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『凪の果て』前書き

今回も当日パンフレットは作成しませんので(配役表とオールスタッフリストは会場にて配布します。その内容は公演終了後にこちらにもアップします)、本来なら当パンに書くようなことをここに書いておこうと思います。

小劇場タイニイアリスの小屋主だった西村博子さんに、かつて言われたことがあります。

男の劇作家はたいてい女のイヤなところを書く、なのにあなたは男のイヤなところを書く、そこが珍しい、と。

特に自覚もなく、怒りを覚えた対象を人物や物語に反映させていただけのことでしたが、へえ、そんなものかと畏れ入りました。もう二十年近く前のことです。

その後も地味に演劇をつづけており、書きたいものを書きたいように書いてきました。作風の変遷、主題の推移はあれど、男のイヤなところを書いてきました。思いがけず、つい書いてきました。放っておいても出るのが作家性だと思っています。他人事のようですが、無自覚の領域こそが個性です。たぶんこれが自分の作家性なのだと思います。

そんな風に紡いできた数々の作品の先端に、いま『凪の果て』があります。二人の弁護士と、ひと組の夫婦と夫の愛人女性の物語です。近年鵺的で展開している作品に比べると地味な作風ですが、まぎれもなく自分の作品だなと思います。男性問題は女性問題で、女性問題は男性問題であるはずなのに、男性側では問題とされない女性側の数々の問題がある、この不均衡、この非対称。そんなことを考えたりしながら稽古を見ています。

あかるい話でもなければたのしい話でもありません。でもひょっとしたら本作では笑いが起きるかもしれません。もしここに登場する人びとに滑稽さを感じられたとしたなら、ほんの一瞬でもかまいません、「これは笑い事ではないかもしれない」「他人事ではないかもしれない」と思っていただけたら幸いです。本日はご来場ありがとうございました。

演劇ユニット鵺的
動物自殺倶楽部
主宰 高木登

追記(12/16)
本稿執筆後、12/14に西村博子さんが逝去されたとの報がありました。机上風景時代には西村さんのお言葉とご評価に大いに励まされたものでした。西村さん、ありがとうございました。ご冥福をお祈りいたします。



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