RED BLADE(仮題)vol.4

ステージではTWO LEGS MUSCLEの撤収作業が終わり、総合格闘技で使用される金網で囲った円状のリングが現れていた。FULL BODY MUSCLEという名前と目の前に広がる光景に誰もがどんな競技が行われるか想像がついていた。

場内が暗転し、リングの中央に立つギャラクシー鈴木をスポットライトが照らした。

『みなさん大変お待たせいたしました!Aesthetic body celebrationのメインマッスル、FULL BODY MUSCLEをスタート致します!競技に先立ちましてエントリーしていただいた9名をご案内させていただきます!』

スクリーンには9名の名前とともにトーナメント表が映し出された。

『最も強いものは誰だ??最も美しい筋肉を持つものは誰だ? 決めようじゃないか最強を!!!!! 』

かしこまった鈴木がアナウンスすると場内が明転し、リング上にはフィンガーグローブを装着した9名の女性達が顔を揃えていた。この競技を知ってか知らないでか、前2つの競技に比べ、ただ屈強な筋肉を身に纏うだけではない、実用性を重視した体つきのものが多かった。

『これからこの9名に行っていただくのは格闘技、対戦勝ち抜き方式の総合格闘技です!全身の筋肉と己の技術を結集した闘い、これこそ6maker様の心を躍らせる最高のSHOWTIMEです!!!』

『さっそくルールを説明いたします!1ラウンド5分、ラウンド数は無制限。相手をKOするか、タップで試合の決着となります。噛み付き・眼球への攻撃、口腔・鼻腔・耳腔等の開口部に指を引っ掛ける行為は反則負けとなります。そしてさらにっーーー!!!この競技では金網を越えて場外に出てしまった方も敗退とさせていただきます。』

『と、ここまでは一般的な格闘技のルールとなりますが、このフルボディーマッスルは3人一組で戦っていただくバトルロワイヤル方式!!!対戦相手が定まらない乱戦が予想されます!』

『THREE OVER THE WIRE NET DEATH MATCH!!! これがフルボディマッスルの全容となります!』

『それでは、さっそく第一試合を始めます!!!』

館内は熱気は最高潮、観客席の全員が立ち上がりリングに向かって怒号に似た歓声をあげた。

シアラーは1組目。

対戦相手は胸にさらしを巻き、”天下消滅”という刺繍刻まれた紫ボンタンをはいたヤンキー風の女性、柏木渚沙。
もう一人はミラ・サンダース、左腕の肩から手首にかけて入るナスカの地上絵を模したタトゥーが嫌でも対戦相手を圧倒する。

両者とも170cmはゆうに超えるであろう体格に二人ともに自分より階級は上であることは間違いないが、シアラーはおいしい獲物を目の前にした百獣の王のごとく、狂気を内に秘めた静けさで相手を見つめ、ニヤリとしながら右手の拳を左手の手の平に繰り返し当てその時を待っている。

リング上には3人とレフリーが1人、鈴木はアナウンスを終えると金網の一部を開き、場外へ出ていった。円形のリングの中に正三角形を描いた頂点に3すくむ状態で立たされた3人。肩の高さくらいまでに貼られた金網に寄りかかりながら各々対戦者を交互に観察し、出方を伺っている。

『FULL BODY MUSCLE第一試合! Ready・・・ Fight!!!』

ゴングが鳴るも3人とも出方を伺い、その場から動かない。しかしその間も観衆からは激しい罵声・怒声・歓声が飛び交い場内を盛り上げる。

すると意を決したように2人が動き出す、矛先はシアラー。

”弱そうなものから潰す” 

その大原則に渚沙とミラが自然発生的に共闘した形となった。

「な、なによ、あんたらきったないわね!!!スポーツマンシップはないわけ?!!??」

間合いという絶大なアドバンテージも持つ二人。ジリジリと距離を詰める。

”やばっ あと3歩詰めよられたらさすがにまずい・・・”

左右から迫る二人にこのまま待していては完全な挟み撃ちになる、そう思ったシアラーは直感的に左からくる渚沙の方へ視線を移し、仁王立ちの姿勢から直接、右足を強く踏み込み、低い姿勢をとり渚沙との間合いを一気に詰めた。

予備動作なく間合いを詰められた渚沙は対応できない。

タックル切りの姿勢に持ち込み、膝蹴りを打とうとするがシアラーの踏み込みはすでに渚沙の間合いの内側。

目の前にあったはずの間合いを盗まれたような感覚を覚えた次の瞬間、シアラーの左肘がさらし越しのみぞおちに深くめり込んだ。その肘撃ちの突進力は凄まじく、渚沙の身体はくの字に大きく曲がった。

”ぐふっ・・・”

急所を一撃でえぐられた渚沙は息ができない。しかし負けじとする意思のみでそのまま前に倒れながらシアラーをベアバッグで捉えようと両手を広げる。

後方に立っていたミラはその時を見逃さず、完全に後ろをとったシアラーの右脇腹めがけて思いっきりミドルキックを放った。

”ウォラーーーーーっ!!!”

しかし右ミドルが食い込んだのは渚沙の左テンプル。

「そーーーんなのバレバレじゃん? バカなの??私が視えてないとでも??」

ミラがミドルキックを放った瞬間、シアラーは宙高く飛び抜けミラの間合いから外れたのだ。

渚沙は前にかがもうとしたところにカウンターで蹴りが入った為、そのまま大きく吹き飛ばされ、金網に叩きつけられた。意識はもう無い。

シアラーはミラの右後方に立っている。

「あんたたちは力は強いかもしれないけど、私のスピードにはついてこれないんじゃない??んま、力でもたぶん負けないけどね。」

『ダウーーーーーーーーーーーーーン! ワーン!ツー!スリー!・・・』

「あーーーじれったい! そんなカウント待ってられないっつーの」

「ほらよっと」

渚沙の身体を両手で高く持ち上げるとそのまま金網の外で放り投げた。無造作に投げられた身体は場外のマットの上に形を崩しながら大の字に倒れた。

「これで一人目おわりっと。さ、次はサシでいこーね♬」

『かかか、柏木選手リングアウトにより敗退となります!!!』

場内はあまりの一瞬の出来事に何が起きたのか理解できず静まりかえったが、その後すぐに元の騒然紛然とした状態に戻った。

”---ぉーーーーーーーーやるじゃん小娘!!!---”
”---やってれやったれーーーーーー!!!---”

(小娘って・・・言ったやつどいつだ・・・顔覚えておこっと)

観客席をぐるっと見回しながらシアラーは左肩を回している。そして目の前の立つミラ・サンダースに話しかけた。

「あなた達は個対個が当たり前かもしれないけど、私はいつも1対多だからね。勝つために色んな手をつかってきたわ。そういう意味ではこの競技は私向きかもしれないわね~、んま参加はたまたまだけど。ねぇ!おねえさん!おねえさんって前 何やってたの??その構えをみると・・・柔道?いやアマレスかな??」

ミラはゆっくりとうなずく。

「やっぱり?!んじゃ私とレスリングで勝負しよう!!!よくない??おねえさんにとって有利だし、私ももっと強くなりたいからさ!ウチにも組技とか逆技はあるから大丈夫心配しないで」

「否定しないってことはOKってことね!んじゃ決まりー!」

とんとん拍子に話を進めたシアラーはミラと同じくやや膝を曲げたスタイルで構えをとり、距離を詰めていく。

腰を曲げた低い姿勢をキープしながらレスリング特有の手を取り合う動作をしながら自分に有利な体制をとろうと互いに探りをいれる。

さっきとは打って変わった地味な展開に観客からはブーイングが起きる

手をつかみ、腕をとっては振り払いの攻防が続く中、ミラが動く。自身の右手で掴んだシアラーの左腕を引いた瞬間の一瞬の重心のズレを見逃さず、シアラーの左足に向かって高速タックルを仕掛ける。

シアラーもこれに応戦、右足を大きく後方に下げ、腰を落とし、タックルを潰そうとする。

「く・・・やるじゃん」

右手でミラの左肩を抑え、突進を抑えようとするがミラは潰されたままシアラーのふくらはぎ付近をがっちり抱え、そのまま金網に向かってシアラーを押し込む。
左手でミラの後頭部を押さえつけ、潰そうとするも、がっちりホールドされたタックルをミラが離すことはなく体重の軽いシアラーはそのまま押し込まれ、金網に背中をつけた状態でふとももを抱えられる形に持ち込まれてしまった。

”やっば・・・”

次の瞬間、ミラは左脚を抱えたままシアラーの腹部に肩をあてそのままリフトする。シアラーの視線はミラの背中を見る形になり、肩で担がれた米俵のよう恰好になったシアラー。

そのまま大きく身体を反り、後ろへ頭から落とそうとする。

危険な体勢でのドロップに観客も息を飲む。

落とされながらも身体の位置をずらしギリギリ肩で受け身をとったシアラーだったが、体重差から生まれる着地の衝撃はすさまじく、一瞬意識が飛ぶ。

”ぐっ・・・”

ミラはドロップした後、マウントポジションでシアラーを押さえ込もうとすぐさま身体の向きを入れ替える。

しかし、その時を見逃さないシアラー。

ミラが身体の向きを入れ替える瞬間、無防備になったミラの右腕を下から自分の胸のほうに引き込み、そのまま自身の右足で相手の首をロックした。ミラが暴れれば暴れるほど極まっていく、さらに自分の右足首に左足をかけ、つま先を立てる。

完全に決まった三角締め。

幾千と行ってきた体格差のある相手とのスパーリング。あいつはいつだって手加減なしだった。意識が飛びそうになりながらも身体の細胞レベルの反応で反撃にでたシアラー。完全に首が決まったミラは苦悶の表情を浮かべる。

「なかなかネバるじゃん・・・したらこれでどう??」

シアラーはミラの右腕を自分の身体の右側に流し、さらに両手で頭を押さえ落としにかかった。

「きまったね?タップしたら??・・・早くしないと落ちちゃうよ」

シアラーの鍛え上げられた筋肉と自身の肩でミラの頸動脈が絞られていく。

紅潮するミラの顔面。

” オ ト セ!!! オ ト セ!!!”
” オ ト セ!!! オ ト セ!!!”
” オ ト セ!!! オ ト セ!!!”

館内は人が意識を失うその瞬間を今か今かと待っている。

しかし。

ミラは首を極められながらも自身の両脚をシアラーの腰あたりまで持っていき、四股を踏んだような状態となった。そのまま空いた左腕をリングにつきながら、背筋に力を込める。

シアラーの身体が少し浮くような形となったところで、床から左手を離し、左手でシアラーのベルトを掴むとそのまま力だけでシアラーをリフトアップしていく。

「ちょ・・・どんだけ怪力なの??」

このまま頭を抱えた状態は危ない。そう判断したシアラーは両手を離し、自身の脚をミラの首にかけたままぶらさがり、脱力しながら攻め続けるも、ベルトを掴まれポイントをずらされ極まりきらない。

”ん゛ぁーーーーーーー”

声にならない声で気合を入れたミラは左腕一本の力のみでシアラーを持ち上げ、パワーボムに似た体勢から、そのまま重力の力でシアラーをリングに叩きつける。

両手は空いていたものの力任せにリングに後頭部から叩きつけられるシアラー。しかしロックはほどかない。

「一回極めたら死んでも離すなってね・・・」

一回で外れなかったと分かるとミラは何度もリフトアップし、そして落とした。

激しく暴れる猛獣とそれを押さえこむ狩人の我慢比べ。

ミラが意識を失うのが先か?シアラーが衝撃に耐えられなくなるのが先か?

リング上には叩きつけられたシアラーの汗と抜けた髪の毛が散乱する。トレードマークのお団子が見る影もない。

消耗戦に疲れ切ったミラは今度は持ち上げたまま、金網の方に向かいシアラーを金網の縁にたたきつけようとする。ある程度やわらかいリングとは違い金網の縁はむき出しの鉄である。その角に頭を叩きつけられればさすがのシアラーもたまったもんじゃない。

「こいつわたしを殺す気?・・・あー そのまま場外勝ちを狙うってわけ??・・・ったくあいかわらずスポーツマンシップの風上にもおけないわね・・・」

シアラーは抱えられながら自分の今いる位置から金網との距離を逆算し、金網に達する前に脚のロックを解き、身体を捻じり自身のベルトを握っているミラの左手を切った。

すぐさま互いに距離をとり、大きく肩で息をする。

”ぉーーーーーーーーやったれやったれーーー””

初戦から息を飲む展開に観客席は大盛り上がり。

「うっそー!ちょっとあの子結構苦戦してるじゃない!!相手もなかなかの手練れね。」
「どんだけ修羅場くぐってるか?追い詰められたときに真価が問われるわね」

YUHはシアラーの苦戦ぷりを半分楽しんでるようだが、Dinnerは脚を組みながら淡々と試合を観察している。

『フゥ・・・フゥ・・・』

頸動脈の血流をシアラーの脚でしばらく遮断されていたミラの意識は少なからず朦朧としている。視界はぼやけ、膝に手をつき息を整える。

シアラーは相手を視線に捉えたまま自身の口を右手で拭う。
拭った右手には赤い血がべっとりついた。先ほどのパワーボムの連打で口の中が切れたようだ。

「野郎・・・殺す」

お互い息が整ったところで、改めて構えをとり対峙する。

ミラは相変わらずのレスリングスタイルで間合いを詰めてくる。身長差をいかし、遠くの間合いから一気に攻め込む姿勢だ。

対してシアラーはシンプルに胸の前で拳を軽く握り、すり足で間合いを計りながら後退する。

シアラーの背中が金網に近づいたとき、ミラが低い姿勢でタックルをしかけた。

「相も変わらずワンパターンね!!!」

シアラーは素早く右に動き、ミラの肩を左手でいなしながらタックルをかわす。

自分のタックルの勢いを利用され、相撲の肩透かしをくらった形で前につんのめったミラは金網にぶつかり、金網とシアラーに挟まれる形に追い込まれる。

「ふふん♪ これで形成逆転と」

自分で選択できるのは左右か前への移動、レスリングにはないこの状況にミラはやや動揺する。

覇気・オーラ・殺気。
人がもつ戦闘的な匂いのようなものが一瞬薄れた時、この試合は決したのかもしれない。

シアラーは目を閉じゆっくりミラに向かって歩きながら、肺にゆっくりと酸素を取り入れる形で独特の呼吸をする。周りにある空気が色づくような呼吸法はうねる龍のように対流を起こし、鼻から入りそして口から吐き出される。

1歩・2歩・・・

その形相にミラは後ずさる。金網を背にし、後はない。

「さぁ覚悟しな、久しぶりに血を見る闘いをしてくれたあんたにわたしのとっておき、見せてあげる」

シアラーは体内に貯めた殺気を一気に吐き出す。

「いくよっっっ!!!!!!」

大きく左足をリングに叩きつけるように踏みこみ、と同時に腰を右に素早くひねり、右手を大きく後ろに引く。
足から腰へ伝わった力を全て左腕に集約し、一気に左手の掌をミラの胸部に向かって放つ。
小さな身体から放たれた空気を切り裂く一撃は大きな丸太で城門を叩いたような重い衝撃を体内にもたらした。

渾身の1撃をくらったミラは白目をむき、金網にもたれかかりながら気絶した。

シアラーの踏み込んだ左足はリングをえぐり、ミラの背中の金網は人の手ほどの大きさで大きく歪んだ。

「どう??私の得意技、通背掌。内側から効いてるでしょ??」

「つーか、レスリングだったの忘れてた♬」
「 でもこれじゃ満足できない、さっきのパウンドのお返ししなきゃ」

シアラーはミラに近づき彼女の両腕を自身の両腕で外側から抱えがっちりホールドし、崩れそうになるミラを持ち上げた。

「はい、これでTHE END!」

そのまま腕を極めながら身体を大きく後ろに反り、弧を描きながら力任せにスープレックスにもっていく。ミラがリングに着地する瞬間、シアラーは両腕のロックを外しそのままミラを投げ捨てた。

背中から叩きつけられたミラはリングの中央で力なく倒れた。右腕は逆くの字に折れている。

「あ、ごめんやっぱ折れちゃったね。投げっぱなしたから大丈夫かと思ったんだけど」
「最後はシンプルにかんぬき落とし♬」

「ありがと、楽しかったよ」

怒涛の展開に会場全体がしばらく息を飲んでいたが、身長差・体重差のハンデをものともしないシアラーのバトルに会場の興奮は絶頂に達した。

”---おぉーーーーーーーーやるじゃねーか小娘!!!---”
”---ハンパねーーーーー!!!---”

『ダウーーーーーーーーーーーーーン!!!!』

レフリーが急いでミラのもとに駆けつける。すぐ様、意識がないこと確認すると、立ち上がり両手大きく振りながら試合の終了を合図した。

それと同時にギャラクシー鈴木が立ち上がる。

『なんとも激しい展開!圧倒的体格差をはねのけて・・・勝ったのはシアラー選手。素晴らしい戦いです!!!!』

『改めてコールいたします!FULL BODY MUSCLE 1回戦の勝者はーーーー・・・』

『シアラー ・リー・・・』

そう、ギャラクシー鈴木がコール仕様としたとき・・・

”ドカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン”

けたたましい轟音の後、巨大な鉄塊が回転しながら飛来し、金網に突き刺さり、リングを破壊した。突き刺さったのはロビーと会場を隔てる巨大な鉄扉であった。会場内の視線が一気に飛来元であろう方向に向けられる。

女性達の目に写ったのは、女性と思われる人体を片手でもった得体のしれない何かであった。

“Gruuuu・・・・・・”

--- キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!! ---

To Be Continued


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