見出し画像

甦れ‼️『前略おふくろ様』。萩原健一考。

 以前書いたが、今「日本映画専門チャンネル」で『前略おふくろ様』シリーズを時間をかけて鑑賞している。『前略おふくろ様』は第1、第2シリーズまで1975年から1977年まで日本テレビ系で放送された。
 萩原健一演じる片島三郎が田中絹代演じる「おふくろ様」に手紙を読むシーンは『北の国から』で黒板純がナレーションをする原点とされる倉本聰作品の原点である。
 私が第1シリーズ、第2シリーズと鑑賞して純粋に思ったのはこの名作に何故私は45年の人生を通じて観たことが無かったのだろうか?という問いである。
 私はこのドラマが再放送されていた記憶はない。歴史的事実でこのドラマが萩原健一主演で作られていたということな認識していたということと、音楽は井上堯之と速水清司、井上堯之バンドが担当していたという一連の流れを知っていたことだけだ。
 主演の萩原健一、桃井かおり、梅宮辰夫、小松政夫、坂口良子、そして、ピラニア軍団の室田日出男、川谷拓三というオリジナルメンバーに、北林谷栄、岡みつ子、加藤嘉(ショーケンとは八つ墓村でも共演)、桜井センリ、小鹿番、そして室田日出男演じる、半田妻吉の母、半田とめを演じたのはサイレント映画の大人気女優、岡嶋艶子(川谷拓三の義母である)。大滝秀治、岸田今日子。そして、言うまでもなくおふくろ様は昭和の名女優、田中絹代である。
 ここまで豪華で昭和を象徴するドラマがなかなか実際再放送がそんなになされなかったのは室田日出男と萩原健一の逮捕劇が強く作用しているのではないかと推察している。
 私は『前略おふくろ様』こそ、俳優、ショーケンの最高峰であると考えている。このドラマのキモは萩原健一の邪心の無い、片倉三郎という心優しい好青年、ある意味真実のショーケンと対極にいる人物を倉本聰の脚本を忠実に演じたことであろう。
 片倉三郎になりきり、純朴な青年になり切ろうとしたショーケンの努力。『太陽にほえろ!』、『傷だらけの天使』で見せたギラギラした主人公の姿と隔絶している。
 石膏のダビデ像の様な無駄を剃り落とした端正な顔立ち。横顔でさえ、男の私でさえ、ウットリ見惚れてしまう。破天荒な部分が多分にある萩原だからこそ、丁寧に演じることが要求された作品なのだと思う。
 永井荷風はこのドラマの舞台となった深川について複数の小片を遺している。荷風は『深川の散歩』でこの様な文章を記している。
「材木の匂を帯びた川風の清凉なことが著しく感じられる。深川もむかし六万坪と称えられたこのあたりまで来ると、案外空気の好い事が感じられるのである。」
 室田らが所属していた鳶、渡辺組の木材。川に浮く丸太を連想させる。第1シリーズの料亭「分田上」は再開発、高速道路の煽りで撤去を余儀なくされてしまう。荷風は1934年(昭和9年)に書かれた、前述した『深川の散歩』ではこう書かれている。
「災後、東京の都市は忽ち復興して、その外観は一変した。セメントの新道路を逍遥して新しき時代の深川を見る時、おくれ走せながら、わたくしもまた旧時代の審美観から蝉脱すべき時の来った事を悟らなければならないような心持もするのである。 木場の町にはむかしのままの堀割が残っているが、西洋文字の符号をつけた亜米利加松の山積せられたのを見ては、今日誰かこの処を、「伏見に似たり桃の花」というものがあろう。モーターボートの響を耳にしては、「橋台に菜の花さけり」といわれた渡場を思い出す人はない」
 「災後」とは関東大震災を指す。後藤新平は関東大震災後、内務大臣兼帝都復興院総裁として東京の帝都復興計画の立案・推進にも従事した。そして同潤会アパート、道路拡張、首都整備を行ったが、震災に対して強靭な街を目指す一方、江戸情緒は失われていく。
 『前略おふくろ様』の時代がギリギリ江戸の痕跡が残存していたが、ついに再開発で、分田上の高速道路建設で一つの時代の終焉を意味するのである。
 料亭『川波』の女将、八千草薫の可憐さは忘れ難い。昭和映画に可憐な印象を残し、『前略おふくろ様』でも、三郎を多少色気で翻弄させる姿が微笑ましい。そして数年後に向田邦子脚本、久世光彦演出、沢田研二主演の曲は違うがTBSの1981年の正月ドラマ『源氏物語』で八千草さんがジュリーと共演したのも凄いご縁だと感じる。そして岸田今日子がサブに自身の妊娠をサブの下宿で告げるシーンがあるが、正に『傷だらけの天使』ファンへのサービスショットだろう。倉本さん粋なことをします。
 『前略おふくろ様』は魚河岸や少ないシーンを除いて基本的にはセット撮影である。しかし、そこで写される小川や、外の丸太が浮かぶシーンは失われつつある時代を感じさせる。
 萩原健一が脚本、演技に真剣に取り組み、途中で飽きてきたという倉本聰の証言もあるが、最後まできちんと演じきった貴重な作品群であると私は思う。
 今はなかなか再放送難しく、ソフトも買いにくい状況だ。メーカーには、何とかその状況を打破して欲しい。
 あとこれは夢だが、『前略おふくろ様』の2時間ドラマでもいいから続編が見たかった。
 サブがタヌ子と共に夫婦になり、子供も産まれ、梅宮辰夫、渡辺組やかすみちゃんと新しい関係を構築する。そんな物語を紡いで欲しかった。
 それほど夢を持たせてくれる名作であり、令和の新型コロナ禍であるからこそ、皆んなに何とか観て欲しい。それを強く望むのだった。

画像1

画像2

画像3

画像4


この度はサポート、誠にありがとうございます。読んでいただき、サポートいただけることは執筆や今後の活動の励みになります。今後とも応援、何卒宜しくお願い申し上げます。