短期連載シカゴDrill③ -BD vs GD シカゴDrillのビーフ-

Chicago + Iraq = Chiraq

シカゴで殺害された年間死亡者数が、イラクやアフガニスタンに派兵された米兵の同年の死亡者数を上回った事から名付けられたスラング。特に、貧困層が多く住むシカゴサウスサイドにおける治安の悪化と犯罪率の高さは、年々大きな問題となっています。

今回はそんなChiraqの象徴とも言える、BDとGDのビーフについて掘り下げていきたいと思います。

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※BDとGDそれぞれの概要に関しては、こちらの記事をご参照ください


1. O'Block vs STL / EBT

シカゴのギャング達は、自分達の生まれ育った地名をそのままチーム名に使う事が多く見受けられます。BD傘下のO'Blockも、GD傘下のSTL / EBTも、それぞれシカゴに実在する地区の名称です。

O'Block (Parkway Garden Homes / WIIIC City)

STL / EBT (TookaVille)

元々O'Blockは閑静な住宅街だったそうで、STL / EBTに対しても中立の立場を取っていたそうです。更に驚くべき事に、GDメンバーのFBG Wooskiは、いとこのFellaがO'Block出身なんだとか(一部ではWooskiもO'Block出身との噂もありますが真偽は不明)。

両者の関係が悪化し始めたのは2007年。Fellaが、STL / EBTメンバーのBlinkによって殺されてから。

報復① Tooka

2011年1月、STL / EBTメンバーのTookaがバス停にいたところ、ドライブバイシューティングに遭い死亡しました。

Tookaを撃った犯人はOdee Perry(O'Block)。GDによって殺された、Ty(O'Block)への報復と見られています。

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Tookaを偲んで、メンバーはSTL / EBTをTookaVilleへ改名しました。

報復② Odee Perry

同じ年の8月。今度はOdeeが、サウスキングドライブの6400ブロックで射殺されました。犯人はK.I.とButta(いずれもTookaVille所属)で、K.I.は何と女の子。Odeeに殺されたTookaとは親友だったそうです。

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O'Blockは元々WIIIC Cityと呼ばれていましたが、Odeeの死を慎み彼の頭文字を取ってO'Blockに改名されました。

報復③ K.I.

Odeeを殺したK.I.も、2014年にKing Vonの手によって殺されたという見解がシカゴ警察の報告書に上がっています。

Vonは以前、 “Wait” という曲でK.I.殺害をほのめかしていました。


2. Lil JoJo vs 300 (BDK vs GDK)

2012年3月にリリースされた、Lil Durk初期のヒットチューン "L's Anthem"

この曲の1バース目に "Bricksquad, I say fuck 'em" というラインが出てくるのですが、これはGD傘下である069Brick Squadの事を指していて、Durkioは曲中で069Brick Squadを名指しでディスしています。

069Brick Squad所属のLil JoJoは、ラジオから流れてきたL's Anthemを聞いて、自身のチームがディスされている事を知り怒りを露わにしました。

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翌月、JoJoはChief Keefの "Everyday" をビートジャックした "3hunnaK (BDK)" を発表。

タイトルの3hunnaKとは、Chief Keef、Lil Reese、Lil Durk等が所属する300というギャングチームの事を指していて、300 Killers = 300K = 3hunnaK、つまり300と敵対している(殺意がある)事を意味しています。

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沢山のギャング名が出てきて混乱する人もいると思いますが、300もGBEもO'Blockもほぼ同義語だと思ってもらって大丈夫です。端的に言えば全てBD一派って事です。

一方、Tookavilleや069Brick SquadやFlyBoyGangはGD一派です。

続いてJoJoは、BDに対する更なるディスソング "Tied Up" をリリース。この曲のMVで捕らえられている男がCheif Keefなのでは?と話題になりました。

※実際はJoJoの友達であるLil Mister

ディス曲だけに飽き足らず、あろうことかJoJoは、BDのシマである64番街へ乗り込み、Lil Reese等を挑発し、一連の行為を動画にてアップロード。

その後JoJoは自分の居場所をツイートし、更なる挑発行為を繰り返しました。

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このツイートを見ていたBDメンバー(Poo Poo Man、KeKe)は、実際にJoJoの所へ赴き、複数の銃弾を浴びせJoJoを殺害しました(実行犯のKeKeもその数日後に射殺されています)。

JoJoの死後、仲間達はJoJoへの哀悼の意を表し、Brick SquadをJoJo Wrldへ改名しました。

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3. FBG Duck vs King Von

King Vonの出世作、"Crazy Story" 

この曲は、Vonがオンナから依頼され、とある男を殺すまでの出来事をPt.1〜3に亘って綴った壮大なストーリーテリングなんですが、全ての楽曲の中でVonとDurkioは、シカゴ63番街をしきりにこき下ろしています。

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この63番街というのは、多くのGDメンバーが育ったブロックの事を指します。

2020年には、Vonのもう一つのクラシックとして認知されている "Took Her To The O" がリリースされます。こちらもVonのストーリーテラーとしての才能が発揮された傑作なんですが、曲中またしても63番街を揶揄する内容が含まれていました。

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これに対してFlyBoyGang(GD)所属のFBG Duckは、 "I’m From 63rd" という曲でアンサー。Crazy Storyの内容はフェイクだと嘲笑しました。

更にDuckは、7月に "Dead Bitches" をリリース。

殺されてしまったBDメンバー(T-Roy、Odee、J Money、Lil Steve、Lil Boo、D'Thang等)を次々とこき下ろした、曰く付きのディスソング。特に酷いのがLil Booの下りで、Lil Booは撃たれた直後に車のタイヤに頭をぶつけて死んだのですが、その件を持ち出し嘲笑するような表現を取っています(ちなみにGDメンバーはLil Booの死因を「Tire Head」と呼んで、BDをディスする際の隠語として使っているようです)。

この内容にBD側は怒り心頭。Dead Bitchesリリース後一ヶ月も経たぬ内にDuckは、5人のBDメンバー(C Murda、Kenny Mac、Los、C Thang、Muwop)によるドライブバイシューティングを受け殺されてしまいました。

Duckの死後、VonはBDとGDによる終わらない報復合戦に終止符を打つ為、問題解決に向けて動き出したと伝えられていました。

またDuckも "Chicago Legends" という曲で、亡くなった BD / GD 双方のDrillerにシャウトを送り平和を訴えかけていました。

しかし2人の思いも虚しく、結局はVonもDuckも殺されてしまったのが現実です。


この記事を読んで、Driller達に複雑な思いを持った人も多くいる事と思います。しかし部外者である我々が、こちらの物差しで彼等の言動を咎めるのは違うと考えています。何故なら彼等Driller達は、この残酷な環境で生まれ育ち、そこでのルールでしか生きてこれなかった人達だから。僕がこのnoteでギャングについて細かく説明しているのは、彼等のこうしたバックボーンを知らなければ、彼等の音楽を理解する事が出来ないと思っているからです。否定も肯定もせず、彼等の辿ってきた道のりを知っていく事が、HIP HOP並びにDrillに対する最大限の歩み寄りではないでしょうか。

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DJ MoB

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