短期連載UK Drill① -History of UK Drill-

どうもドリオタです。前回のシカゴDrill特集が思いの外好評で嬉しい限り。これならUK Drillもやらなアカンやろ!って事で、今回からUK Drill特集をお送りします。ただシカゴDrillの時のように、1つのトピック毎に記事を作る、のでは無く、UK Drillのあらすじと、UK DrillのオススメDriller / 楽曲を2010年代と2020年代に分けてそれぞれ…という感じでお届けしていこうかと思っています。

それではまず、UK Drillの歴史を紐解いていきましょう。

UK Drillの幕開け

2012年、Chief Keefの "I Don't Like" の大ヒットにより世界中に広まったDrillの波が、Youtube経由でUKにも上陸。瞬く間にUKのキッズ達の心を鷲掴みしました。

2013年、150メンバーStickz & MDarggによる "It's Cracking" と、67メンバーScribz(aka LD) & Dimzyによる "ManDown" から端を発した両者のビーフによって、UK Drillは産声を上げました。


しかしUK Drillの本格的な幕開けと言えるのは2014年。67がリリースした "Live Corn" の大ヒットから。

上述の曲を聴いてもらえれば分かる通り、この頃のUK DrillはシカゴDrillやTrapの影響をモロに受けたサウンドでした。今のサウンドスタイルが確立したのはそこから2-3年後の事。

UK Drillサウンドの確立

2000年代後半から数々のRoad Rapを手がけ、今日UK Drillサウンドの雛形を作ったとされるプロデューサーのCarns Hill。

Carns Hill

彼が67の曲を聴いた時に、クールだと思った反面、シカゴDrillまんまのトラックだった67の曲が、もしUKオリジナルのサウンドだったら大きいムーブメントになるのではないかと思ったそうです。そして2015年、67はCarns Hillと初めてコラボした "Skeng Man" をリリースしました。

当時の事を、同じくUK Drillの代表的なプロデューサーであるMK The Plugはこう振り返っています。

MK The Plug

「2015年に俺達がDrillビートに着手し始めた時、YouTubeにはドリルビートのチュートリアルは1つだけしかなく、しかもそれは最新のものではなかった。だから俺達はロンドン中を飛び回って、様々なプロデューサーとリンクして、手探りでその方法を見つけなければならなかったんだ。」

2016年になると、UK Drillは次第に現在のカラーに近いサウンドへと進化し、同時にUKの音楽チャートにも台頭し始めたりと、徐々に脚光を浴びるようになっていきます。特にこの年リリースされた67の "Let's Lurk" "redruM reverse"と、Abra Cadabraの "Robbery" は、初期UK Drillクラシックとして語り継がれています。

こうして進化を遂げたUK Drillは、更にそのサウンドを研ぎ澄ませ、「トリプレットハイハット」「スライドベース」「アタックの強いキックドラム」を特徴としたUK Drill独自のカラーを確立していきました。

GrimeとRoad Rapからの影響

UK Drillが今のスタイルに定着していく過程で、GrimeとRoad Rapからの影響はとても大きいものでした。

Grime

Grimeのゴッドファーザー Wiley

2000年代初頭にイーストロンドンで誕生したこのサブジャンルは、ハウス、UKガラージ、ジャングル等をルーツとするエレクトロミュージックの一つ。元々Eskibeatと呼ばれていましたが、メディアによってGrimeと名付けられたそうです。
BPM(曲のテンポの事)は138から145の間と高速で、派手めなサウンドが特徴。またGrimeのビートパターンを聴いてもらえば分かる通り、その構造はUK Drillのビートパターンと酷似しています。

元々シカゴDrillやTrapの要素が強かった初期のUK Drillが、シカゴとは違うカラーを見出す為に「Grime」と言う自国のジャンルを取り入れていったという流れですが、逆にGrimeも近年UK Drillサウンドの影響を受けていて、また双方のラッパー達が互いの作品でコラボしていたりと、もはや両者の違いは表面上無いに等しいと言えます。

では今現在、DrillとGrimeは同義語と括っていいものなのか?それとも違うのか?この章の冒頭に貼り付けた記事では、両者のジャンルには明確な違いがあると明言しています。

Grimeはエレクトロからの派生である事からも分かる通り、クラブ層をターゲットとした音楽であり、フロアでの鳴りを意識した派手なサウンドが特徴です。しかしラッパーにとってトラックが派手過ぎると言う事は、その分自身のラップの表現の幅が狭まってしまうという事。

一方UK DrillはHIP HOPのサブジャンル。ハイハットのパターンこそGrimeに近いものの、上ネタはダークなモノが一般的。またBPMも、Grimeはほぼ固定されているのに対し、Drillは幅広く、様々なフロウを試せる事からラッパー達がこぞって飛びつき発展していった…という趣があるようです。


Road Rap

Road Rapのキング Giggs

2000年代半ば、サウスロンドン(主にブリクストンとペッカム)で生まれたUKのギャングスタラップの総称。当時商業化していったGrimeに対するカウンターカルチャーだったそうで、UKの間で起きている暴力とギャングについて描写した、Roadman(ストリートで生きる人間)の為の音楽でした。

Road Rapの概念とGrimeのサウンドが結び付き、UK独自の Drillが形成されたという事です。Road RapのキングであるGiggsは、先述のLet's Lurkで67と共演を果たしています。

UKのギャング達

Road Rap及びUK Drillは、UKに生きるギャングスタ達の音楽であり、シカゴやNY同様、UKのギャング達を知る事はUK Drillを聞く上でとても重要な事。しかし無数に存在するギャング達を一つずつ取り上げて説明していくのは不可能に近いので、今回は、67、150、Harlem Spartans、OFB、Section Boyzの5つのギャングにのみ焦点を当てて説明させてもらいます。

67

67

ブリクストンヒル出身の67(シックスセブン)は、シーンで最も有名なUK Drillのクルーです。メンバーはLD、Monkey、 Dimzy、 Liquez、ASAP、SJ等。2010年代後半まで勢いがありましたが、メンバーの相次ぐ逮捕も重なり徐々に人気は下火へ。

150

150 aka GBG

エンジェルタウン出身。ワンフィティと読みます。GAS Gangから枝分かれし、UK Drill黎明期から活躍してきました。メンバーは、Stickz、Grizzy、S Wavey、Ard Adz、Jboy、Sho Shallow、M Dargg等。67とは敵対関係にあります。

Harlem Spartans

Harlem Spartans

ケニントン出身。MizOrMac、Loski、Blanco等、才能を持ったアーティストを多く抱え、UK Drillシーンで最大のグループの1つになりました。ユニークなサウンド、メロディックなビート、多彩なフロウ等でシーンに影響を与え、シカゴDrillとの差別化に大きく貢献しました。

OFB

OFB

Original Farm Blocksの略。ロンドン北部のトッテナムにあるブロードウォーターファームエステート出身。メンバーはHeadie One、RV、Bandokay、SJ、Double Lz、YS、Dezzie、Akz等。Headie Oneは、UK Drillのキングと呼ばれていて、人気と実力、カリスマ性を兼ね備えたスターと言えます。

Section Boyz(aka Smoke Boyz)

Section Boyz aka Smoke Boyz

クロイドン出身。メンバーはDeepee、Inch、Knine、Littlez、Sleeks、Swift等。67や150等と並んで、UK Drillスタイルを最初に取り入れたグループの一つでした。2015年にリリースした「Don't Panic」がヒットし、その年のMOBOアワード(UK最大級の音楽賞)にてベストニューカマーを受賞。


Drakeの功績

デビュー以降、熱狂的な人気を保ち続けているスーパースターDrakeは、早い段階からUKのHIP HOPシーンとリンクしてきました。Section BoyzがDon't Panicをリリースした際にインスタで「Support the guys!」とシャウトを送ったり、Harlem Spartansの "Kennington Where It Started" のラインを引用してスナチャに投稿したりと、UK Drill愛を前面に押し出していました。

スナチャのキャプションにKennington Where It Startedのラインを引用

2016年にはSection Boyzのライブにサプライズ出演。更にSkeptaと共に "Shut Down" を披露し会場を沸かせました。

またDrakeは、楽曲でも多くのUKラッパーとコラボを行なっています。

× Giggs
2017年にリリースした「More Life」に収録されている "KMT" "No Long Talk" にて、Giggsを客演に迎えています。

この共演がキッカケでDrakeは、イギリスのメディア『Link Up TV』に出演し(Giggsが話を繋げた)、Behind The Barzというフリースタイル企画でDrillサウンドに乗せてフリースタイルを披露しました。

× Dave × Headie One × Loski

2016年、GrimeアーティストのDaveと "Wanna Know" のRemixで共演。

2020年には、 "Only You Freestyle" でHeadie Oneと共演。

また2018年にDrakeがリリースした「Scorpion」は、Harlem Spartans所属のLoskiが同年リリースしていた「Call Me Loose」から影響を受けた事を公言していて、その事で注目を集めたLoskiは見事ブレイクを果たしました。

DrakeがSNSや楽曲でUKのアーティストとリンクする事で、UK HIP HOPに注目が集まるというサイクル。今日のUK Drillの世界的な成功は、Drake抜きでは成し得なかったと言っても過言では無いでしょう。


長くなりましたが、とりあえずUK Drillの概要はこんなところでしょうか。次回以降は楽曲にフォーカスしていきますのでお楽しみに。


DJ MoB

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