「お母様が僕を殺した」はマザーグースではない

かもしれない。

「my mother has killed me」という詩がある。
「お母様が僕を殺して、お父様が僕を食べてて、兄弟姉妹が骨を拾ってくれて、冷たい大理石の下に埋めちゃう」という内容の短い詩だ。

オタクにとっては、
・伯爵カインシリーズで引用されてる
・サイコメトラーEIJIで引用されてる
・ブラックラグーンで引用されてる
等、多方向で使われている(オサレで)物騒な詩ということで有名。

これの楽譜について、マザーグースであれば、楽譜がパブリックドメインとして存在しないだろうか? と思って200年くらい前の本を二冊ほど調べてみたが、存在しなかった。
あれ? と思い、調べる先を「伝統的な子守歌」「童謡」にして調べてみたが、やはりなかった。
(一冊は、「殺人をテーマにした童謡」というジャストな章があったのにもかかわらず存在しなかった。Murder Bulladと呼ばれる類を中心に調べている)

この詩は、「物騒だから最近のマザーグースからは外されることが多い」ということになってはいるが、それにしても19世紀あたりから既に削られてることある??

と思い、もう直接、歌っている動画がないか? と思いyoutubeを検索すると、
前述のブラックラグーンで双子が歌っていた歌の動画(と、それと同じメロディの歌がいくつか)しか出てこない。
これらの動画の中で一番古いのはブラックラグーンであるので、「アニメ用に作曲された」(他の動画はこのブラックラグーン用の歌のフォロワー)という可能性を捨てきれない。
英語圏の動画もいくつかみてみた。マザーグースを集めたチャンネルにもないし、「本当は怖いマザーグース10選」みたいな動画もいくつかみてみたが、この詩がチョイスされてる動画はない。

ここまでくると、そもそもこれって本当にマザー・グースなのか?(日本以外の国で、マザー・グースとして認識されているのか?)つまり、童謡(=歌)なのか? もしかして詩なのか?
(詩と歌というのは近いものだということは承知しているし私もその文脈でたま~に詩を楽しむが、詩は韻律があったとしても楽譜がなく、歌は楽譜があるという風に思って欲しい)

ということで、「そもそもなんでこれがマザー・グースとして扱われているのか?」ということを調べるために、マザーグースを集めた英語圏の本(パブリックドメイン)とかサイトをいくつかみてみたが、掲載されているところを見つけられない。

やっぱこの詩がマザーグースにいれられているのって日本だけか?
じゃあなんで日本ではマザーグースにいれられているのか? ということで見てみると、これは谷川俊太郎「マザー・グースのうた」に収録されているからである。私もこの本でこの詩を知ったし……。ねじれた男の詩も好きです。

ということで、これについては手元に原本があるので改めて見てみると、該当の歌の出典は「The Mother Goose Treasury」や「Richard Scarry's Best Mother Goose Ever」ではない。
「Three Young Rats and Oher Ryhmes」である。
タイトルにマザーグースが含まれていないのでちょっと嫌な予感がする。
「Three Young Rats and Oher Ryhmes」はマザーグースであるのかどうか? と言うことで調べると、1946年に初版が出ている本のようだが、

https://www.amazon.co.jp/Three-Young-Rhymes-History-English-ebook/dp/B00A73FKNM/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=カタカナ&crid=122XYSTQ4G8NH&keywords=Three+Young+Rats+and+Other+Rhymes&qid=1685106978&sprefix=three+20young+20rats+20and+20other+20rhymes%2Caps%2C603&sr=8-1

上記Amazonの著作紹介を見る限り(なおeBooksも似たような説明であった)、「マザーグースや他の伝統的な詩からインスピレーションを得て描いたイラストと詩を並列した本」のようである。
ってことは、マザーグース以外の話も載ってるんじゃん!

製本版を売っているところもあったが(https://booknerd.stores.jp/items/609782e1e70dc4103cae91d7)「セレクトした押韻詩」とあって、マザーグースではなくない?!

じゃあこの押韻詩の出典どこなの?! と思うが、この詩の原型についてはグリム童話のjuniper tree(ねむの木)であり、この話の中に既に類似の詩を見ることができる。
(グリム童話のパブリックドメインなんぞいくらでもある上、日本語訳でさえ青空文庫にもある。ドイツ語版と英語版は各自探してください。https://www.aozora.gr.jp/cards/001091/files/42317_18248.html)

なので、仮説としては、
①グリム童話の「ねむの木」の中に印象的な詩が載っている
②それを英語圏の誰かが押韻詩として抜きだして、編集する ※仮説
③その誰かが抜き出した押韻詩を、ジェイムス・ジョンソン・スウィニーがセレクト。「three young rats」という本の中に他の詩と一緒に並べる。(並べられた他の詩の中にはマザーグースがある)
④谷川俊太郎が、「マザーグースのほん」を作るときに、底本の一つとして「three young rats」を利用。マザーグースの詩と同じ場所に、この詩が並ぶ。
⑤谷川俊太郎の「マザーグースのほん」を読んだ日本の漫画家は、「マザーグースのうちの一つなんだ」と思って、これらの詩を作中で利用しはじめる

こういう流れなのではないか?! と思っています。
②の検証が必要なんだけど、それをする気力は特にない
そもそも、「この詩の伝統的なメロディが知りたいな」と思って始めたことであり、「物語の中の押韻詩」であれば、楽譜は存在しない(マザーグースであれば、子守歌の文脈なので、楽譜があると思った)。がっかりだよ…!

という覚書。

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