COCOA動作チェッカーを作った個人的背景と、デジタル・コンタクト・トレーシングを通じて広めたい考え
なぜ私が、会社を通じてCOCOA動作チェッカーを世に出そうと考えたのか、その理由を、定量的なロジックと、個人的な考えの両面から書かせていただきます。あくまで個人的なドキュメントで、会社としてのオフィシャルなものではありません。
mirror: 個人サイト
実際のCOCOA動作チェッカーとgithubレポジトリはこちらから。
また、Web-Bluetoothやプライバシーに関してもいろいろ考えがあったのですが、会社のEnginner's Blogに寄稿しましたので、そちらをご覧下さい(経緯などは一部重なるところがありますが…)。
定量的なロジック…COCOAを入れているのに、信号が出ずに機能しないことがもったいない
横浜スタジアムで、技術実証と称して、感染予防や感染拡大防止に資する取り組みを行う中で、COCOA導入の推奨と導入率の測定を行いました。その結果は、新型コロナウイルス感染症対策分科会にも報告されています。
ここで注目して欲しいのは、導入率とアクティブユーザの差です。
球場入り口で、COCOAを導入している方に、画面ないし信号確認が出来ていればインセンティブを配布したのですが、その総数が入場者数の44%にあたりました。
そして、信号を元に推定したCOCOA端末数は、入場者数の33%でした。…あれ、と思いませんか。11ポイントもの差があるのです。その疑問は、現地で立ち会っていたスタッフからの報告で解けました。「COCOA信号チェッカーが反応しないときにスマホを見せていただくと、多くはBluetoothがOFFになっていました」という報告があったのです。
つまり、COCOAを導入した4分の1の人は、Bluetoothを使ったテクノロジーであるということを知らずに、BluetoothをOFFにしてしまっていて動作できない状態にしているのです。
アプリの開発者や、アプリになれている方は思うでしょう、「BluetoothがOFFだと、ONにするよう促す通知がでるじゃないか」と。でも、普通の人だったら、よく分からないと通知だけ消してBluetoothはONにしない、それが少なからず起きている、ということに気づかされたのです。
せっかくCOCOAをインストールして協力する意思があるのに、その意思が無駄になってしまうのは、もったいない、ましてやそれが全体の4分の1にもあたる、ものすごくもったいないです。
何か、不特定の方と接する直前に、信号が出ていないことに気づく機会を作りたい、そのために、飲食店や商業施設などの入り口で信号確認できるようにしよう、それが、COCOA動作チェッカー開発の背景です。
個人的な考え:新型コロナウイルスを克服するには、ワクチンと同じくらい、デジタル・コンタクト・トレーシングが重要
ところで、なんでここまで普及率などに拘ってきたのでしょうか。
実は私は、新型コロナウイルスを克服する技術として、ある意味ワクチン以上に、デジタル・コンタクト・トレーシングに強い期待をしていたのです。
だって、mRNAがいきなり戦力になる、しかも時期も遅れずに戦線投入できるなんて、考えにくかったじゃないですか。
それに、効果とカバー率が100%にならない以上、発見と隔離は、永遠に求められる基本動作です。当初は保健所の積極的疫学調査が機能して感染者数を抑制できていましたが、不特定の接触が多い街にエピセンターが形成されたこと、二次感染者数の分散が大きく大規模イベントで感染者が発生した場合には到底人力で対処しきれないと思われることを考えると、デジタル・コンタクト・トレーシングは切り札だと感じたのです。
だから、早期に開発します、ということには期待した。
なのに、そもそもの開発の過程で不透明なトラブルが見られました。「下馬評では有力」とされたcode for Japanの撤退とか。ほとんどの人は遠巻きに眺めて、サーバー上のTEKファイル数をカウントしたりダウンロードしたりして「自分の」感染リスクばかり追いかけたり。あとからしたり顔で不手際を叩く姿が多数みられました。
明確にコードの品質にコミットしていたのは、githubにせっせとissueを上げていた少数の人だと思います。
そして、実は社内のエンジニアでも、これに協力しようという人には出会えなかった。火中の栗じゃないですか、という人までいた。でも、自分はエンジニアではなく、中途半端な能力で、悶々としていた。
その時にみえた、バグではない「普及を阻害する要因」、しかも、これは(おそらく)アプリの開発者の工夫では解決出来ない、BluetoothをOFFにされてしまう問題。
これを何とかしたいと思ったのは、自然な流れでした。
そもそも、なぜCOCOAの普及率を測定することになったのか
では、この流れが、どう会社としての動きに繋がったのか。
私は2020年2月時点では、リスクマネジメント観点を中心に全社課題に取り組んでいたたまめ、社内の新型コロナウイルス対策本部立ち上げ時にメンバーとして招集されました。
このときに、対策本部長の三宅さんの影響から、自社内の課題への取り組みだけではなく、社会全体にも貢献する取り組みをしたいと考えていました。
しばらくして、三宅さんが厚生労働省参与に就任し、COCOA関連も担当するようになったことで、普及の啓発をするために、「COCOAインストール済みチェッカー」を作れないか、と思いつき、Web-Bluetoothで信号を検知する仕組みを作りました。
合わせて、「そもそもの普及率はどのくらいだろう」と、COCOAの台数を計測するようにも改良し、横浜スタジアムの外野席が利用再開された2020/09/19の試合観戦時にも、外野席の台数を個人的に計測していたりしました。通勤電車などでは半数入れている計算のときもあり、思った以上に普及しているのではないのか?という手応えもありました。
この件を三宅さんに伝えたところ、「本当にそんなに台数があったの…?」と半信半疑だったものの、感染予防と両立できる大規模イベント実施ガイドラインを作るための取り組みがあることを伝えられ、その取り組みの中で、感染が起きてしまったときの拡大防止の取り組みとして、COCOA導入率を測定することになりました。
実際のCOCOA導入率測定では、スポーツ本部システム部の武藤さんを始めとするチームがRaspberry Piを用いたもう少し堅牢な測定をしてくださいました(私が作った簡易システムでは球場内を練り歩いてカウントする必要があり、精度も若干低かったため)。
その結果は、前述の通りで、信号を確認するCOCOA動作チェッカーの必要性を痛感しました。
ちょうどその頃急速に拡大していた感染者数、その要因が飲食にあることに向き合っていた三宅さんも、感染者数の拡大に備えてCOCOAをより機能させたいと思っており、インストール状況や信号を確認する仕組みのアイデアに賛同いただき、このような取り組みが問題ないかを厚生労働省でも確認していただくことになりました。
社内でも、デザイナー、ディレクター兼コピーライターをアサインいただき、自分がコードを実装したりドキュメントを書き、最後には品質管理部にも10機種程度を用いて動作検証をいただいて、リリースにこぎ着けました。
リリースは1月下旬で、感染拡大には間に合わなかったのですが、おそらく今後も何回かは繰り返すであろう感染拡大に備えて、COCOA普及の取り組みを支援していきたいと考えています。
個人的な考え:COCOAを入れることとは、「周囲に対する配慮」のコミットメントではないか
この取り組みを通じて、COCOAとは何だろう、とかなり長時間考えていました。自分の身を守るため?もちろん、それも1つの目的です。
でも、もう1つの大きな目的は、「周囲に対する配慮」を約束する、コミットメントすることではないか、と思うのです。
もし新型コロナウイルス感染症に罹ってしまったときは、COCOAを入れていれば、感染の事実を素早く接触した人に伝え、早い対応に繋げることができます。例え相手が知人でなかったり、連絡先を知らなかったとしても、迅速に伝えることができます。
COCOAを入れるということは、ネガティブなことをちゃんと伝えて、より大きなネガティブを無くすことだと思ったのです。
新型コロナウイルス感染症を通じて、社会に定着した数少ない良いことの1つは、「無理をしないでカバーし合う」という姿だと思います。体調不良の時は休み、周囲がカバーする。健康に不安があるときは助け合う。
COCOAを入れることも、「自己責任で自分だけ楽しみたい」という考えに対するアンチテーゼになると思うのです。大学からの友人がこう語ってますが、まったく同感です。
私は、普段は「絆」とかそういう感傷的なワードは好きではありません。一致団結、などというのも白々しく感じることがあります。
ですが、COCOAは、そういう言葉だけの「思いやり」ではありません。しっかり、自分に不都合なことでも伝える、という強いコミットメントであり、そういう気持ちを定期的に思い返すことは、大事だと思うのです。
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