夜中にブラジル人にストゼロを奢ってもらった話

私って変なところで危機感がないというかノリが軽すぎるというか。

“知らない人についていってはいけません”

日本だけでなく全世界の子供たちが小さい頃から言われることだと思うし、なんなら私は小さい頃から異性の大人に嫌な思いをさせられることが多かったので危機管理能力はそれなりにあると思うのだけれど。

ただこんな私がなんのバグなのか、たまに危機管理能力が著しく低下しノリで行動することがある。

たぶん19歳か20歳の大学生の頃。

自宅最寄り駅から4駅の繁華街にある居酒屋で働いていた私はその日も終電で帰った。

自宅最寄り駅は普通しか停まらないような田舎駅で、駅から家までも人通りのない暗い川沿いを10分ほど歩く必要があった。

駅から自宅方面まで歩き出してすぐ、ひとりの人に声をかけられた。

普段だったら夜中に声をかけてくる男なんて知り合い以外基本無視する。

そんな時間に若い女にわざわざ声をかけるなんてどうせナンパに決まってるし、夜職のスカウトやサロンモデルを探す美容師がいるような時間と場所でもない。

ただその日の私はその声かけに反応した。

なぜなら彼が英語で話しかけてきたからだ。

“Excuse me.”

その一言で私は思わず彼の方を見たし、もし異国の地で困っているなら助けてあげようと思った。

実際に彼は道を聞いてきて、向かっている先はなぜか私の通っている大学だった。

待ち合わせだと言ったけど、今考えればこんな時間に?である。

ただ私だって今まで海外で何回も現地の人に助けられたし、こうして自国で恩返しに励むことに時間は惜しみたくなかったので、途中まで道が一緒だったこともあり彼と喋りながら案内することにした。

彼はKevinと名乗りブラジルから日本に来てまもないと言った。

なんせ5、6年前の話なので彼がなぜ日本にきたのか、誰と待ち合わせしていたかなど細かいことは忘れてしまった。

駅→自宅→大学

という道順だったのとほぼ一本道だったので、自宅近くになってから私は彼に

”私はこの道を曲がるけど、このまままっすぐ行けば大学に着くよ“

と説明した。

すると彼は少し先にあるコンビニの看板を見て”一杯おごるからもう少し話そう“と言った。

久しぶりに英語を話せる環境と異国の人と話せる高揚感で私は一つ返事で了承した。

彼はコンビニで迷うことなくストロング缶を二本買い、Suicaでお会計し私に渡してきて駐車場に座ろうと促した。

チョイスがスト缶なのと電子マネーを持ってることを今更ながら考えれば考えるほど手慣れてる感しかないが、その時はあまり深く考えていなかった。

それから3、40分ほど駐車場でお喋りをし私の大学のこと、バイトのこと、高校時代に経験した留学のことなどを話した。

留学時代の友達で南米人が多かったことと第二言語でスペイン語を学んでいた私にとって、ポルトガル語が母語の彼との話は純粋に楽しかった。

一本飲み切ったところで彼がまたもう一本飲もうと言い、帰ってもすることがなかった私は了承した。

またしてもチョイスはスト缶だった。

二本目を飲みながらだらだらと話している途中彼のケータイが鳴った。

”出てもいいよ。待ち合わせ相手じゃない?“と私は言ったが彼は出なかった。

この時点で怪しい、というか不思議な感じはしたが、なんせコンビニの目の前だし変なことはされないだろうと私は高を括っていた。

途中LINEを聞かれ私は教えた。

もしこのKevinがもっと若く(正確な年齢は覚えていないけどちょっと上だった気がする)、見た目がタイプだったらラブロマンスを期待したんだろうけど、この時連絡先を教えた私が考えたことは

『飲むの好きっぽいしワンチャンかけもちでバイトしてるガールズバーに呼ぼう』

ということである。

我ながらゲスな考えであるけれど、なぜ友達になるという選択肢でなく客にしようと思ったのかは正直分からない。

二本目を飲み切る頃、さすがの私も少し酔ってきて、彼も”そろそろ行こうかな“と言った。

”cuídate”

と言われほっぺにキスされハグをした。

(cuídateとはスペイン語・ポルトガル語で「気をつけて(=take care)の意味。私がスペイン語を分かるから言ったと思われる)

コンビニ前で彼と別れ、そのまま家に帰って私は寝た。

面白い夜だったなと思いながら。


彼からは次の日に連絡が来た。

「今日なにしてるの?」
「バーの方のバイトだよ」

と返事をして終わった。

その後彼からは一回も連絡は来ていない。

今LINEを確認したら友達からも消えていた。

果たして彼は何をしたかったのか、ただ単に待ち合わせの時間潰しだったのか、今でも分からないけれど、ふとこの出来事を思い出したので書いてみた。


ただ、知らない人についていくのは時に危険が生じると思うので、あくまでも自己責任。

たまには面白いことが起きるかもしれないし起きないかもしれない。


いただいたサポートで一杯飲ませていただきます🍾💕