見出し画像

日南ダムにいってきた【補足記事】

はじめに

この記事は、2024年6月14日(日)放送の日テレ系関東ローカル「超無敵クラス」の補足記事です。
ですが、放送を視聴していない方にもわかるような書き方をしているので、未視聴でも大丈夫です。
この記事は、放送の前に執筆しています。そのため、放送内容と一部重複する箇所があるかもしれませんが、ご了承ください。

日南ダムに行ってきた

今にも雨が降り始めそうなあいのくの曇天の下、今回のロケでまず最初にやってきたのが日南ダムです。

まず最初に、ダムが正面から見えるポイントに行きました。


正面から見た日南ダム

日南ダムとのファーストコンタクト!!!

うお~~~~~正面だ!!!たまらん!!!!

やっぱりこの瞬間はめちゃくちゃ興奮します

常用洪水吐のアップ

常用洪水吐のデフレクター(※ダムの中部についてる三角形の出っ張り)がかっこいい。

デフレクターの先っちょが筋のように苔蒸しているのもポイントが高い。

やっぱり正面はたまらない良さがあります。


日南ダムを下流から望む

続いて、ダムのすぐ下流に移動してきました。

このアングルはダムの全体が良く見通せてとてもいいですね。


ややアップ

ここから見ると、日南ダムの規模感がよくわかります

コンクリートの色と苔の緑、そしてダム周辺の新緑のコントラストが素晴らしい。

ここで少しダムの紹介をしておきますと、

日南ダムは、宮崎県日南市を流れる広渡川水系酒谷川に建設されたダムです。

ダムの高さは47mで、15階建てのマンションとだいたい同じくらい

ダムの型式は重力式コンクリートダムと呼ばれるもの。

重力式コンクリートダムのイラスト
(富山県HP「5-1 参考 ダムの種類」のページhttps://www.pref.toyama.jp/1503/kendodukuri/shinrinkasen/kasen/kj00015226/kj00015226-008-01.html より画像を引用)


断面がだいたい直角三角形のような形をしていて、ダム自体の重さで水をせき止める、コンクリートダムのなかでは一番オーソドックスな型式です。


このダム、変化に富んだ形をしていてとても見ていて面白い。


ダム直下にある酒谷発電所

写真右手に映っているダムの直下にあるこの建物は、ダムから取水した水で水力発電をしている宮崎県営の酒谷発電所です。

ここでざっと日南ダムの目的を紹介しておきます。

日南ダムには3つの目的があります。

1つ目は、洪水調節(治水)です。

洪水調節とは、ダムの重要な役割のひとつで、
大雨の時に増えすぎた分の川の水をダムでせき止め、下流に流しても大丈夫な量に川の水を調節し、下流の人の命や財産を洪水から守ります。

宮崎県は台風・豪雨が多く「台風銀座」という異名が付くほど、昔から多くの被害を受けてきました。酒谷川や広渡川も、特に昭和36年10月25日、26日の台風24号で、日南市飫肥地区などで床上浸水300戸、床下浸水1,726戸の被害を受けました。そういった洪水から下流を守るために日南ダムが建設されました。

二つ目は不特定用水の供給です。
不特定用水の供給とは、川を流れる水の量が不安定で安定して取水ができない場合に、その川に建設したダムから一定の水を流すことで、川の水の量を安定させ、下流で安定した取水を行えるようにするものです。

酒谷川では、洪水被害に頭を悩ませる反面、そうでない時は川の水不足、特に農業に使う水の不足に昔から悩まされてきました。
そこで、日南ダムを建設してダムに水を貯めておいて、上流から流れてくる川の水が減ってしまっても ダムから水を流して下流に水を補給できるようにしました。

酒谷発電所

3つ目は発電です。

ダムで行うのは水力発電です。水力発電は、高いところから水を流し、その落差で水車を回して発電するもので、日南ダムではダムで落差を稼ぎ、ダムのすぐ下にある宮崎県営の酒谷発電所で水車を回し、発電しています。この目的はダム直下に宮崎県企業局の酒谷発電所が建設されたことにより平成28年に追加されたもので、ダムが完成した当時にはなかった目的です。

左岸からダムを望む

さて、ダムの天端(※てっぺん)にやってきました。

日南ダムの堤祉導流壁はとても大きいものになっています。
ここだけでも迫力がすごい。

日南ダムの天端は車で通れるようになっています。もちろん歩行者も通れます。

個人的には、このダムの曲がっている部分からダムからニョキっと生えた天端橋梁が不思議な感じでなんだか好き。

こうしてみると、堤体が細いS字のように折れ曲がっているのがわかります。

そこがまた面白い。

しかしこう見ると、本当に面白い形状の堤体だなとしみじみ眺めてしまいます。

日南ダムがこんな折れ曲がった不思議な形をしているのは、日南ダムがとても地質的な条件が厳しい場所に作られたからです。

日南ダムを建設した地点の地盤は、ダムを建設するにはかなりハードルが高いものでした。


日南ダムの基礎岩盤の地質概要図
(国立国会図書館デジタルコレクション info:ndljp/pid/3251798 (https://dl.ndl.go.jp/pid/3251798/1/14)  井川仁 1982.3. 日南ダムの問題点とその対策について.  月刊ダム日本(449):8p より一部を引用)

日南ダムの建設された場所は砂岩質の古第三紀の日南層群をベースに、左岸には幅40mほどにわたって地質的に弱く、水に触れると崩れやすくなってしまう岩質の断層が、右岸部には透水性が高いシラスと旧河床堆積物(砂礫)が分布しており、どちらもダムの基礎にするには不向きな地質になってたのです。

これらを克服し、ダムを安全なものにするために様々な設計検討が為された結果、


日南ダムの断層処理のイメージ
(国立国会図書館デジタルコレクション info:ndljp/pid/3245363 (https://dl.ndl.go.jp/pid/3245363/1/34)  田水達之・井川仁 宮崎のダム. 1992.7. ダム技術(70):62p より一部を引用)

左岸の断層を最短距離で跨ぐためにダムを折り曲げ、さらに上流面に水を止めるための止水壁を、カットオフとストラッドコンクリートをダム右岸の上下流面に追加し、断層を水に触れさせず劣化を防ぎ、拘束しつつその先の強い基礎にダムの応力を伝えるようにしました。
(要は上記図のようなかんじ。てかこの図、めちゃくちゃいいですよね。)


更に右岸のシルト・砂礫質の箇所に対しては地盤にセメントミルク等を注入する「グラウチング」と呼ばれる工事を行い、透水性を克服し遮水性の高い地質に改良したほか、水が浸みるのを防ぐコンクリートの止水壁も設け、二段構えの体制で地質不良を克服しました。

これらの工夫を施したことにより、日南ダムはダム湖の水圧がかかっても大丈夫な、頑丈で安定したダムとしてお仕事をしています。

さて、ダムの天端へいざお邪魔します。
(肝心の天端の様子は写真を撮り忘れました。というか今回、重要な部分の写真が全然撮れていなくてかなり反省しています。)

天端橋梁の銘板

天端に行ってまず目に入ったのが、この天端橋梁の銘板。天端橋梁の銘板があるダムは意外と珍しい気がします。
(橋の知識はほぼ無いので、何がどうとかはちょっとわかりません。いずれ勉強せねば。)

写真不足の天端散策は続きます。ここら辺から雨足が強くなってきて、この後のロケはどうなるんだろうか・・・と心配し始めたり。


天端から越流頂を望む

先ほど紹介したダムが折れ曲がっている部分にやって来ました。

このコンクリートのぷっくらした感じがたまらないです。
丸みを帯びたコンクリートが、なんだか柔らかそうで、飛び込みたくなります。
苔と相まって、なんだか抹茶のわらび餅みたいな・・・そう見えませんか?どうですか?


天端から堤体下流側を望む

天端の中央付近にやってまいりました。
オリフィスゲートのデフレクターがかわいい。


右岸側の常用洪水吐を望む

このデフレクター、下流から見たときは結構とんがっているように見えましたが、ここから見ると意外と丸みを帯びて見えます。
洪水吐から流れ出る水の紋様も美しくてたまらない。


常用洪水吐上流側を望む

そして遂に見えたこの構造物こそ、このダムの一番の面白いポイントになります。


上流側からダムを望む

見やすいように上流側へ移動してきました。
日南ダムに行くと一番目を引くのがこの上流面にある半円形の構造物。

この設備は越流頂付放流管というものです。
これは、通常の放流管の上流側に半円形の制御堰を設けることで、洪水初期の放流量を増加させ、放流設備を小さくでき、またダムの堤高を抑えつつダムの洪水調節容量を稼ぐことができます。
(なので、この一番目に付く半円形のものは「制御堰」で、制御堰からゲートの出口までこの構造全体を総じて「越流頂付き放流管」といいます。)

ただ、その反面 正確な水理計算がとても難しいものになってしまうため、設計が難しくなるそうです。
この設備は全国十数か所にしかない珍しい設備で、ほかの事例を可能な限り調べてみると、日南ダムのものはこの手の設備のなかでも大きいものであることがうかがえます。(※古川調べ)

(他のダムで採用されている例として、主に大阪府の滝畑ダム、兵庫県の安富ダム、滋賀県の青土ダム、岡山県の大佐ダム、山口県の末武ダムなどが挙げられます)

ダム全体を上流側から望む

にしてもこの半円形のフォルム、流れ落ちる水の様、白い糸のように落ちる水とエメラルドグリーンのダム湖の色のコントラスト、本当にいつまでも眺めていられます。めっちゃ綺麗。


制御堰を望む
(※職員様から許可をいただき特別に立ち入り禁止の場所から撮影しています)

職員様のご厚意で、特別に制御堰が良く見える場所に案内していただきました。
より全体をよく見渡せる位置に移動したことで、その迫力と巨大さ、流れ落ちる水とそれがコンクリートに当たることで生まれる水の情景の美しさが際立ちます。

こうしてみると、本当に全面越流式のアーチダムを眺めているようです。
(それこそ、新住用川ダムなんかを重ねてしまします。行ったことないけど。)


日南ダムの断面図。ダムの左側に制御堰があるのがわかる。
(国立国会図書館デジタルコレクション info:ndljp/pid/3245308 (https://dl.ndl.go.jp/pid/3245308/1/55) 東正・満留康裕 1986.3. 日南ダムの基礎処理について ダム技術4(1):106p より一部を引用 )

日南ダムの図面によると、制御堰の高さ(※ここでは制御堰下流側のプールの底から制御堰の越流頂までの高さ)は約17m、長さは約60mもあり、これだけでも小さめなダムとして成立してしまう規模になっています。写真で顔を出している高さだけでも約11mもの高さがあると思うと、その巨大さがわかります。

まだまだダムを堪能したいところではありますが、ここで残念ながら時間切れになってしまいました。

最後に、管理所にて日南ダムのダムカードをいただきました。
日南ダムのダムカードには、ダムの下流側に鯉のぼりが渡されている写真が採用されています。この鯉のぼりの掲揚は、コロナ渦を機に休止中だそうですが、まだダムカードのなかに見ることができます。

魅力も見どころもたくさんあった日南ダム、折れ曲がった堤体と珍しい放流設備を見に皆さんにぜひ訪れてほしいなと思いました。

最後になりますが、雨のなか取材にご協力してくださった宮崎県 日南土木事務所 職員の皆様、本当にありがとうございました!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?