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RED BLADE(仮題)vol.1

「あんた、せっかく招待されたってのにいつもと同じ恰好じゃない?その青のブルゾン何枚持ってんのよ・・・やる気あんの?」

 「いいのよ、この恰好が一番落ち着くの!!あの時だってこれで撮ってもらったんだし、あんたこそあの時、よくあんな恰好出来たわね、ほぼ裸じゃん アレ」

「う、うるさいわね、、ついテンションがあがっちゃっただけよ・・・」

 「どうだか・・・笑」

頬を紅潮させながら否定するこの女性はDinner、もうひとりはYAMADA YUH。ふたりは同時期に高名な写真家のモデルになったことがきっかけで連絡をとるようになり、今では二人で食事にいくほどの仲になっていた。

違うGUILDに所属している二人だが馬が合うのか、こうしてよくふたりで行動している。

晴天に恵まれた土曜日。
今回、二人はパーティに招待されていた。荒廃した2050年のIRLの東京ではBrainverseに招聘でもされなければ豪勢なパーティなど開催する余裕など、ましてやPUNKSがそこに参加することなど叶うわけもなかった。

会場に着くまでの間、2人は互いの中にある高揚した気持ちを隠しながらも、いつも同じテンションでおしゃべりしながら歩いていた。

主催は写真家 6maker。
今回200人を超える被写体を撮り続けたことを記念して、モデルになってくれた女性たちに感謝を伝える場として開催を決めたようだ。

普段、対Brainverse活動を主としている二人にとって、今日ばかりは”女の子”としての自分に戻れたようで非日常を満喫している。

会場は6maker氏のアトリエの近くにある倉庫跡地。

会場に近づいてくると気づけば周りは女性ばかりとなっていた。その恰好は様々でメイドやチャイナドレスにリングコスチューム、中には水着で来ているものもいる。
ただその女性たちに共通していたのは纏う衣装の印象を食ってしまうほどの隆々とした筋肉を携えていることであった。

「ちょっとすごいわね・・・。私たち来ちゃって大丈夫だったのかしら」
やや不安げにYUHに話しかけるDinner。

 「なにいってんの!私たちだって立派な招待客よっ!なんにもビビることないじゃない」

Guild-NEOTOKYOPUNKS GuildMaster YAMADA YUH。シルバーヘアーのポニーテールにネイビーのブルゾン、黄色のバタフライゴーグルが彼女のトレードマークである。この歳にしてギルドマスターに推挙されるほどの行動力と意思の強さ、そしていざというときに年上のDinnerさえも勇気づけるこの快活さがYUHの魅力である。

「PULLちゃんとSRさんも招待されてるはずだけど・・・来てないわね。」
YUHは周りを見渡しながらつぶやいた。

「SRさんは仕事で忙しいんでしょ??・・・と言いたいところだけどホントはモデルは女性ばっかりだから恥ずかしかっただけじゃない?・・・笑  PULLも最近ラーメン屋さんを手伝い始めたらしいから・・・さすがに土曜は、ね?」

DinnerとYUHは互いにそうは言いつつも自分達が場違いなんじゃないか?という思いを抱えながら会場の入口前についた。

小学校の体育館ほどあるであろう切妻屋根型倉庫の正面には大きい荷物も搬入できるような巨大な両開きの2枚扉が設置されていた。
そのドアの脇に小さな机があり、机には”reception”と書かれたネームプレートが置かれていた。少々華奢な女性が一人で受付をしている。

二人は受付の女性に対し、それぞれ自身の名を名乗った。

「はい、YAMADA YUH様と、Dinner様ですね。伺っております。Dinner様、確認のためlast nameもお教えいただいてよろしいでしょうか。」
受付の女性の笑顔とやや事務的なトーンのギャップに二人は少々たじろいだ。

「goodspeed,Dinner goodspeed」

「はい、Dinner goodspeed様、確認させていただきました。こちらが今回の入館証となっております。当施設にご入場の際、忘れずにこちらを左胸につけてくださいませ」

と言いながら渡された名刺横型の入館証は141.Yuh Yamada、167.Dinner goodspeedと記載されているだけのシンプルなものだった。

「なーんか随分と受付はシンプルね。んま!ごちそうが食べれると思えばどーってことないわね!6makerさん主催のパーティだかんね、めっちゃ豪華なのは間違いなし!私たちも分け隔てなく招待してくれるなんてさっすが6makerさんだわ!」

「まったくだわ」

ふたりは意気揚々と倉庫の扉を開けた。

天井にいくつもぶら下がるシャンデリア。幾何学模様が幾重にも重なる絨毯。定間隔に設置された円卓には真っ白なテーブルクロスが敷かれ、その上には津々浦々の名産品と湯気立つ料理。黒服を着たウェイターが運ぶトレンチ上には背の高いグラスに注がれたスパークリングワイン。

豪華絢爛。そんな光景が目に飛び込んでくるものとばっかり思っていた二人は少々面くらった。

二人の眼に映ったのは、野戦病院。

一言でいうとその表現が一番しっくりくるのかもしれない。だだ広い空間には無数のベッドが整然と並べられていた。野戦病院と違うのはベッドの周りにあるのは点滴や洗面台ではなく数本のケーブルと腰の高さほどの収納箱があることであった。

「な、なによこれ・・・」
 「どういうことなの・・・これ」

戸惑う二人を余所目に他の参加者の女性達は次々と自身の番号が附番されたベッドに着座ししていく。

「受付の異常なシンプルさからやや違和感感じてたけど、なんかヤバいとこ来ちゃったんじゃない?Dinner・・・」

 「私たち、なにか勘違いしてたかもしれないわね・・・でもなんかゾクゾ   クしてきたわ・・・」

「ちょ・・・やっぱあんた、顔に似合わず変態ね」

健康的に焼けた肌にシルバーのワンレンヘアー、すらっとした背丈・スタイルと対照をなす右手の義手が彼女の特徴だ。背中の大刀は肌身離さず携えているが、ここ近年は抜いていない。Guild-WAGMI Dinner。今は特殊戦闘集団であるWAGMI内の技術開発を取り仕切る頭脳明晰な技術肌の女性である。彼女の好奇心の旺盛さは時に周りを困惑させる。

小声でやりとりする二人の頭上からスピーカーから館内アナウンスが流れてくる。

---- 本日は6maker主催、Aesthetic body celebrationへようこそいらっしゃいました。それぞれのベッドに着座されましたら設置してあるテンプルパッドを装着いただきますようお願い申し上げます。パーティはまもなくスタートいたします。貴重品・銃火器等はベッド脇の収納ケースにお入れ頂き、脳波認証の上、確実にロックしてくださいませ。それではパーティの開始までいましばらくお待ちくださいませ。----

「つまりこれって・・・6makerさんが独自に作ったメタバースにログインするってことよね・・・」

 「たしかに・・・今の時代、豪華絢爛なパーティーなんてあるわけないと思ったけどこういうことね・・・ でも・・・ワクワクしない!??YUH??」

「はいはい・・・6makerさんのことだから安心だけど、一体なにするのかしらね」

 「んまとにかく行ってみましょ!・・・んじゃまた後でね」

そう言うとDinnerは自分の番号が書かれたベッドへ向かっていった。

『Aesthetic body celebration』直訳で審美的な身体の祭典・・・二人の身に何が起こるのだろうか。

-------

----まもなくパーティ会場へのログインを開始いたします。テンプルパッドの装着はお済でしょうか。ご不明点ございましたら近くの係員までお声がけください----

周りにいる女性達の多くは既に準備を終えたのか、ベッドに横たわっている。

会場に入った時に見えたケーブルの先端には低周波治療器のような形状の薄いパッドが接続されていた。
周りを見渡し、小さくL・Rと書いてあるその装置をこめかみにつける。そう判断したYUHとDinnerはそそくさとテンプルパッドを自身のこめかみにあてがった。
ひんやりとした感触のあとに強く吸いつくような動作をしたあとパッドは二人のこめかみにしっかりと接着した。

脳内に直接アクセスし脳波を操作するような感覚であろうか。幸いにも薄いパッドであったのでYUHのバタフライマスクやDinnerのゴーグルに干渉せず装着できた。

「ゴーグルは銃火器じゃないものねOKOK、この子はどうしようかしら・・・んま、大丈夫よね。この子は相棒だもの。・・・ にしてもメタバースへのログインもずいぶん簡単になったものね。。」

Dinnerはひとり言をつぶやきながらベットに横たわった。

参加者のほとんどが準備を終え、聞こえてくるのは装置から発せられる電子音と、目をとじてログインの時を待つ参加者の呼吸音だけになろうかという時と同時に館内アナウンスが流れる。

----みなさま、大変長らくお待たせいたしました。それでは順番にログインを開始致します。ログイン時にはパッドから微量の電気が流れますが・・・----

 
”ガチャっっっっ!!!”

アナウンスの女性の声を遮りながら正面の扉が大きな音を立てて開いた。静かに横になっていた女性たちは一斉に身体を起こし、音のした扉付近に一斉に視線を向ける。

「あーーーー 間にあったーーーーーーーーーーーーーっ」

大きな声で叫んだ女性は自分に向けられる視線をかき分けるようにズカズカと会場内に入ってきた。その後をあの受付の華奢な女性が焦った表情をしながら追いかけている。

『お客様っ!困ります!!!名簿に記載のない方は6maker様より、入館を禁じられております!』

「なによ???私だって昔、6makerさんのモデルになったことあるんだけど???と言ってもだいぶ前だけどね」

ずかずかと入ってきた女性は受付の女性のことなど意に介さず空いているであろうベッドに向かっていく。

『お客様っ!お止まりください! ・・・止まりなさいっ!』
『煙草の火も消しなさい!館内火気厳禁ですよ!!!』

受付の女性の語気は高まる。

「あー・・・そう?そうだったの。ごめんね?」
そういうとその女性は空いたベッドに腰掛けながら煙草の火を人差し指と親指で躊躇なく挟み、火をもみ消した。焦げ臭い匂いが女性の周りに立ち込めた。

「もういいでしょ???どうせ枠は余ってるみたいだし」

煙草を指で消したその仕草に周りの女性達はたじろいでいる。その動揺に連鎖するように館内はざわつき始め、落ち着きがなくなっていた。

---おもしろい!!!参加を認めようじゃないかシアラー君。ずいぶん久しぶりだね---

「そうね、アレはまだ道場にいた時だったからね」

スピーカーの主音声に割り込むような電子音のあとに太い男性の声が館内に響く。声の主は6maker。当パーティーの主催者であり写真家。そして部類の筋肉愛好家である。

『6maker様よろしいのですか?!決められた参加者以外を認証するには一旦セキュリティをダウンさせる必要が御座いますが?』

『かまわない、一瞬のことだろう』

シアラーと呼ばれた女性はベッドに腰掛けながら両足をブラブラさせている。流れるような動作で指の間にタバコをもち、ジッポで火をつける。大きく息を吸い、肺にたまった煙を一気に吐き出す。

初夏を待った蛍が発光するかのように、煙草の先端がゆらゆらと暗闇の中を泳いだ。

「さっすが6makerさん!んじゃ遠慮なく参加させてもらうわね!受付のおねーーーさーーーん、私にもバッジ?みたいなのチョーーーダイね♪」

「YUHさんにDinnerさん、いるんでしょー!!!??また後でね~」

シアラーは大声をあげながら勢いよく横になる。タバコは口に加えたままだ。
先ほどまで語気を強めていた受付の女性は不満げな表情をしながら踵を返し、自身の持ち場まで手続きをしに戻っていった。

お団子ヘアーに迷彩柄のマスク。骨模様がプリントされたTシャツは彼女の所属するGiuldの象徴といえる。Guild-SKULL GuildMaster SHEARER。かつては武術の道場に通う清廉な女性であったが、あの事件をきっかけに性格が変貌を遂げる。鍛え上げられた武術と躊躇のない破壊行動はPUNKS全体に恐れられている。

「あいつ・・・どこで情報を仕入れたんだか・・・」

 「・・・はぁー・・・」

YUHは呆れ顔でつぶやき、Dinnerは溜息だけをもらした。

電子機器の動作音が一旦おさまり、テンプルパットの吸着力が弱まったかに思えたが、10秒ほどで元に戻り館内はまた各所で動作ランプが光始めた。

----ごほんっ、それでは準備も整いましたので、順番にログインを開始致します。ログイン時、微量ではありますがパッドから電流が発せられますが人体には影響がございませんので、ぜひそのままの姿勢でおまちくださいませ。ログインをスタートいたします。----

アナウンスの女性がそうコールすると大きな機械が起動する音が聞こえ、館内が暗くなった。装置が発するネオンの光だけが館内を照らす唯一の光源となり、となりにいる人物の顔を認識するのがやっとの状態だ。

そんな館内の状況に眠りにつきそうな3人であったが、次の瞬間には意識は別の場所に移動していた。

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昼白色のシーリングライトの光が眩しく、目に刺すように飛び込んでくる。

身体を起こし左手を目の上にかざしながら周りを見ると、6畳程のスペースに自分が横たわっているベッド、ロッカー、洗面台があった。部屋にいるのは自分一人。
内装は小綺麗に整備されており、床は毛足が均等に揃った幾何学模様の絨毯、ベッドの頭上には仄かに香りを振りまく、造花までおいてある。

ベッド横のサイドテーブルに目をやると、一枚の紙が置いてあった。

DinnerはGoggle yeを操作し、2人に通信を試みる。
「-------YUH、シアラー.....。-------聞こえる??.....-------。」

 「-------聞こえてるわよ。見た??サイドテーブルの案内文、準備ができたら扉を出て   ホールに集合ですって-------。」

  「--------なーんかおもしろいこと書いてあるわね!ABC-Aesthetic body celebration-やってやろうじゃないの!!!私たちは着替える必要もないわよね!!さっさと合流   しましょ!」

物怖じしないシアラーの声に後押しされ、YUHとDinnerの二人はそそくさとヘアースタイルを直し、扉をあけた。

サイドテーブルに置いてあった一枚の紙には簡単な館内図とこんな案内が書いてあった。

『ABC-Aesthetic body celebration- 
 
 本日は当パーティにご来場いただきありがとうございます。
 準備が整われましたら、扉を出て中央ホールまでお越しくださいませ。

 本日のメニュー

 ・ONE HAND MUSCLE
 ・TWO LEGS MUSCLE 
 ・FULL BOFY MUSCLE

  ご不明点等ございましたら、お近くの係員までお声がけください。

 6maker / ABC実行委員会』


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