DLsiteのセールと発売からの日数の関係

はじめましての方ははじめまして。そうでない方はお世話になっております。濡羽十色です。

DLwatcher.comというDLsiteのセール情報提供サイトを運営しています。

DLsiteでは現在サマーセールの真っ最中ですが、目当ての作品はセールになりましたか? セールにならなかったから定価で買ってしまおうと悩んでいる人も多いかもしれません。今回のサマーセールでセール対象になったものの、もっと安くなるかもしれないと思うと今買うか悩む人もいることでしょう。

今回は過去のセール情報から発売日からどの程度の日数でセールが行われるのかを調査しました。販売フロアと商品カテゴリによってセールの実施には大きな差があることがわかりました。その結果を今回はお届けします。


調査対象の集計データについて

DLsiteの2023年7月15日までの価格データに基づいています。集計されているのは7月15日現在において作品が販売中である作品です。過去に販売されていたものの現在販売が停止されている作品は含まれません。

集計の単位は作品数になります。作品の販売数については考慮されていないため、実際の購入者の感覚とはずれが発生する可能性は残ります。筆者は男であるため女性向けのマーケットについては感覚がわかりません。明らかな違和感についてはコメントを残してもらえると嬉しいです。

データの精度の都合で集計は1週間単位となります。発売初日を1日目として、1日目から6日目までを第1週とします。集計は第261週まで行っています。全期間で約5年分です。

データの補正について

一度でもセールを行ったことがある作品の割合(%)をセールの実施率と定義し、
実施率と発売の日数(週数)ごとにプロットしたグラフを作成しています。セールの実施率は性質の良いデータであれば時間と共に単調に増加し、減少することはありません。

しかし、実データを用いて集計を行うとモデル通りの動きをしないことがあります。セールの実施率を「販売期間が集計したい日数(週数)を超過している作品のうちその日数(週数)までにセールを行ったことがある作品の割合」と定義した場合、乙女向けフロアのイラスト作品のセール実施率は下のようなグラフになります。

理論上でも未来を予測するモデルとしても単調増加が望ましいところですが、1年目の半ばをピークに下がっていくグラフとなってしまいました。これはこれとして考察しがいのある現象ではありますが、本稿は待てばもっと安くなるかを考察したいため、このデータに加工を試みます。

まず作品を以下の4つに分類します。

  • ①販売期間が集計したい日数(週数)を超過している作品のうちその日数(週数)までにセールを実施した作品

  • ②販売期間が集計したい日数(週数)を超過している作品のうちその日数(週数)までにセールを実施していない作品

  • ③販売期間が集計したい日数(週数)に届いていないがすでにセールを実施済みの作品

  • ④販売期間が集計したい日数(週数)に届いておらず、セールも未実施の作品

先ほどの上のグラフは定義としては下のような数式になります。

$$
セールの実施率 = \dfrac{\textcircled{\scriptsize{1}}}{\textcircled{\scriptsize{1}} + \textcircled{\scriptsize{2}}}
$$

ここで、①と③については集計したい日数(週数)までにセールを実施済みと評価することができるので、セールの実施率を以下のように定義することができますが、あまり良い補正になりません。

$$
セールの実施率 = \dfrac{\textcircled{\scriptsize{1}} + \textcircled{\scriptsize{3}}}{\textcircled{\scriptsize{1}} + \textcircled{\scriptsize{2}}+ \textcircled{\scriptsize{3}}}
$$

この定義では④の作品が集計されないところに、③がセール実施済みとして加算されるためバランスが崩れるようです。
そこで今回は未来のセール実施の状況が未定の④の半数について、①:②の比率で実際にセールが実施されるものとしてセールの実施率の補正を行いました。半数にのみ適用するのはリリース直後の作品は将来的に①:②の比率でセールを実施されるものと予想されるが、集計したい日数から1日足りない作品はそのままセール未実施になると予想される。作品の発売が均一に分布しているものとして、線形に補完した場合④の1/2になる。式として書き下すと以下のようになります。

$$
セールの実施率 = \dfrac
{\textcircled{\scriptsize{1}} + \textcircled{\scriptsize{3}}+ \dfrac{1}{2}\textcircled{\scriptsize{4}}\dfrac{\textcircled{\scriptsize{1}}}{\textcircled{\scriptsize{1}} + \textcircled{\scriptsize{2}}}  }
{\textcircled{\scriptsize{1}} + \textcircled{\scriptsize{2}}+ \textcircled{\scriptsize{3}}+ \textcircled{\scriptsize{4}}}
$$

この補正を行った結果のグラフは下のようになります。

元のデータの傾向を押さえつつ、概ね単調増加に補正ができました。補正は実施率が高めに出てしまう方向に調整されますので、実際のセール実施率は今回のグラフより少し小さくなるだろうという点は留意した上で以下のグラフは読むようにしてください。
(もっと正確な補正モデルは今後の課題ということにしておきます)

全体のセール傾向

全作品を対象とした集計は下のグラフのようになります。

全フロアに共通して言えることは概ねこのグラフに表れています。ポイントとなるのは以下の点です。

  • セールに積極的な作品は発売半年でセールを行う

  • 発売半年でセールをやらなかった場合はかなり長期にわたって緩やかに実施されていく

  • 80%OFF以上のセールを行う作品は少数であり、全体の15%程度

  • 50%OFF未満のセールのみを実施している作品は少数派

  • 最終的には50%OFF以上80%OFF未満のセール実施が最大のボリュームゾーンになる

個人的には、セールを待つなら半年まで、それ以上待つと長期戦になるという感覚とかなり一致しています。

商品タイプ別の傾向

ASMR・音声・音楽

ASMRカテゴリの作品について各フロアでのセール実施率のグラフは以下の4枚になります。

普段はフロア別で分析を入れていますが、今回は商品カテゴリ別で整理しています。

作品の制作プロセスの差だと思われるのですが、セールをやる傾向に共通した差が出ています。ASMR領域に限っての話では、セールになぜか非常に積極的です。

補完ありの予測値ではありますが、発売から5年経過した作品であれば、90%以上の作品が一度はセールをやったことがあるという程度の数字になりました。

乙女向けでは1年で80%程度の作品が何かしらのセールを実施し、男性向け18禁では5年も経てば20%以上の作品が80%OFFで売られたことがある状況にあります。セール攻勢が非常に苛烈な印象です。

イラスト・マンガ・ノベル

続いてイラスト・マンガ・ノベルカテゴリです。

ASMRカテゴリと比較すると、セール自体が低調で、どんなに待っても25%の作品はセールをやりません。

逆に、50%OFF未満のセールは件数は全体に少なく、多少セールをやっている作品であれば、そのうち50%OFF以上のセールをやると期待できるという点は面白いところです。

これらの中では、乙女向けフロアでの動きが異なるように見えますが、この動き自体、ここ2年ぐらいの動きであり、それ以前の指標はBLと同様の動きになっています。

これは、乙女向けフロア自体が、ASMRマーケットの影響を強く受けており、そちらのマーケットのルールが輸入されてきているのではないかと考えています。(検証可能な指標を思いついたら分析したい)

半年待ってセールがなかったのであれば、5年待ってもセールがない可能性の方が高い。それがイラスト・マンガの領域です。

ゲーム

最後にゲームカテゴリです。

ゲームは他カテゴリと比較すると、セールをあまりやりません。発売から5年で3割はセールをやりません。

値の推移を見ると、R-18 ゲームとBL イラスト・マンガは極めて似た動きをしており、同人マーケットにおいて、安定したマーケットはこのように動くのではないかと予想されます。この「安定」の中身はファンはジャンルとして強固なファンが多数いるものの、新規ファンの獲得の障壁が高いということを指します。

セールにおける男女のマーケットの差

今回は商品カテゴリ別に整理をしていますが、今まで通りのフロア別、男女差のところを見ると売り方に大きな違いがあるのが面白いところです。

  • 男性向け

    • セールをやるなら50%OFF以上

    • 80%OFF以上も積極的

    • 50%OFF未満のセールの層がともかく薄い

  • 女性向け

    • セール実施比率で言えば男性より多い

    • 50%OFF未満も積極的

    • 50%OFF以上はあまりやらず、80%OFF以上はかなり少ない

これらはマーケットに合わせて最適化された結果であって、性差というかマーケット特性となっているように思われます。

男性的な性質は多少の値引きで買うようなものは定価で既に買っており、誘導には高割引率が必要になる。高割引率が提示されると、そんなに欲しがってなかったものまで買ってしまう。
女性的な性質は定価で買うと損した気分になるから、ちょっとだけでもお得感が欲しい。かといって、高割引率が提示されても、そもそも欲しくないものは買おうとしない。
完全な予想となりますが、整理すると男女の性質はこのようになると思います。

終わりに

ここの作品の過去のセール情報はDLwatcher上で公開していますが、将来セールの可能性があるかについて今回調べてまとめてみました。

DLsiteのサマーセールはまだまだ続きますが、セールになった作品も、セールにならなかった作品も、今回のグラフを見ながら買うか買うまいか大いに悩んでいただけましたら幸いです。

付録

付録は有料となります。

付録の内容は各グラフの元データになります。多くの人には全く必要ないデータですが、興味深かったと感じた方、自分で分析を入れたい方は課金していただけるとありがたいです。

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