日淡オタクの神戸須磨シーワールド淡水展示レポ
こんにちは、どぶりあです。
つい先日、須磨海浜水族園がリニューアルオープンした神戸須磨シーワールド。
スマスイ時代は「さかなライブ劇場」や「世界のさかな館」「アマゾン館」など数多くの淡水生物の展示があり、我々淡水魚マニアには聖地のひとつとも言える施設でした。
リニューアルが発表されてどんな施設になるのかと期待したら、まさかのリゾート化計画にシャチを導入するという流れ…
淡水魚マニアが恐れるもの、水族館のリニューアル工事。
これはまずい!と思いながらも指を咥えて眺めるしかできず、2024年6月1日。ついにリニューアル工事は終了し、スマシーとして開館しました。
公式サイトやテレビ番組の宣伝ではシャチの存在が猛アピールされ、続いてイルカにペンギンに海獣類。すごい…ありきたりな水族館のスターだ…
そのアピールが悪いとは思いませんが、もっと地元らしさをアピールしようという動きはなかったのかと考えてしまいますが…
どのみちスマスイ時代とは大きくコンセプトが変わり、エンタメ方向に舵を切ってしまったようです。
また、無料開放施設の「スマ コレクション」の説明には何やら不穏な記述が。
……一部ってなに!?ほかの魚たちは!?
現(5月30日)時点で展示が明らかにされているのは
・ピラルク
・ロシアチョウザメ
・オーストラリアハイギョ
・ロングノーズガー
・パイユ
のたった5種。
他の大型魚たちはどこに行ってしまったのやら…
果たして実際の展示内容はどうなのか。
スマスイにいた大型淡水魚たちはどうなったのか。
繁殖までしていたナゴダルはどうなったのか(これが1番気になる)。
オープン初日に予約して行ってまいりました。
それではどうぞ!
オープン当日
時刻は9時半。大阪駅を出発しJR神戸線で須磨海浜公園駅まで向かいます。
本当は朝イチでも並んだら行けるみたいですが、めちゃくちゃ並ぶ羽目になるのが安易に予想できるので諦めました。
駅から歩いて10分。旧スマスイ、現スマシーに到着!
道路の向かい側からでもすごく人が並んでいるのがわかります。
これは当日購入の列らしく、事前予約の列は別になっているので並ぶことはありませんでした。
入園券はQRコードを読み取る形になっており、事前予約の場合はスマホに表示されるQRコードを改札に通すだけでOKです。
いざ入園
入ってすぐ目に飛び込んでくるのは、2頭のシャチが並ぶオブジェ。
いかにもテーマパークといった雰囲気。
左手側にはシャチの展示スペースが。右手側にはイルカの展示スペースがあり、淡水ゾーンはイルカの奥にあります。
僕の目的は淡水生物だけなので、シャチもイルカもスルーしてさっさと向かいましょう。
イルカスタディアムを3階まで上がり、ペンギンの横を通り抜けるとようやく淡水ゾーン(ローカルライフ)。ここまでめっちゃ歩かされました
日本淡水魚の展示
ようやく展示スペースとご対面です。
おおっ…これは…!
なかなか良い雰囲気になっていますね!
もっと間近で見てみましょう。
ここにある植物は全て本物が使用されており、本当に自然界にいるような匂いが漂っています。
少し進むと、自然光が差し込む大きな滝が表現されています。
滝の裏にはようやく展示スペースが。
上流域
まずは上流域の魚たちです。
解説タブレットに表記されていたものとしては
・オオサンショウウオ
・ニッコウイワナ
・アマゴ
・タカハヤ
・アブラハヤ
・カジカ
・カワニナ
の7種類で、一部はスマスイ時代からいますね。
里山
ひとつ気になったのが、この魚名板代わり(?)のタブレット。生態や食性などの説明が載っていない手抜き解説なのはスマスイからの伝統ですが、もう少し何か工夫があっても良いのでは?と感じました。
続いてはニホンイシガメのいる水槽。
ここにはイシガメの他オヤニラミ、アカハライモリ、スジエビの計4種が展示されています。
エビはカメに食われないんでしょうか?
中流
続いては中流域を再現した水槽。
こちらは全体像を撮影し忘れてしまいました…
オイカワ・カワムツの日淡2大巨頭をはじめ、カマツカやドジョウ、カワヒガイ、タモロコなどが展示されています。
ここの水槽は日淡展示の中でもっとも魚種が多く、
・アブラボテ
・ヤリタナゴ
・シロヒレタビラ
・イチモンジタナゴ
・オイカワ
・カワムツ
・ムギツク
・カワヒガイ
・タモロコ
・イトモロコ
・コウライモロコ
・カマツカ
・ナガレカマツカ
・ツチフキ
・ズナガニゴイ
・チュウガタスジシマドジョウ
・カワヨシノボリ
・ゴクラクハゼ
以上の18種類が展示されています。
魚たちも状態が良く、今の時期は多くの種で婚姻色が現れていて、熱帯魚にも引けをとらない美しさ!
スマスイ時代では小さめの水槽を複数に分けての展示となっていましたが、大きな水槽にまとめられた事により自然界と同じように群れを作る姿が見られるようになりました。
里山その2
そして里山水槽ふたたび。
この2つの水槽ではそれそれカワバタモロコ、アユモドキとスイゲンゼニタナゴが飼育されています。
スイゲンゼニタナゴはとても小さな幼魚がたくさん泳いでいたので、おそらく当館で累代繁殖された個体の一部だと思われます。
また、展示方法もスマスイ時代と非常によく似ており、担当の方のこだわりが感じられますね!
ため池
続いてはため池を再現した水槽です。
(この流れで下流じゃないことあるんだ…と感じたのは内緒)
中にはコイやウナギ、ニゴイといった中型〜大型の魚たちが展示されています。
…ん?
このコイ…何か変…
な、なんとコイ野生型ではありませんか!!
日本国内では絶滅寸前と言われているコイ野生型が、何の解説もなしにしれっと展示されている…
おそらくスマスイ時代から飼育されている個体と思われますが、こんなレアものを何の解説もなく展示しているなんて…
勿体ない…勿体なさすぎるぞ、スマシー!
シャチやイルカ以外にもじゅうぶんにアピールできる生き物や展示は沢山あるはずなのに、あえてしないのでしょうか。謎ですね…
日本の淡水生物(魚類以外も含め)は、39種類が展示されていることがわかりました。
一般的な水族館基準でいくと、かなり多くの種を飼育しているのではないかと思われます。
スマコレクション
察しのいい方ならお分かりかもしれませんが、有料ゾーンの淡水魚の展示は日淡だけです…
この内容は淡水魚オタクにとっては非常に悲しい事実であり、スマスイ時代と大きく変わった要素のひとつでもあります。
気を取り直して、スマコレクションを見ていきましょう。
こちらは無料開放ゾーンとなっており、すべての展示を見終わってからゲートをくぐることで閲覧することができます。
なお再入館はできません。なんて不親切な…
スマスイ時代にアマゾン館や世界のさかな館で飼育されていた大型の淡水魚たちは、ここで姿を見ることができます。
すべての魚種を撮影できたわけではありませんが、紹介していきます。
パイユのいる水槽には、コチョウザメとエンドリケリーが。
アリゲーターガーとヨーロッパオオナマズが一緒に展示されていたり…
オーストラリアかと思いきやヘラチョウザメが泳いでいて底にはガーがいる水槽。
種類はおそらくスポッテッドガーと、世界最高齢の個体含むロングノーズガー。
最後にアマゾン川の大型魚として、
・ピラルク
・ブラックコロソマ
・ピライーバ
・レッドテールキャット
・ドラードキャット
・ジャウー
の6種類が。
全て合わせて16種類の魚が展示されていました。
ここの展示は無料なので、神戸周辺に住んでいる大型魚好きの方はぜひ訪れてみてはいかがでしょうか?
ダルマガエルのゆくえ
すべての展示を見終わったあと、僕は途方に暮れていました…
ダルマガエルは…ナゴダルはどこに…行ってしまったんだ…
そう思いながらアクアライブ館の周辺をウロウロしていると、どこからか聴き慣れたあの声が…
「ギュエェェェ〜〜〜ッ…」
鳥の声じゃないよな…?勘違いじゃないよな…!?
ドキドキしながら音のする場所へ向かうと…
!!!
いました!!
ナゴヤダルマガエルはまだ、須磨にいたのです!!
姿を見ることはできませんが、確実にこの箱の中で飼育されているのでしょう。
正直、この事実を知れただけでここに来た甲斐がありました。
繁殖事業をしていたナゴダルや、かつてカメ池にいたカメたち、詳細はわかりませんがいくつかの魚類はこのバックヤードらしき場所で飼育が継続されているようでした。
いや〜、ひとまず安心ですね!
総評
神戸須磨シーワールドの展示を回ってみた率直な感想ですが、「よくもまぁここまでやってくれたな」と。
当初の計画から「須磨地区の再開発」「多くの人を呼ぶリゾート」といったニュアンスの文言が多く見受けられたのである程度の変貌は覚悟していましたが、まさかここまでになるとは。
民営化すれば収益を上げることが大きな目標となるのはもちろん理解していますし、人を呼び込むためには目玉となる展示(ここではシャチのショー)を大々的にアピールする必要があるのも分かりますが、水族館4つの役割のうち「娯楽の場を提供する(レクリエーション)」に重点を置きすぎているように感じました。
また、シャチやイルカを大々的にアピールするのは良いのですが、もしもの時(例えば災害など)でそれらのメイン生物がいなくなってしまった場合、どうやって立て直すのかというのも心配になりました。
世界的に鯨類の捕獲や水族館での展示が規制される流れや、シャチの追加導入は非常に困難であることなども踏まえて、メインではない展示のアプローチも必要になるのではないかと僕は思います。
展示生物について
スマシーはエリアが3つに分かれており、そのうち2つがシャチ・イルカの展示で、残り1つはペンギン・海獣・ウミガメと淡水・海水魚の展示。
明らかにシャチとイルカに場所を取られすぎて、残りの生き物を無理やり詰め込んだ感が半端ないです。
(案の定といった感じですが…)
2020年時点で、スマスイにおける生物の飼育種数は、淡水魚のみで163種類でした。
しかしスマシーで展示されていた淡水魚は、両生類・爬虫類を含めてもたったの55種類。
約1/3まで飼育種数を減らされてしまったわけです。
淡水魚だけでなく、多くの海水魚や無脊椎動物が他の施設へ譲渡されました。
それぞれの施設の老朽化も建て替えの理由としてあるとは思いますが、わざわざ何十種類もの生き物の展示スペースを潰してまでシャチを持ってくる意味はあったのかという疑問を抱きます…
6/3追記分
調べていくうちに、淡水魚だけでなくその他多くの生き物が展示対象から外されていることがわかりました。
個人調べの資料となりますが、約500種類以上が展示からリストラされてしまった訳です。
※スマスイでの飼育生物は「2020年4月1日 須磨海浜水族園における飼育生物一覧」のPDFと、2019〜2022年にかけて僕が実際に訪れて確認した生き物を。現在のスマシーで飼育されている生き物は、公式アプリに掲載されているものをそれぞれ情報源としています。
公式のメディアやインタビューなどでは「560種類を継続飼育」「スマスイ時代の生き物は9割残っている」といった記述が見られますが、ここで重要なのは「展示している」と明記されているわけではないこと(一部展示していると書かれてしまっている記事もありますが)。
これは先ほど記述したナゴヤダルマガエルの件のように、残った種類のいくつかはバックヤードで飼育継続となっているものと思われます。
しかし他施設に移動され、スマスイから完全に姿を消してしまった生物がたくさんいるのも事実です。
巨大な飼育環境が必要となる、ロウニンアジやシノノメサカタザメを筆頭とした大型海水魚や、ダイオウグソクムシやタカアシガニほか多くの無脊椎動物たちも展示からいなくなっており、他施設に譲渡された可能性が高いと推測されます。
また、両生類・爬虫類に関しては減り具合が尋常ではなく、一部のカメと有尾類以外がごっそり展示からいなくなっています。これマジ?
そうです、カエルもいません。ヘビもいません。ワニもオオトカゲもカメレオンもマタマタもスッポンもいません。56種類いた展示は、8種類に激減しました。
2021年に須磨海浜水族園より公開された「主な動物のお引越しについて」というPDFファイルには詳細が記載されているものと思われますが、なんと現在閲覧できません。検索してもヒットはするのですが、リンクを開くとスマシーの公式サイトに飛ばされてしまいます。残っている情報を集めようにも断片的すぎて、SNS上の個人の投稿や、他施設のサイトを探るしかないという状態にあります。
開館後に行って「あれ?あの生き物は?」となる人はそこそこの数がいると思うのですが、その件について公式に問い合わせようとホームページを漁ってみるものの神戸須磨シーワールドに関する問い合わせのフォームが無いという異常事態が(!?)。
問い合わせすらできないって、どこまで不親切になれば気が済むんだ…
(もし問い合わせフォームを見つけた方は是非とも教えてください)
なお、現時点で移動先が明確になっている生物をいくつか挙げると、
などがあります。
ここに記載されていない生き物はどうなってしまったのか、現時点では不明。
展示コンセプトについて
スマシーのコンセプトの一つとして「学ぶ」が存在しています。
ですがなんとここには説明パネルが一切ありません…
(そんな展示で何を学べと)
掲示されているのは、最低限の情報(水槽の名前と展示している生き物の写真、和名、学名)だけ。
その生き物がどういった性質を持っていて、どんな暮らしをしているかなどの説明はもちろん、例えば絶滅危惧種なら「なぜ絶滅が危惧されているのか」「絶滅を防ぐために我々はどうすべきか」といった説明すらありません。
その水槽はどんな目的で、何を見せるために作られたのかは明らかにしておくべきものだと僕は思っていたのですが、スマシーはとにかく綺麗な水槽を見せることを最優先にしているように感じました。
学びの要素を入れるなら、少なくとも須磨海浜水族園が掲げていた5つのテーマを入れるなり、下画像のように、それぞれの水槽ごとにキャプションを載せることのほうが、より多くの「学び」に繋がるのではないかと感じました。
また、スマスイ時代に多く見られた「生き物の特徴や習性を利用した展示」がまったく無くなっていることにも驚きました。
「学び」に関してはスマスイの方が圧倒的に上回っており、この要素は明らかに劣化したとしか言いようがありません。
その上、スマスイ時代にあった貴重な標本たちも跡形もなく消え去っています。
ホホジロザメの頭部やノコギリエイの標本、カモノハシやラッコの剥製、シーラカンスの模型、全てがありません。
流石に廃棄ということはあり得ないと思いますし、一部は神戸市の管理下になったとの情報も目にしました。
ただこれに関しては、「完全なリゾート施設に作り替えるにあたって、そこへ来る客層から見れば標本なんてただのグロいものとしか感じれないから、撤去もやむなし」という意見もあり、そう考えると少し納得がいくものとも感じました。
水族館での学びというのは「イルカかわいい、水槽きれい」といったただの感想で済むものではなく、「こんな生き物いるんだ、こんな生態なんだ」といった「気づき」のことではないかと僕は考えます。
スマシーには「気づき」がありません。あってもものすごくわかりにくいです。シャチの生態を通して環境について学ぶといったコンセプトもあるようですが、正直そんな遠い場所に住んでいる生き物より、身近な自然について知ってもらった方が学習として大きな意味を成すと思うのです。
学びは設計当初から考えられていたコンセプトではなく、取ってつけた感が否めない展示内容でした。
さいごに
ここまで酷評したスマシーですが、シャチや海獣を目当てに来る人にとっては「良い施設」と言えるのではないでしょうか。
西日本でシャチを見れるようになったというのは、愛好家の方にとっては非常に喜ばしい出来事だろうと思いますし、否定もしません。
しかし民営化によって経営や展示の方針が大きく変わったであろうことは想像に難くないでしょう。
(ざっと見た感じでは)映えや美しさを最優先にしたような水槽、まったく説明のない展示、テーマパーク感溢れる施設などを見るに、我々のような水族オタクは「ターゲット外」になってしまったのかもしれません。
県や市が経営している水族館や博物館などは、学びの要素が強かったり、珍しい生き物が展示していたりといわゆる「オタクが好む」施設となっているものが数多くあります。
しかしそれは「一般層にはウケがあまり良くない」ということでもあり、実際にイルカやペンギンなど「水族館の生き物」を目当てとしている層の方が多いわけです。
昨今の情勢を踏まえると、不景気や少子化などで自治体も維持が難しくなっていることでしょう。
そこで真っ先に「無駄な経費を使っている」と切り捨てられるのが、水族館や博物館、美術館などの施設なのではないでしょうか。
都市型水族館の成功により、公営の水族館は多くが民営に切り替わってゆくものだと予想します。
施設の建て替えや改装に伴って、きっと多くの生き物や標本、展示などが見れなくなってしまうのかもしれません。
変わってしまってはもう遅いのです。
変わる前に、今の施設に何度も訪れて記録するのが、我々にできる最大の貢献なのではないかと僕は考えます。
残したくば、行くしかありません。
皆さんもこの機会に、地元の水族館や博物館へ行ってみませんか?
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