9. 癌と肉腫,組織型の付け方

癌というキーワードはこれまでもなんとなく使ってきたが,ここで初めてきちんと扱う.

・癌,がん,ガン

この 3 つのがんにはそれぞれ意味がある.

1 つ目の「癌」は上皮性の悪性腫瘍を指している.一般的に使う「癌」という言葉はもっと広く意味をとられがちなのだけれども,あくまで上皮性かつ悪性のものに対して用いている.
2 つめの「がん」は上皮性,非上皮性を含めた悪性腫瘍全体を指しており,場合によっては腫瘍全般を指していることもある様な気がする.
3 つめの「ガン」を医学的な文脈で使うことはなくて,一般書(家庭の医学や啓蒙書など)で象徴的に使われている.

「癌」が上皮性の悪性腫瘍であれば,非上皮性は?ということになるが,非上皮性の悪性腫瘍は「肉腫」と呼んでいる.血液系腫瘍や脳腫瘍も非上皮性腫瘍になるのだが,一般的にはこれらを含めないことが多くて(理由は簡単,対応が別に必要だから),その例にならって記載する.

癌の組織型は上皮性なのか間葉系(非上皮性:間質を構成する細胞)なのかの違いに加え,良性か悪性かで,主に 4 つに分類され,それぞれ大まかな呼び方がある.

1 つ目は「上皮性良性腫瘍」.これらには語句の末尾に「腫」という言葉が付く.例としては,腺腫や上皮腫が挙げられる.
2 つ目は「上皮性悪性腫瘍」.これには末尾に「癌」が付く.扁平上皮癌,腺癌,尿路上皮癌,肝細胞癌が例として挙げられる.
3 つ目は「非上皮性良性腫瘍」.上皮性の良性腫瘍と同様,末尾に「腫」と付く.線維腫や平滑筋腫などが挙げられる.
4 つ目が「非上皮性腫瘍悪性腫瘍」.これには「肉腫」が付き,線維性肉腫や骨肉腫,脂肪肉腫,血管肉腫,平滑筋肉腫等である.

今挙げたのは比較的古典的な腫瘍の命名法で,最近の流行りとしては,上記方法に加えて腫瘍が有している遺伝子変異をつけた命名をしていることが多いし,もともと知られている疾患でも遺伝子変異を加味した診断名になっていることもある(例:AML with BCR-ABL1, Medulloblastoma, WNT-activated).

上皮,非上皮の区別というのは診断治療をする上で,このような区別の方が有益だというのは先ほど述べた.実際に癌(上皮性悪性腫瘍)は浸潤性のためリンパ節転移しやすく,肉腫(非上皮性腫瘍悪性腫瘍)は膨張性・血行性転移をする傾向がある(あくまで傾向!例外は当然たくさんある).

実際,化学療法を行うときも,腫瘍の組織型はさておき上皮か非上皮かでメニューが変わることがあり,臨床の先生から「癌ですか?肉腫ですか?」なんて聞かれることもしばしばある.

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