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仮面ライダーBLACK SUN感想【ネタバレあり】

○結論
テーマ
悪とはなにか?

生きる

以前にAmazonで配信された仮面ライダーアマゾンズのテーマも生きるであったが
こちらにとっての生きるとは
「Eat kill all」
生きるということは"食べる"ということ。

これに対してぶらっくさんの生きるという意味は

「歴史の一部になること」

であり、子孫や同じ思いを持つものを繋いでいくこと

である。

作中では様々な形の家族、組織がそれぞれの思いや目的のために戦っている。
自分の正義のために悪とみなしたものと戦うもの、命を落とすもの、愛を育むもの、復讐に燃えるものetc…

しかし、その行為こそが歴史の一部になる、というであり、何を遺し、何を繋いでいくかがこの作品のテーマである。

◉モチーフ
では、このテーマを描くために用いたモチーフはなんだろうか?
もちろんリブート元である仮面ライダーBlackは主要キャラクターとして落とし込んでいる。
主人公である、南光太郎、ライバルである秋月信彦、ゴルゴムとその三神官は設定こそ大幅に変更されているものの、過去作を知っている人たちには馴染みのあるメンバーだ。

この作品は仮面ライダー生誕50周年記念作品の一つであるので、1作目の仮面ライダーが放映されていた当時の日本と、2022年双方を舞台にすることで、仮面ライダーと仮面ライダーBLACK、そして仮面ライダーBLACK SUNそれぞれを結びつけようとしている。

50年前の日本は学生運動の真っ只中。
全学共闘会議など、若者が大人や社会に反逆し、団結していた時代。

そして現代における、人種差別や環境問題を怪人に置き換え、現政権への社会風刺を含めて描くことで今作が描きたかったものが見えてくる。

○概要
〜怪人と人間の織りなす群像劇〜
仮面ライダーだからといってBlack sunは、従来の
・怪人が悪さをする→ライダーが倒す
流れを踏襲していない。

本作における怪人は人間以上の力は持っているものの、武器をもった人間に襲われるとあっさり狩られてしまう。
条件さえ整えば不老不死になれるのだが、個体数の少なさゆえ、「怪人共生」のもと、人間の庇護下になり、現実社会における移民者のような立場にある。

戦中の人体実験の末、他の生物の特性を取り込み、異形の力と容姿を身につけたものが今作の怪人であるが、元々は人間だったので、人間の頃の記憶と精神を持ち合わせている場合もある。

人間との交配も可能で、作中では怪人と人間が家族として暮らし、オリジナルの怪人と比べると力は弱いものの、変身能力をもつ2世代、3世代目が登場する。

怪人となってしまったもの、また怪人として生まれてしまったもの達が選ぶ道は

○怪人社会を守るために、人間の下につく

○怪人が怪人らしく生きるため、人間と戦う。

○怪人ではあるが、人間として生きる

○怪人とも人間とも一定の距離を置く

人間側は、
○怪人を利用して利益を得る

○怪人を悪と見做し、虐待する

○怪人を共に生きる道を選ぶ

とそれぞれのスタンスの基に行動している。
この要素を持つ立場、集団ごとにキーとなるキャラクターが各時代ごとに存在することで、物語が群像劇として動いていくのである。

またこの偶像劇が、もう一つのテーマである

「悪とは、何だ。」
「悪とは誰だ。」

にも繋がってくる。

主人公である南光太郎の登場は、脚の薬と日々の糧を得るために汚れ仕事をするゴロツキのところから物語は始まるし、
ヒロインの葵も、自分の意見に合わない人間にはかなり冷たい態度を取る。
政府のトップの堂島も怪人をビジネスとして利用し、私腹を肥やす。

このあたりの描写の生々しさが白石監督の良さであり、この作品が賛否を産んでいるポイントでもあるが、

非暴力で訴え続けても暴力によって蹂躙される世界では、自分も誰かの悪であり正義になり武力をもって争うしかない。

というのがこの作品における悪との決着の付け方だった。

○よかった点
・溢れすぎたBLACK愛
リブートにあたり一番扱いに困ったであろう仮面ライダーBLACKでの扱いだが、最終話に倉田てつをの歌が流れたあたりで、そうきたか!
と思わず膝を叩いた。
ところどころにオマージュとも思える名台詞の引用や、OP歌詞がヘルメットにかかれているなどニヤリとする箇所が多い。

仮面ライダーBLACKという、人気がありすぎて続編までつくられ、70年後半から80年代生まれの脳を焼きまくった作品なので、匙加減の難しさはあっただろうが、個人的には当時のBLACKをそのまま現代リメイクの型は望んでいないので、これくらいの塩梅がちょうどよかった。

・風刺やリアリティを増すための日常の置き方
内閣総理大臣がニューオータニの3500円のカツカレーを食べるシーンは、完全に自民党と安倍元総理を意識したワンシーンで、一緒にいる寺田農さんの麻生太郎氏にしか見えない演技で、ルー大柴という個性の塊が、不思議と安倍元総理に見えてしまうのはもはやバグだった。
人間サイドの家庭が比較的2020年代の生活水準と家具なのに対して、怪人サイドの生活は昭和で止まっているのもポイントだ。
怪人と人間が共生をと指定された70年代以降、怪人が住んでいる地域は再開発もあまりされず、50年前のまま今に至っているというのも伺える。
ロケ地の高崎の商店街が激渋なのもあり、作品にリアリティを与えるのに一役買っている。
ぜひ聖地巡礼に行きたい。

・単純なかっこよさ
BLACKからあった怪人体→ライダーへの二段階変身だが、怪人体もライダーのデザインの良さがあり、従来のライダーシリーズの変身とはまた違ったワクワク感がある。
グロさばかりが目につく部分本作ではあるが、戦うということは本来痛みを伴うものである。
そうした痛みが、ライダーにも怪人にもしっかりと伺うことが出来るので、そこに一つの美学というか、カッコ良さを感じるポイントでもある。
傷つきながらも、目的に向かって前に進んでいく姿には思わず胸が熱くなる。

悪かった点
440分という尺の使い方
物語の面白さのピークが9話10話あたりに集中しているので、序盤の展開のグロさ、暗さに耐えられない人が多いのではないか?という疑問がどうしても頭をよぎる。

70年代と現代を行き来するシナリオのとっつきにくさとあるので、勧善懲悪的なライダーのシナリオを期待していた人には難しかったであろう。
1話40分で、あるが全10話のストーリーというよりは440分の1つの作品ともいえる編成なので、個別のシナリオの起伏が弱い。

一挙10話配信だから出来る力技ではあるが、そういうものだ、と事前に理解していないと、何を見せられているかわからないかもしれない。

ゆえに、この作品は440分一気見することを推奨するので、これから見る人は覚悟を持って440分を確保してほしい。

・リアリティな作りゆえ、ご都合的なシーンに感じる違和感

銃撃戦が横で繰り広げられている中、ノイズキャンセリングイヤフォンつけてるから気が付かず、呑気に演説してるシーンや、敵も味方も皆光太郎のヤサを知っていて匿っている意味がないバス、秘密をベラベラ喋るのがわかっているのに生きてる秋月博士など、他がリアルなゆえ、変なところでアラが目立ってしまう。

・暴力描写の是非
大人向けの仮面ライダーとして成功したアマゾンズに引き続き、本作も暴力描写、流血、欠損、内臓抉りなど過激な表現が随所に登場する。
序盤にそういったシーンを入れることで、これは普通の仮面ライダーとは違うんですよ!というメッセージを視聴者に与えることは出来るものの、なかなかなゴア表現のため、その後の視聴に影響がどうしても出てしまう。
腑をひっぱるシーンは私としても苦手な部類なので、もう少し加減してほしいなと思うところはある。

○総評
令和のレオン
おじさんミーツガールものとして見た場合はラストシーン含めて、葵と光太郎の日常が物語の中心にあるので、51歳で仮面ライダーを演じることになった西島秀俊さんの演技がめちゃくちゃ光る。物語の立ち位置を抜きにして、変身ポーズや行動がとにかくカッコいいのだ。
これだけで、この作品を見てよかったと思える力はある。
多少のアラには目を瞑れる。
深掘りすればするほど、偶像劇ゆえのそれぞれの立場による時代ごとの行動の意味が見えてきたりと、7話あたりからはすっかりこの世界にハマっている自分に気づき、ラスト2話の畳み掛け、戦闘シーンのかっこよさは、それまで鬱屈としていたなか我慢していたものを全て解放してくれるような力がある。
ライダー好きにな人にこそ、勧めたい作品であるが、序盤の人種差別描写がどうしても脚を引っ張ってしまう。
だからこそ、この作品が持つテーマ性、メッセージ性をある程度理解してもう一度1から見直してほしいし、脱落した人も、こういう作品なんだと一度間を置いて、最後まで見てほしいのだ。

個人的にはロケ地巡りも楽しそうだなと思えたのがポイントが高い。
日比谷のNTTビルはシン・ウルトラマンでも登場した場所でもあるし、高崎、宇都宮、浜松の商店街ではデモ隊が通った場所だと想像しながら写真も撮りたい。

単純なリメイクを期待していた人には刺さらないが、西島秀俊のかっこよさだけでも、ご飯何倍でも食べられるデキなので、視聴がまだの人は是非Amazonプライムに加入して見てほしい。

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