タイトル

otava 1 Dubhe -ドゥベ- 生命の泉

  1

魔法

「ひとつ魔法を授かれば ひとつ大人に近づける」

魔女と契約しなければ 大人の魔法はもらえない
わたしの住む夜の長い村で ずっと続いてきた儀式

「いいかい よくごらん
 新月の夜 おまえはこの小さな泉に身を浴するのさ
 大人になりたいのならね」

いつも朝日を待つように わたしは夕暮れを待った
風が夜のにおいを運んできて 静けさにさざ波をたてる
水面に映るわたしのすがた

空が闇に染まり 月がすがたを消して 星々さえも輝きを忘れると
行き場のない光が黄金色に泉を満たした
わたしは光と交じりあうように 歩を進めていく

泉に波紋が広がるたび
そこに映るわたしの胸が お腹が 腰が お尻が
少しずつ大人の形にすがたを変える
そして冷たい水のなかで 自分の体温に気づく
からだのなかにわたしの知らないわたしが生まれた

呪い

「ひとつ魔法を授ければ ひとつ呪いが後を追う」

大人の魔法を欲するならば 大事なものを必ず失う
魔女が魔女になる前から ずっとくりかえされてきた儀式

少女の反応を待ちながら ゆっくり魔女は理を説いた

「かまわないわ」

少女はこどもらしい勇ましさをみせる
それならばと 少女の願いを聞き入れて 魔女は泉を指さした

日は落ちあたりが暗くなると 少女は泉のふちに立つ
魔女は窓辺に腰かけて 一部始終を見守っている

闇に埋もれた月光は 魔法で地上の月となり 生命の力を少女に宿す
月の満ち引きは 祝福であり 大人に科せられた呪いでもある

やがて太陽が昇り その鮮血にも似た朱の色が
泉を時とともに染め上げていくのを 魔女は窓辺で眺め続けた

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