夏とツナ
日本の夏。
温室効果ガスとCOVID-19のせいで、ぼくの知っているこの国の夏はすっかりと変わり果ててしまった。日中の屋外に出ようものなら命の危険に曝されるようになり、花火大会が全国各地から姿を消して既に3年目を迎えた。
体力と食欲と娯楽を奪われてしまって、日本の夏なんて大嫌いだ、なんて口にする人の姿を見かけることも珍しくなくなってしまった。なんとも嘆かわしい状況である。はたして、ぼくたちは日本の夏をこのまま忌むべき存在にしてしまってもよいものなのだろうか。
否。断じて否である。
春夏秋冬から夏が消えれば「しゅんしゅうとう」となり、何だか頼りない国政政党のような名前になってしまうし、四季の歌から"夏を愛する人"がいなくなることは、ただでさえ影が薄くなりつつある日本の父親の存在感が、節約志向が高めな家庭のカルピスのようになってしまう。
そのような事態を回避すべく、私が今回取り上げてみたいのが夏のツナである。
日本の夏と日本のツナ。夏にツナについて思いを巡らせることにどれだけの意味があるのかについて、真剣に考えたことのある人はそれほど多くないと思う。だからこそ、ぼくはこの機会に考えてみたいのだ。夏とツナについて。
まずは下の動画をご覧いただきたい。
おわかりいただけただろうか。そう、英語ではツナはtunaであり、この単語が持つ音をカタカナ表記すれば「トゥナ」に近い音となる。ぼくがここで言いたいこと、それは
女子が発音する"tuna"は圧倒的にかわいい
ということである。残念ながら、今回引用させていただいた発音女子は、女子が発音するtunaが持つ音の魅力の半分も引き出すことができていない。ぜひとも、みなさんには映画やドラマで、本場の英語女子がtunaと発音するのを聞いてみて欲しい。これがぼくの偏った性癖では決してないことを理解していただけるはずである。
彼氏/夫「コンビニでおにぎり買ってくるけど何がいい?」
彼女/妻「tuna❤」
こんな会話をするだけで、夏の暑さなんかどこ吹く風のホットないちゃいちゃタイムが始まること請け合いなのである。そう、tunaの発音のかわいさは、夏の暑さなど吹き飛ばしてしまうほどの暴力性を備えているのだ。
さて、次にご紹介する夏のツナの魅力は、
ツナはナンバー2の証
であることである。ここでも、まずは以下の記事をご覧いただきたい。
ツナ缶といえば缶詰食品の代名詞、というイメージが皆さんのなかには強いと思うが、実は、消費量ベースでは数年前にツナ缶はその王座をサバ缶に譲っている。つまり、「ツナ缶は好きだけど、人気ナンバーワン商品を食べるのってなんだか流行りに乗っかているみたいで気乗りがしない」という、人間誰しもが抱きがちなあの気分を感じることなくツナ缶を食べることができるのである。
「推しメンがいるけれど、その人はグループ内でも人気ナンバー1だから、みんなと同じだと思われたくない」
「ほんとに気に入って使っているコスメなのに、店員さんに”あんたも量産型か…”なんて思われたくないから、つい別の商品を買ってしまう」
おそらく皆さんも、このような気分を味わったことがあることだろう。ナンバー2だからこそ推せる。ナンバー2だけど推せる。それがツナ缶なのである。
最後に、ツナの最大にして最強の魅力をお伝えしようと思う。それは、
ツナは夏の食欲不振を吹っ飛ばしてくれる!
ことである。
みなさんはツナを使ったどんな料理がお好きだろうか。お寿司のツナサラダ、ツナとキャベツ/ピーマンの炒め物、あるいはソーミンチャンプルーの具材として、といったところがポピュラーなものだろう。
ここでぼくの秘中の秘をご紹介したい。それが玉子かけご飯のトッピングとしてのツナである。
玉子かけご飯の世界には、真の玉子かけご飯好きだけが参戦することのできる、トッピング派閥闘争というものがある。シンプルな青ねぎ派、ちょっとリッチな釜揚げシラス派、あるいはポテトチップスふりかけ派と、もはやどこかの宗教の宗派争いがかわいく見えてしまうほどの熾烈な争いが、有史以来、繰り広げられてきた。
猛る日照り、しつこい湿度、奪われる体力。日本の夏はこれらの要因で、とにかくぼくたちの食欲を奪ってゆく。しかしながら、こんな時にウナギを食べるのは全くの素人判断である。ウナギは、冬眠に備えて栄養を蓄えた晩秋が旬の食材。養殖モノが主流とはいえ、ウナギがそもそも夏バテしている夏は、一年で最も彼らをおいしくいただけない時期なのである。できる男、わかっている女は、ツナをトッピングした玉子かけご飯をさらりと流し込む。これこそが、ぼくが提案する夏バテ解消法である。
玉子の味と栄養価は単純に値段に比例する。玉子を味わうからこそ、玉子1つあたりの単価が20円を越える商品を手に入れることができれば最高である。炊き立ての白米に玉子を割り乗せ、適度に油分を切ったツナを適量乗せるだけで、夏にふさわしい至高の玉子かけご飯の完成である。好みでゴマ油などで風味を加えてあげてもいいかもしれない。あとは、よく混ぜて食べるもよし、玉子の絡まっている部分といない部分との食感の違いを楽しむもよしである。
ここでひとつ注意が必要なのは、間違っても、カツオを使用したツナ製品を掴んではいけないということである。ツナとは本来"マグロ"を意味する英語をカタカナ化したものであるが、日本の緩い表示基準では、例え原材料が”カツオ”であってもツナ缶を名乗ることが許されてしまっている。しかし、そこにはヒラメのえんがわとカレイのえんがわ程の違いが存在している。
ツナを語るカツオを食べることなかれ
これは、えんがわと言えば”ヒラメ”、ツナと言えば”マグロ”といえる大人になりたいと思いながら生きてきたぼくの魂の叫びでもあるのだ。
というわけで、今回は「夏とツナ」をテーマに、”私たちは一体何を読まされているのだろう”という気持ちを皆さんの心に湧かせることを主眼においてここまで書き進めさせていただいた。これを読んでくれた皆さんのうち一人でも、玉子かけご飯にツナをトッピングして食べてみることを試してくれる方が表れてくれるのであれば、筆者としてはこのうえない喜びである。
最後に、皆様の元に豊かな夏のツナライフが訪れることを祈念して、結びの言葉とさせていただきたい。
おしまい
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