刑事物語

 本当ならば近況や東京でDJしてきたこととかを書くのが順当なのだけれど、そんなことをぶっ飛ばして、今のオレは「刑事物語」に夢中。金八での善良なイメージを嫌い、ジャッキー・チェンに憧れた鉄矢が築いた一夜城。それが「刑事物語」。そんな鉄矢の思惑と、誌面のイメージと裏腹に「プログラムムービーをもう一度」と何故か奮起したキネ旬が結託した謎。

 「刑事物語」一作目は鉄矢の故郷、博多の「山笠」から始まり間髪入れずトルコ風呂へのガサ入れへと流れ込む。そんなガサ入れで耳の聞こえない風俗嬢と鉄矢は出会う。取り調べをすると彼女には身寄りがなく、自身も母親が身体を売り生計を立て自分を育てられたという出自と重なってか、なぜか身元引受人を買って出る鉄矢。買って出たは良いが、自分が東北へ飛ばされることに。呑気に夜行列車に二人で。気分はランデブー。借りた部屋は当然のようになにかの手違いで一つの部屋に。ルンルン同棲生活。ビックリするほどタルい展開。

 転勤先では売春婦の謎の死が続いており、捜査は難航中。そんならたまたま入った定食屋に昔馴染みのおじさんが。また、そのおじさんが都合のいいことに有力情報を持っており、どうも地場のヤクザじゃない連中が売春を取り仕切ってるというかなりの激アツ情報を。それを聞いた鉄矢は何を根拠にかは不明だけど地元のトルコ風呂が怪しいと言い出す。

 家に帰るとスケスケシースルーのネグリジェで一人ファッションショーをしてた同棲相手の女の元に隣に住む田中邦衛が押し入っている。警察のくせに不法侵入の男を「行け!」と追い払うのみの鉄矢。寂しい身の上のもの同士、身を寄せ合う二人だが寝付けぬ鉄矢は布団からはみ出した女の尻をねっとり見つめるも、布団をかけて「独りは寂しか」と独り言。

 トルコ風呂の潜入捜査に任命される鉄矢。トルコ嬢に「従業員は何人?」などと懇切丁寧に聞き込みをすると一発で警察と見抜かれる。トルコ嬢は口を閉ざすも、何故か鉄矢を誘惑。鉄矢は「オレだって貴女を抱きたい。でも・・・」と警察という立場と葛藤。「オレの好きな女も貴女と同じ職業でした。可哀想な女なんです。オレが抱こうとすると大きな声を上げるって言うんです」と観てたこちらには提示されてなかったホントかウソかわからぬことを言い、結局抱く鉄矢。コトが済むとすんなり内情をバラすトルコ嬢。

 こりゃあ組織的な犯罪だと張り込みを決意し、家に帰る鉄矢。すると女はいない。探し回る鉄矢。帰ってくる女。心配したと訴える鉄矢。「危ないから出歩くな」と言っておいたのに。そこでトルコでの諸行を思い出し「オレには彼女を責められるのか?」と自問自答してみるも、何故か唇を奪おうとする鉄矢。拒まれる鉄矢。「好きな男がいる」と告げられる。

 昔馴染みのおじさんの店で働くことになった女。これがまたちょいちょい居なくなる。おじさんは「好きな男が出来たと言ってたがそれはウソで、組織にそう言えと言われたんじゃないか」と謎な予測を投げかけ、鵜呑みにする鉄矢。人情派な割に自分の都合のいいように解釈する鉄矢。

 それからなんやかんやあって、事件は解決。危険な目にあった女をハンガーヌンチャクで救うも、同僚が発砲したのと暴れすぎたのの責任を何故か鉄矢が一手に負わされ、青森に飛ばされる羽目に。しょうがないなと女を連れて青森に行こうとすると、部屋に不法侵入してきた隣人、田中邦衛と恋仲になったと打ち明ける女。組織に言わされたとかはおじさんの妄想でしかなかった。邦衛もまた耳が聞こえないという共通点があり、二人で生きていくと。そう言われちゃっちゃあと独りで青森な鉄矢。

 刑事版「男はつらいよ」と言って差し障りない内容で、このあと五作目まで続くも、若干のコメディと鉄矢がカンフーからゴルフへ興味が移るなどのマイナーチェンジくらいでだいたい一緒。鉄矢が見た龍馬以外の夢。それが「刑事物語」。

 とにかく、この一作目は理由のないオッパイが連発される。犯人が人質を取れば、その人質は理由なく女性で、犯人はとりあえず洋服を引っ剥がす。その後、五作も続く映画シリーズの冒頭も兎に角オッパイの連続。人情派の不器用で善良な鉄矢の素朴で実直な表情もどこか性欲でいっぱい。それをヒロインにぶつけられず、拳銃を向けてくる相手にも過剰なまでに拳で制裁を加えようとする様は昇華できない性欲を行き過ぎた暴力で紛らわせてるかのよう。

 そして、鉄矢の手足の短さが顕著。驚くほどに短い。時折見せる蹴り技の際に確認できる足の短さはCGかと見紛う程に短い。この映画の代名詞であるハンガーヌンチャクも鉄矢のリーチの短さを補うために違いない。

 犯人以外の人間が人柄は良いのだが、己の感情に忠実で身勝手。いきなり身元引受人になった鉄矢が明らかに自分に好意を寄せてるのにも関わらず不法侵入犯である邦衛に何故かの鞍替え。何故そうなるに至ったかの描写がほとんどなく、「ふたりとも耳が聞こえない。二人で一人前」というちょっと納得できないけど強く否定は出来ない理由で鉄矢を引っ叩く。

 鉄矢は鉄矢で献身的にプラトニックに女を見守ってたけど、トルコの潜入捜査で何かが弾けてキッスを迫る。おじさんの何の根拠もない「組織に言わされてる」を鵜呑みにする。見え隠れする「オレが世話してやったから」。転勤の際には女がついてくると疑いもしていない。

 そんな鉄矢のやましさと卑小さがあるから、女に告げられた邦衛との関係を前に「貴女は弱い人間なんかじゃありません」と言い、二人を送り出す言葉に切なさがある。現在まで続く鉄矢の説教じみた訓示にない、鉄矢の弱さがあるからこその悲哀。そして鳴り響く「ええかげんなやつじゃけぇん」。

 完璧。「君の名は。」のRADWIMPSを超える、ラストの「唇をかみしめて」を聞くためだけの映画。世界市民全員が吉田拓郎の天才の前にひれ伏すべき瞬間を演出するための一時間四十分。2020年になろうかという今、これっぽっちもオススメはしない映画だけど、オレは全五作を観るよ。

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