『いつものメロディ』

今日もサックスの音が聞こえる。

ボクの家の近くで、毎日16時を過ぎるとサックスの練習を始める女の子がいる。

実際会ったわけではないから女の子であるかどうかはわからないのだが、女の子であって欲しいので女の子ということにする。

何であれ毎日休まず練習するということはとてつもなく難しい。

毎日欠かさず練習する彼女をボクは尊敬している。

彼女の練習は正確に音階を奏でることから始まる。

ドレミファソ。

夕方の空に心地よく響いている。

人は誰しもある程度のレベルに達すると、基礎を疎かにしてしまう。

彼女はいつもボクに基礎の大切さを思い出させてくれる。

音階の練習を終えると、彼女は丁寧に音を繋ぎ、メロディを奏でる。

中島みゆきの『糸』、buck numberの「HAPPY BIRTHDAY」が彼女の課題曲だ。


「縦の糸はあなた 横の糸はわたし 織りなす布はいつか誰かを」

「くだらない話は思いつくのに」

「ドレミファソ」

「縦の糸はあなた 横の糸はわたし 織りなす布はいつか誰かを」

「ドレミファソ」

「くだらない話は思いつくのに」


部分練習と基礎練習を繰り返す。

彼女がこの練習を始めて、少なくとも2年は経つ。

一度でいいから一曲通して吹いてほしい。

「なぜめぐり逢うのかを」から、「いつの間にやら日付は変わって」から聞かせてほしい。

「ドレミファソ」はもういい。

どうしても吹きたいのなら「ドレミファソラシド」まで吹いてほしい。

今日もいつもと同じ練習を繰り返し、彼女は練習を終える。

練習の終了と同時にカラスは寝床へ向かい、街は夕飯の準備に入る。

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