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カティリナ演説 Quo usque tandem abutere, Catilina, patientia nostra?

カティリナ演説は、古代ローマの政治家であるキケロ(マルクス・トゥッリウス・キケロ)が紀元前63年に行った一連の演説です。これらの演説は、ローマの政治家ルキウス・セルギウス・カティリナ(カティリナ)が企てたとされる陰謀(カティリナ陰謀)を暴露し、阻止するために行われました。

カティリナ陰謀は、ローマ共和政の安定を脅かすクーデター計画で、カティリナと彼の支持者たちは政府を倒し、自らの権力を確立しようとしていました。キケロは当時ローマの執政官(コンスル)であり、カティリナの計画を未然に防ぐために国民に訴えかける必要がありました。

キケロはカティリナ陰謀を公然と非難し、カティリナとその支持者たちを糾弾する四回の演説を行いました。これらの演説は、「カティリナリア」とも呼ばれ、キケロの弁論術と政治的手腕を示す古典として評価されています。特に有名な第一演説は、「Quo usque tandem abutere, Catilina, patientia nostra?」(いつまで我々の忍耐を試すのか、カティリナよ?)というフレーズで始まります。この演説によって、カティリナはローマを離れ、後に反乱を起こすも失敗に終わります。

「Quo usque tandem abutere, Catilina, patientia nostra?」というフレーズは、キケロのカティリナ演説で最も有名な部分です。この文を文法的に解析していきましょう:

  1. Quo - この単語は副詞で、「どこまで」という意味です。ここでは疑問副詞として使われており、リトリカルな質問の形を取っています。

  2. usque - これも副詞で、「ずっと」という意味です。この単語は「quo」と一緒に使われることが多く、「どこまでずっと」という意味合いで質問の範囲や強度を強調します。

  3. tandem - 副詞で、「ついに」「とうとう」といった意味を持ちます。この文脈では、反語的なニュアンスを加え、長引く状況に対するいらだちや急迫を表現しています。

  4. abutere - 「abutor」という動詞の2人称単数未来完了時制能動態です。この動詞は「abusus」を根幹とし、「〜を濫用する」という意味があります。「abutor」は複合前置詞「ab」から始まり、「〜から遠ざかる」という意味が強調されています。未来完了時制はここで「これ以上(未来に)継続するのか」という意味合いを含んでいます。

  5. Catilina - これは人名で、カティリナを指します。演説の中でキケロが直接呼びかける形で使っています。

  6. patientia - 「忍耐」を意味する名詞で、女性形単数主格です。ローマ人にとって政治的、道徳的美徳として非常に重要な概念です。

  7. nostra - 形容詞「noster, nostra, nostrum」の女性形単数主格で、「我々の」という所有を示しています。ここでは「patientia」(忍耐)を修飾しており、「我々の忍耐」となります。

全体として、「Quo usque tandem abutere, Catilina, patientia nostra?」は「どこまでとうとう濫用するのか、カティリナ、我々の忍耐を?」と訳され、カティリナがどこまでローマ人の忍耐を試すのか、という強い非難の問いかけとして機能しています。


「abutor」はラテン語の動詞で、「〜を乱用する」、「〜を悪用する」などの意味があります。この動詞は、一般的に不定詞で「uti」(使う)という意味の動詞を反射的な形にしたもので、前置詞「ab」が付加されています。このため、通常「ab」(から離れて)の意味が含まれ、「本来の目的から外れて使う」というニュアンスがあります。
「abutor」は第三活用の不規則動詞で、複合動詞としての特性を持ちます。また、この動詞はablative case(奪格)を伴うことが一般的です。

活用表

ここでは、「abutor」のいくつかの主要な形を紹介します。

  • 現在形

    • 1人称単数: abutor

    • 2人称単数: abuteris

    • 3人称単数: abutitur

    • 1人称複数: abutimur

    • 2人称複数: abutimini

    • 3人称複数: abutuntur

  • 完了形

    • 1人称単数: abusus sum

    • 2人称単数: abusus es

    • 3人称単数: abusus est

    • 1人称複数: abusi sumus

    • 2人称複数: abusi estis

    • 3人称複数: abusi sunt

  • 未来形

    • 1人称単数: abutam

    • 2人称単数: abute

    • 3人称単数: abutetur

    • 1人称複数: abutemur

    • 2人称複数: abutemini

    • 3人称複数: abutentur

例文


現在形

  • 1人称単数: Abutor tempore tuo.(私はあなたの時間を濫用しています。)

  • 2人称単数: Abuteris patientia mea.(あなたは私の忍耐を濫用しています。)

  • 3人称単数: Abutitur privilegio suo.(彼/彼女は自分の特権を濫用しています。)

  • 1人称複数: Abutimur bonitate eius.(私たちは彼の親切を濫用しています。)

  • 2人称複数: Abutimini fide populi.(あなたたちは人々の信頼を濫用しています。)

  • 3人称複数: Abutuntur potestate.(彼らは権力を濫用しています。)

完了形

  • 1人称単数: Abusus sum fiducia tua.(私はあなたの信頼を濫用しました。)

  • 2人称単数: Abusus es opportunitate.(あなたは機会を濫用しました。)

  • 3人称単数: Abusus est auctoritate.(彼は権威を濫用しました。)

  • 1人称複数: Abusi sumus hospitalitate.(私たちはもてなしを濫用しました。)

  • 2人称複数: Abusi estis patientia magistri.(あなたたちは教師の忍耐を濫用しました。)

  • 3人称複数: Abusi sunt potestate sua.(彼らは自らの権力を濫用しました。)

未来形

  • 1人称単数: Abutam bonitate tua.(私はあなたの善意を濫用するだろう。)

  • 2人称単数: Abute patientia nostra.(あなたは我々の忍耐を濫用するだろう。)

  • 3人称単数: Abutetur auctoritate.(彼/彼女は権威を濫用するだろう。)

  • 1人称複数: Abutemur opportunitate.(私たちはこの機会を濫用するだろう。)

  • 2人称複数: Abutemini potestate.(あなたたちは権力を濫用するだろう。)

  • 3人称複数: Abutentur privilegiis.(彼らは特権を濫用するだろう。)


ラテン語にはいくつかの動詞があり、その完了形(Perfect tense)の能動態(Active voice)を形成する際に「sum」(ラテン語で「be」、つまり「である」の意)を補助動詞として使用します。この特性は主に不規則動詞や複合動詞に見られ、特に奪格(Ablative case)を伴う動詞で一般的です。

特殊な完了形能動態の特徴

このタイプの動詞は、通常の動詞が単に語幹に過去時制の接尾辞をつけて形成されるのに対し、完了形を作るために「sum」と組み合わせて使用する点が特徴です。この形式は「deponent verbs」(中動態のみを持つ動詞)や一部の不規則動詞で顕著です。

複合動詞とは

複合動詞は、通常、単純な動詞に一つ以上の接頭辞が付いた形です。例えば、「abutor」(濫用する)は、「utor」(使用する)に「ab」(離れて)という接頭辞が付いた複合動詞です。これらの複合動詞は、しばしば特定の文法的構造を必要とし、完了形では「sum」と組み合わせて使われることが多いです。

例文と解説

  • abutor, abuti, abusus sum(濫用する)

    • この動詞は奪格と共に使われることが多く、「ab-」という接頭辞が「使う」という意味の「utor」に付いています。

    • 完了形の能動態では、動詞の完了形の過去分詞「abusus」に「sum」を組み合わせて使います。

      • 1人称単数: abusus sum(私は濫用した)

      • 2人称単数: abusus es(あなたは濫用した)

      • 3人称単数: abusus est(彼/彼女は濫用した)

      • 1人称複数: abusi sumus(私たちは濫用した)

      • 2人称複数: abusi estis(あなたたちは濫用した)

      • 3人称複数: abusi sunt(彼らは濫用した)

この形式は、英語の「have」や「be」といった補助動詞を使って過去形を形成する方法と似ていますが、ラテン語では完了形が行為が完了したことを強調し、時制としての過去よりもその結果の完了性に重点を置いています。


「abuse」という英語の単語は、中英語を経て古フランス語の「abuser」から来ていますが、その起源はラテン語の「abutor」にあります。これは「不正に使用する」、「誤用する」といった意味で、英語の「abuse」が持つ「濫用する」、「虐待する」といった意味と直接的につながっています。

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