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吹雪の中を歩いている

白い視界に銀のひび割れがちらついている

何も見えない

何も感じない

 

なんでこんなことになってもうたんやろう

どうやって思い出したらいいか分からない

思い出すというのは現在を軸に過去を探る作業だから

いま自分がどこにいるのか分からない人間にとって

それはとても困難です

いま、わたしは道理を説いています

 

最近はなにもかもがよくない

なにをやってもおもろない

ひねってもひねっても枯れきった蛇口

まわりのやつらはアホばっかり

なにより自分がムカつくほどおもろない

 

だから旅に出たかった

誰も知らないところへ

そのナレの果てがいまのこの感じ

 

旅に出るにあたり

まずおれは楽天トラベルへアクセスした

(アクセス)

魅力的な旅行商品がたくさんあって

ああええなあバリとかええよなあ

でも高かった

そもそもパスポートは切れてる

もう一度つくるんはダルい

ダルいからもうええわと思った

 

でも旅をまだ諦めきれず

HISとかじゃらんも見た

左手にタバコを持ったまま

片手でアクセスした

(アクセス)

 

魅力的な旅行商品がたくさんあった

ええなあ四国とかもええなあ

でもなあ

結局めんどいし、あほらしなって

(あほらし)

気付いたらここにいた

 

吹雪の中を歩いている

何も見えない

何も感じない

 

どこかで松坂慶子が泣いている

ゲイバーのマスターが死んだと泣いている

おれは松坂慶子の鎖骨のあたりをじっと見つめている

松坂慶子は視線に気付かないふりをしつつ、

瞳をうるわせ鎖骨をおいっちにと妖しく蠢かせる

(おいっちに)

 

吹雪の中を歩いている

何も見えない

何も感じない

 

おでんの大根と厚揚げが腕を組んで踊っている

にっこにこの笑顔で

おでんはいい

おでんこそ正義

そう、いま、わたしは道理を説いています

 

吹雪の中を歩いている

何も見えない

何も感じない

 

20221105

鼻をすすりながらおれは

コトバのことを考えている