風と共に去りぬ

下校中の女子高生の笑い声をBGMにタバコに火をつけた。

いつも通りの高松の商店街。

人通りは多くもなく少なくもない。

おじさんが自転車でやってきた。

角を曲がろうとした時、ロードサイクルの兄ちゃんがインからおじさんを抜き去った。

背後はもちろんインは完全に無警戒だったおじさんは驚いた。

「おい!」

おじさんは怒鳴った。

振り返る女子高生、いっせいにたなびくノボリ。

商店街に緊張が走る。

ロードサイクルのお兄さんはイヤホンでもしていたのだろう、振り返ることなく進んでいく。

おじさんの顔つきが変わる。ペダルを漕ぐ足に力をこめた。

ロードサイクルとの距離はグングン縮まっていく。

嵐はすぐそこだ。

ついに追いついた。

そして、抜き去った。

声をかけるでも無く、睨みを効かせるでもなく、おじさんはただ抜き去った。

喧嘩は起きなかった。

すこし冷たい春の風がおじさんの怒りを冷ましたのか、ロードサイクルにママチャリで追いついたことに対する満足が怒りを上回ったのかはわからない、喧嘩は起きなかった。

おじさんは春の風と共に去っていった。

気づけば根元まで燃えていたタバコを灰皿に落とし、新しいタバコに火をつけた。

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