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額縁を持って街に立つ

額縁のふちだけをかかげて、街に立つ。
どだい、切り取った矢先に
反対側からおれも切り取られる寸法やから、
寝起きのままの、むくんだ眼(マナコ)で、
誰にやらされてる訳でもないのに、
やらされてますねん、かなんわあ、
というふうな表情をこさえ、
ため息もつきつつ、街に立つ。
 
額縁のふちだけをかかげて、街に立つ。
なんのために?
なんやったっけ?
なんでもない平日昼間の商店街は、
にもかかわらずエラい人出で、
無遠慮に投げつけてくる。
 
むき出しの冬と、
なけなしのラブと、
あやかしの夜と、
昆布出汁の汁。
 
目の前のハンバーガー屋では、
そこそこに歯の出た、
これぞ、ひょうきん者といった
学生らしき男が、
たんぽぽの綿毛を吹いていた。
そういうふうに見えた。
 
見えたというか、そんなことを勝手に想像してましたよっていうか、そうやったらおもろいなという、ええ、はい、アホの戯れ言で、いや、アホというのはぼくのことです、あー、気を悪くさせるつもりは、ええと、ひょうきん者と言ってしまったのも、うん、確かにちょっと調子に乗り過ぎたというか、はい、すみませんでした。
 
ああ、自転車を漕ぎながらチャックを閉めるのは難しい。
 
承認欲求と嘲笑ばかりの地球を出て、
たとえば火星なんぞというところに行ってみたい、ものよなあ。
降って湧いたポエティックな気分に
ほろ酔って、台所でちょっと踊る。
 
額縁のふちだけをかかげて、街に立つ。
すべての税務署が、ダンスフロアになればいい。
あー、ここでもまた、奇をてらって誤魔化そうとしている。
なさけなくて三点倒立しつつ、それでも書く。
ぬるぬるの濁った気配のなか、
おれは、いつか無くしてしまった、
黒い消しゴムのかけらを、性懲りなく探している。
 
額縁のふちだけをかかげて、街に立つ。
卑屈な笑みを浮かべながら、いずれ骨になる。
無邪気に、ハツラツに、今を生きる。
 
むき出しの冬
あやかしのラブ
昆布出汁の夜
ソーセージの汁