今夜、すべての5GHz帯で

ある日、自室からインターネットが消えた。料金未払いによる回線遮断。返信が必要な連絡が来ていないかをチェックするためにコンビニに行ってWi-fiを拾う。コンビニのWi-fiには接続制限がある、ということをはじめて知った。電波だけ盗んで何も買わずに店を出た。今、この文章は広島PARCO前にて、スターバックスの電波を盗みながら書いている

日々、自室でインターネットにアクセスしていた。目的もなく、無意識にSNSのアイコンを叩いてみたり、情報サイトを眺めてみたり。LINEやメールなどで人とコミュニケーションをとったりしていた

休みで予定のない日だったので1日中家にいたが、何をする気も起きず18時には眠ってしまった。日付が変わる前に目が覚めて、またコンビニに電波を拾いにいった。電波泥棒の罪悪感から、菓子パンをひとつ購入してかえった

家に着いて、購読している山下陽光さんのメルマガを読んだ。山下陽光さんのメルマガは9月末に登録した。毎日30行くらいの箇条書きが送られてくる。今回、全ログをチェックしてみると10日分くらい未読のものがあった。アイデアや出来事がすごい早さで綴ってあって、おもしろい

酒を飲んでみてもそわそわして落ち着かない、楽器を触っても心ここに在らず、頭の片隅にずっとインターネットがいる。故人を偲ぶような気持ちで突然いなくなった彼のことを考えている、完全に依存症だ

依存症といえば…と本棚から中島らものアル中小説「今夜、すべてのバーで」をとる。アル中の見る幻覚の一種に“ピンクの象”がある、という記述があった

「ピンクの象が見たいので飲酒に付き合ってくれませんか」と友人が言ってきたことがある。酒量が限界を超えるとピンクの象の幻覚が見えることがあるらしい。興味深いので誘いにのって、粗悪な酒を買い込んで何人かで長い時間飲み続けてみた。結局、いつも通りの楽しく虚しい時間がだらだらと過ぎるだけでピンクの象を見ることができたものはひとりもいなかった。昼から飲んでいた友人は明け方布団に倒れ込み、次の日を棒に振ったらしい

一晩で一冊を読み終えた。これは快挙だった。この数年、本を一冊読むのに半年から一年かかることも珍しくなかった。脳が文章を処理することができなくなっていた。インターネットのことを忘れて夢中で読みすすめた。巻末の対談を読み終えるころには精神が満たされ、気持ちよく眠ることができた。普段は目が乾燥するまで画面を眺めてから眠っているので、こちらの方が幾分か健康的だ

インターネットという仕組みがあり、ここ数十年の情報や愚痴の累積に手足が生え、愛嬌をもって、人格があるように振舞っている。もうすぐ、回線が復活する予定だが、それまでのつかの間、彼の不在を楽しむことにしよう。たまに回線を切ってみるのもいいかもしれない。そこにいてもいなくてもぼくの気持ちはかわらない、ありがとう、インターネット


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12/1と12/10に横川でイベントを開催します。

原田茶飯事、ハルラモネル、ムカイダー・メイ、ふるかわののこ、畑拓朗など素晴らしい演奏家たちが沼の町にやってくる

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