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光る家具

今から15年前、福岡のお洒落な洋服屋さんで友人のSはひとつの商品を手に取ったまま動かなくなってしまった。

今も昔も田舎者の僕は、高価そうなスピーカーから素敵なR&Bが流れてくる空間に若干気後れしながらも、初めて見る全ての商品が新鮮でワクワクしながら店内を見て回っていた。

ふとした瞬間に友人のSは覚悟を決めた表情になり、ずっと持っていた商品を手に、レジに向かって行った。店員さんはとてもとても可愛い人だった。

店を出てしばらく歩いたところで友人に何を買ったのか尋ねてみると、高価そうな紙袋から取り出して見せてくれた。しっかりとした生地に小さいけど鮮やかな刺繍の入った黒いボクサーパンツだった。値段のタグはついていなかったけど、会計のときに6千円払ってちょっとお釣りを受け取っていたのは見えていた。

『お洒落っていうのはこういうことなのか!』

近所のスーパーで売っているトランクスしか持っていなかった僕が受けた衝撃はとても大きかった。地元の木工所に入って2年程しか経っていない僕の日当とほぼ同じ金額のボクサーパンツ。あまりの衝撃に戸惑っているとSは僕に向かってこう言った。

『はい!誕生日プレゼント!20歳おめでとう!』

中学で同じ部活に入り仲良くなったS。家に遊びに行くと、Dragon AshのBuzz Songsが流れている部屋で雑誌Smartの【ちんかめ】とか漫画のBECKを読んだりプレステのウィニングイレブンとか鉄拳をしたり、義務教育とは違う部分の教養はSに多くのことを教わっていたし、面と向かって伝えることはなくても、尊敬できる数少ない友人であり続けてくれていた。

そんなSへの20歳の誕生日のお祝として作った照明。

当時から音楽が大好きで沢山のCDを持っていたからCDラックとしても使えるようになっている。

あれから15年。何故こういうかたちで作ろうと思ったのか、プレゼントとして渡したときにどんなリアクションだっのか、全然覚えていないこともたくさんあるけど今も来客用の部屋で使ってくれていることをとても嬉しく思う。



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