続けに食べて、落胆した気持ちを紛らわしても、食べるものがなくなると、面と向かって悲しみがやってきた。

かぁーーちゃんがいい、かぁーーちゃんが。

看護師さん達から聞く息子は、入院生活がさほど辛くなさそうだった。
いつも笑っているそうで、泣いても要求が分かりやすく、手がかからないと言ってくれる。
全てを鵜呑みにするわけではないが、掃除のおばさんにまで「この子はいい子よ、本当に大人しい」と言われた時はびっくりした。

それでも病室に入ってきた私を見ると、表情が変わる。私を母として認識できていると分かったのが入院がきっかけとは切ないが、甘えた顔で笑う息子の目に、私は母として映っているのだろう。

私を分かっているのに、彼を置いて帰る私を、彼はなんと思っているのだろうか。
まだそこまで分かっていないことを願う。
自分を置いて帰るなど、分かって欲しくない。

かぁーーちゃんがいぃぃーーーー…

それでももうすぐ退院できそうではある見込みのある数値のようで、次の検査では結果次第で当日退院と言われている。
もちろん結果次第ではまた退院は延びるだろう。
抑えても膨らむ期待、文字通り釘を刺す。
割れても割れても欲しがる風船。萎む姿は昨日の私か。

声が聞こえなくなった。
かぁちゃんがいい男の子は寝たのかな。
かぁちゃんもきっと泣いてるよ。
かぁちゃんも、隣にいるのは君がいいんだ。
君が思う以上に、かぁちゃんは君が大好きだよ。



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