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UFOを呼んでいる

まあ しかし
かなんな しかし

気付けば
また
だいじな試験会場に
分度器だけを持って来ている

暑いさなかに
青い夜中に
時のまにまに
えりえりれまさばくたに

さて
ご懸念の
例の中年男性は
しきりに
アレをほじくり出しては
こけつまろびつ
少年のような瞳を潤ませ
ツェッペリンの移民の歌を
ヨーデル風にアレンジして
歌っている

天を仰いで
まあまあの声量で

ふざけているのではないことは
その真剣な表情から ありありと
ボンバイエ

FocusのHocus Pocusのようだ
そう言えばきっと
ああなるほどと
あなたは
パーカッシブに
膝を打つだろう

しかし
どれだけ打とうとも
ほんとうの意味で
膝を打ったことには
決してなりはしない
のだけれども

私はひらりときびすを返し
分度器とコートを給仕に預け
泡のきらめくグラスに口づけると
先ほどから足元にしゃがみ込み
サラミスティックを熱心にしがみ続けている
あなたに
それとなく尋ねた

しかるに
UFOを呼んでいるのだという

タカラcanチューハイを
ちびりちびりとストローで吸い上げながら
それが彼のやりかたなのよ

壁にくっついた吸盤を剥がそうとするも
なかなか剥がれず
爪を隙間にするどく突き入れながら
あなたは言う

UFOを呼んでいる
歳をとるたび なにかを失っていく
得たのは 贅肉と後悔と諦めばかり
そのことを知ってほしくて

UFOを呼んでいる
遠い夏雲
むせ返る蝉の声
よろめく視界に立ちのぼる誰か
あの日のことを忘れたくて

UFOを呼んでいる
雨粒に浮かぶ流線型の風景
頭の中で流れっぱなしの流行り歌
あのとき改札を抜けなければどうなっていたのかを知りたくて

UFOを呼んでいる