病理後期研修医と病理診断専門医の実力と研修について

とりあえずこういう記事を書こうと思ったきっかけは

その中の一連のツイートで種々の意見が展開されているがどうも自分の感覚と異なっているので,ここで情報を整理しつつ意見を述べることにした.

病理の後期研修医は役立たずのゴミ?

後期研修医は確かによく上のツイートのように,言われる.それは後期研修医は一人でサインアウトすることができず,専門医を取得して初めて一人でサインアウトすることができるようになるから,ということ.それまでは誰か専門医に頼らざるを得ない状況があり,いわゆる「半人前」だということ.

その指摘は半分は正しい.なぜならば今の(厳密には法律や文言でのルール決めはされていないものの)状況下ではそうなっているから.病理業界のコンセンサスとしてそうなっているから.

しかしながら役立たずのごみかどうかは,当該研修医の実力に依存するし,もっというと指導する側の意向にも依存している.

どどたん先生もレジデントのときには同じような事を考えていた

病理を始めて数年経過すると診断できるものが増えてきて,少し勉強すれば専門医の先生の実力を超えるような知見を身につけることができる(これは病理自体の範囲が極めて広いことに由来している).

そしてちょっと(だいぶ?)できない専門医の先生を横目で見ながら(この人と比べたら自分のほうが上だわ!とかね),せっせとセカンドの先生に標本を提出していた(確かどどたん先生の研修病院では病理歴が 2 年目くらいで triple -> double になって,チェックする先生と二人で出すようになっていたので,実は専門医の有無はあんまり関係なくなっていた).

大体 8-9 割くらいは所見が変わらずに出されていたので,結局チェックする人の仕事って 1-2 割じゃん!!と思っていた,当時は.

しかも面倒だなぁと思っていたこととして,それ一週間前に診断した症例なんですが,いまさら振り返られても忘れていますよ!というものも少なからずあった.「これなんだけど,,,」と言われても「どれですか!!」となることもしばしばあった.というわけでチェックされるのは結構嫌だった笑

チェックする側になって意識が少し変わった

職場を移ってからは,他の先生のチェックをするようになった.チェックするのは研修医であったり,専門医資格を有する他の先生の症例だったりだけど(管理加算 2 のため).そのときにチェックするのが実は大変なことなんだということに気づいた.当たり前だけど.

ファーストで書いている先生はその先生なりのロジックで論理展開がなされており,その論理展開をなぞった上で,内容が適切かどうかを判断し,また最後は誤字脱字の有無をチェックする.たびたび聞くのも面倒なので,ある程度じっくり読み込んでロジックを理解した上で論理破綻がないか,診断が間違えていないかを精査する.所見や診断が合っていたとしても,その作業は必要だし間違えていたとしたら直さなくてはならない.

研修医であればここがおかしいと指摘しやすいが,相手が専門医だと慎重に言葉を選ばないといけない.「先生,これ誤診っすよ!」なんて面と向かっては言えないので(相手にも立場があるから),こそっと修正したり,こういう可能性はどうですかねーなどと自己反省を促したりと結構気を使う作業でもある.もちろん研修医相手にも気を使っていて,人格否定にならないように言葉を選んでいた.

いつも言っていることだけれども,間違いを認めるということは自己否定にほかならないわけで非常にメンタルを消耗するので,立場上常に間違いを指摘する側に立った圧倒的有意な立ち位置にいるものとしては普通に自分の目線で話すことが実は相手を傷つけているということを肝に銘じておかないといけない(パワハラになってしまう).病理界隈でパワハラが多いのも,研修医の自由度がなく,かつ指導医が絶対的に正しいという構図が常に成立しやすいのがその一因

病理の研修医は結局役に立つのか立たないのか

ここからも持論.どどたん先生としては研修医は常に学習効率を意識してトレーニングに励むべきだと考えている.なぜならば昔の病理研修は 5 年でそれが 4 年になり,さらに短くなり最近では 3 年で専門医が取れるようになっている.常識的に考えて,2 年間短縮されているわけで,じゃあそれをお義なような取り組みをしているのかというと,多分誰もしていない.がんばってね?という感じ.

我々専門医から見て,手足の用に使うと思えば使える.とても簡単なこと.定型的な切り出しを中心に研修医にさせて,難しい症例は自分で切る.診断も習熟曲線が早くプラトーになりやすい消化管生検や子宮頸部生検を中心に見させ,直すのが大変な皮膚や腎,肝生検などは自分で見る.皮膚や肝臓などの面倒なやつは慣れてからでなんなら専門医を取ってからでも十分,と考えると,意外と業務は回るかもしれない.

でもそれをすると多分試験には受からない.もちろん昔みたいに 5 年の研修期間であれば常識的だったかもしれないけれども今は 3 年でコンプリートさせないといけないので,はっきり言って雑用をさせている暇はない.もちろんしてもいいのだけれども,本来やるべきことをきちんとやってもらわないと色んな意味で時間切れになってしまう.

そのため 3 年を意識しようとすると,研修医に対して与える症例や指導もある程度綿密にならざるを得ない.昔なら自分で調べろ!で済んでいたものが,今では参考にすべき本や論文まである程度ガイドしてあげならが指導しないといろんな意味で時間が足りない.ましてや子育てなどをしている世代先生には相当補助輪をつけてあげないと絶対無理と言い切れる.そんなことをしていると研修医がいないほうが楽なんじゃないかと思うことがある

もう一つ重要なファクターとしては半人前とみなされているので実力が身につきにくいということ.どうせ上司が直してくれるからいいや,わからなくてもいいやという意識が上達から遠ざける.自分しかいない!という危機感を覚えることが本当は上達の近道なんだけど,それってメンタルを削ることにもなるので万人に勧められる方法ではなく,ドロップ・アウトさせない!という方針のどどたん先生としてはなかなか受け入れ難いものがある.

最近の悩み

4 月から 2 人の先生のチェックをすることになりそうで,ちょっと先行き不安なところ.もちろん物理的に仕事量が増えるのは当然ながら,フィードバックが遅くなる可能性を危惧している.知識というのは必要な状況下で与えられて始めて意味があるもので,機を逸すると意味が激減してしまう.また教科書を cover to cover で読むというのは実は効率はそんなに良いわけではない(どちらかというと知識を身につけるための棚を作るようなもの).

診断直後にもらうフィードバックは悩んだことと合わせて記憶に残りやすいが,数日後に「この症例なんだけど,,,」などと言われても記憶が薄れていく.これで十分な研修になるかというと難しいかなと思う.

まぁとりあえず彼らが専門医試験を受けるまでだからしばらくはちょっと夜遅くまで仕事をするかな.

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