2. 疾病分類とはなにか

腫瘍とはなんだろうかという話をする前に,まず腫瘍は病理学という学問,病理診断という診療の中でどこらへんに属しているかを理解しておくことにする.つまり病理学総論全体の枠組みの中で「腫瘍」がどういう立ち位置なのかということ.

そこで病理学総論の枠組みである「疾病分類(しっぺいぶんるい)」という言葉が登場する.疾病という漢字は「しっぺい」と読む.どどたん先生は長い間「しつびょう」と間違えて読んでいてちょっと恥ずかしい.

疾病分類は内因性疾患を 5 つのグループに分類したもので,ざっくりというと,内因性疾患(交通事故など外的な要因以外で起こる疾患)の似たもの同士をグループにまとめたもの.例外はあれど,全ての内因性疾患はこのどれかに一応分類されるということになっている.

この「疾病分類」という考え方は結構古くに作られたもので,今の病気の分類からすると結構割り切れないものもたくさんあるのだけれども,思考の整理には役に立つので,知識の棚としてとらえておくと良い.

以下に各グループの特徴と疾病を簡単に挙げたいと思う.

先天異常:発生途中,つまりお母さんのお腹の中にいるときに発生する異常で,口唇裂(こうしんれつ)や心房中隔欠損症などがある.これは詳しくは総論と主には各論で学習することになる.
代謝障害:代謝とは物質の分解と合成のことで,これらの過程は全ての細胞内で行われている.代謝障害は全ての細胞が影響を受けるために全身性疾患が多い.糖尿病や痛風などがある.
循環障害:具体的には血液とリンパ液循環の異常であり,脈管が詰まった,破れた等のトラブルが当てはまる.心筋梗塞や脳出血などがある.
炎症と免疫:組織障害因子を除き,組織損傷を修復する反応過程である.例外もあるが,肺炎や肝炎,あるいは膠原病といった自己免疫性疾患のほとんどがこれに含まれる.

そして5つ目が今回の主役である「腫瘍」.腫瘍の詳しいお話はこのあとのお楽しみにさせて頂きたい.

各疾病はその成り立ちから上記の各グループに分けられる.あるグループから別のものに移ることもあり,その際には重症化あるいは重大な転機となりうることが知られている.

その例としては糖尿病を考えてみる.「代謝障害」の一つである糖尿病は,動脈硬化を起こし「循環障害」である心筋梗塞になると致死的になりうる.さらに,動脈硬化により好中球の遊走が障害されるなどして,「炎症と免疫」である感染症を起こしたりすることもある.心筋梗塞や感染症は糖尿病にとって重大な合併症と言える.

また「先天異常」であるダウン症候群は,「腫瘍」である白血病をおこしやすいことが知られている.このように各疾病は個々のグループに分けられるが,重複あるいは移行しあっている.

今述べた考え方というのは,普段意識することは少ないし,知らなくたって通常の業務は行うことができる.しかし,もしわからない病気を診たときに,何をどう考えればよいかという道しるべになる.

例えば,発熱の患者さんが来たときに,普通は風邪「炎症と免疫」を思い浮かべるけれども,もし局所的な発赤,熱感であれば,塞栓症の可能性「循環障害」もあり,また担癌患者(癌を有している患者をこう言う)の場合であれば腫瘍熱「腫瘍」も考慮すべきと,病気の捉え方に幅が広がる.

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