8. 腫瘍の肉眼所見その 2

ここで壊死について一言述べる.なぜならば,壊死(=細胞が死ぬこと)があるということは

一般に腫瘍が大きくなるためには栄養が必要で,その栄養は血管が運んできてくれる.よって,腫瘍が大きく成長できるかどうかはうまく血管を誘導できるかにかかっている(ちなみにベバシズマブ(アバスチン)という分子標的薬は腫瘍の血管新生を抑えることで作用を発揮している).

しかしながら腫瘍,特に悪性腫瘍は増殖のスピードが速く,腫瘍細胞自体が作る血管は突貫工事みたいなものになってしまい,頑丈ではない.だからちょっとしたことですぐ詰まったり破れたりする.すると当然周囲の腫瘍細胞は栄養が行き渡らずその部分が壊死に陥ってしまう(この細胞の死に方を凝固壊死,という).この壊死の場合はぶよぶよとした,出血が見られ汚い感じになる.

一方で良性腫瘍の場合はゆっくり増殖するため,血流の要求も比較的少なくて済み,血管は比較的頑丈なものを作ることができる.よって壊死は起こりにくい.

もっとも良性腫瘍とはいえども,とても巨大なもの(例:子宮筋腫,30 kg くらいまで大きくなることもある)になるとさすがに血管が追いつかなくなるので,そのときはゆっくりじわじわと腫瘍細胞が死んでしまう.そのような細胞の死に方は硝子変性という形で表される.悪性腫瘍の壊死に比べて均一で出血も目立たない.

何でもかんでも例外を提示すると混乱するので,ここからは余裕のある人だけ見てくれたらいい.

良性でも出血や細胞の異型が見られることがある.神経鞘腫 neurilemmoma (シュワノーマ Schwannoma という別名を持つ)は末梢神経の構成細胞であるシュワン細胞が腫瘍化したもので,良性腫瘍である.しかし,長期間経過すると,シュワン細胞に異型が見られたり,また腫瘍内に出血を来すことがある.今までの話からすると悪性をより考えたくなるが,神経鞘腫にはシュワン細胞の異型や出血はあっても良いと言うことになっている(神経鞘腫は悪性化することは極めて稀であり,誰がどう見て悪い!という像を呈さない限りは多少の出血や細胞異型が見られていても,原則良性として扱うことになっている).

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