4. 異型と分化度

ここで登場する重要なワードがまず一つ目が「異型(性)」だ.似た様な言葉に「異形成」があり,間違わないようにしてほしい.異型と異形成という言葉は意味や使われる文脈も結構似ているが,慣習的にこの文脈ではどっちを使ってもよく,あの文脈ではどちらかしか使わないという暗黙の了解がある

(まぁ実際臨床の先生はよく間違えて使っていて,混同しても実際は問題ないのかもしれないが).

・「異型性」 正常組織や細胞と形態的に異なることを表す.すごくおおざっぱに言えば「細胞や組織が悪そうな顔立ちをしている」ということ.
・「異形成」 正常とは異なる変化・増殖の事を示す.すごくおおざっぱに言えば「正常とはかけ離れている」ということで,もともとは腫瘍以外で使われていた言葉が次第に腫瘍について使う様になった

「異型性,異形成」いずれも(必ずしも)腫瘍性変化をさしているとは限らないことはよく覚えておく必要がある.もっと言うと良性病変や感染による形態学的変化でも使うことがある.

もう一度くり返し言うが,正常からどれだけ離れているか,という形態的な距離を表しているに過ぎない.

細胞診のスクリーナーや病理医は「この細胞には異型があるから癌を疑う」とか「この腫瘍には異型は目立たない」などと話をしている.その異型とはなにかについて具体的に見てみよう.

異型は大きく,細胞レベルの異型構造レベル(≒組織,細胞が集まり一定の構造をなすもの)の異型に分けて説明することが多い.いずれにしても基本的には「正常の細胞,組織から形態的にどれだけ離れているか」に着目している.

1. 細胞異型 cytological atypia
大きく分けて細胞質と核の 2 つにスポットを当てて判断している.

細胞質に焦点を当てた場合:細胞の大型化,不整形化,そして細胞質の好塩基性変化によるリボソームの増加等(≒ タンパク質の合成↑を反映)が見られる時に異型があると判断する.
核に焦点を当てた場合:核が大型化することにより細胞質体積が小さくなるために核/細胞質比 (N/C比) の増加がみられ,大小の不同,クロマチンの増量や粗大化,核形不整(核の形が丸や楕円形からかけ離れていく),異型核分裂像(通常は 2 分裂する核が 3 分裂してしまう等)の出現が見られる時に異型があると判断する.これらの所見で腫瘍に特異性があるわけではないのだが,異型核分裂像が見られた場合には基本的に腫瘍性,特に悪性を念頭に考える,というくらい特徴的な所見である.

2. 構造異型 structual atypia
腺構造などの形,分岐,大きさの異常,核の配列の乱れ,極性の乱れ(正常では横一列に並んでいるものがばらばらになっているなど),細胞重積などが見られたとき,構造異型があると判断する.

構造異型を判断するためには,その組織の正常構造を知らないとどれくらいかけ離れているのかどうかを判断することが出来ないため,組織学や解剖学の勉強はとても大切.

「異型」は上記の細胞異型,構造異型によって決定され,何を重視するかは臓器,疾患によって細かく分類されているけれども,おおまかには同様である.

もう一つ注意しないといけないことは何度も繰り返すが,異型があるからといって必ずしも腫瘍であるとは限らないということ(異型があること ≒ 腫瘍であり,完全なイコールの関係ではない).この点は病理診断で誤診しやすいポイントで,実際には病理診断の専門家も間違えるくらいだから,初心者が気にしてもしょうがないことではある.

さて,この異型があるとわかった時点で,その異型の程度を半定量的に評価するためには一般的に「異型度」という指標を用いている.正常の組織とどれだけ隔たりがあるか,その隔たりの程度を「軽度・中等度・高度」で表し,例えば「軽度異型の腺腫」などと表現する.当然,隔たりの程度が高度になるほど悪性寄りを示すことが多い

ここでもう一つ,「分化度」という言葉を理解しておく必要がある.

発生母組織を基準にし,「異型性」で見た形態的な差に加え,機能的な発生の度合いも加味した表し方を指している.大雑把に言えば,もともとの組織にどれだけ機能的に近いかということ.標本上では実際に細胞が動く様子をとらえることは出来ないので,例えば腺癌であれば腺の構造が残っており,粘液を産生していれば分化した状態と判断し,扁平上皮癌であれば角化が見られれば分化した状態と判断する,といったように解釈している.

その分化の程度をもって,発生母地の構造を模していれば高分化で予後は良好.発生母地がわからないくらいに形態が不明瞭(例:転移性腫瘍)であれば低分化(腫瘍の種類によっては,脱分化とか退形成とか言ったりもするが,本質的には非常に分化度が低いと言うこと)と表現している.分化という言葉については別のところでも紹介している.

異型を判定して,次に分化度を考慮し,さらに良悪性の判断を行って最終的に腫瘍の診断をしている.

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