ぱぷりか『柔らかく揺れる』

豊岡演劇祭2023ディレクターズプログラム はぷりか『柔らかく揺れる』。

作・演出:福名理穂
出演:岡本 唯(ぱぷりか)、山本真莉、江藤みなみ(avenir'e)、池戸夏海、篠原初実、大浦千佳(劇団チーズtheater)、荻野祐輔、佐久間麻由、富岡晃一郎、井内ミワク(はえぎわ)

本というかプロットというか状況の作り方の巧みさは特筆すべきだと思う。登場人物10人のうち、家系図を書けばそこに含まれない人物は二人だけという基本的には家族・親族内での物語となる。
一部過去シーンが演じられることもあるが、2021年が作品の軸となり「コロナ禍」というワードは戯曲の冒頭に注釈として登場する。コロナを描く演劇は、会いたい人に会えない、マスク越しのコミュニケーションなど、コロナを要因としたディスコミュニケーションや距離感が描かれることが多い印象がある。しかしこの作品はコロナが作中に出てくるのだが、ディスコミュニケーションの要因はコロナではない。不妊治療、居候、同性愛、家事、お金といったコロナ以前にも当たり前のように目の前にあった諸事を、あたかも「コロナのせいで」「時代のせいで」向き合う必要が出てきたかのように振る舞う私たちへ、向き合うこと/向き合わないことを問うているかのようにも思う。

4話構成のオムニバスとして進行する本作は、火葬場・一周忌・父が死んだ川・猫を拾った草むらという場所を行き来することで、「死」を念頭に置いて鑑賞することになる。また転換時の「ゴポゴポと水中で空気が漏れるような音が響く」(戯曲のト書きより)という効果音が印象的で、幸子の夫が川で死んでいたことからこのト書きが象徴的に繰り返されるのだが、ラスト幸子は「遠くん方で聞こえとった水を弾く音が、フッと消えたよ」という台詞で締めくくられる。川で死んだという衝撃的な死が、作品全体をを包みこむよう。幸子自身はその生が死に代わる瞬間の音を耳にしていたという辛い事実によって、これまであいまいに揺れていた生が消える瞬間を想像せざるを得ない。

姉である樹子から借金をする弓子、ただ樹子は金を出すことによって家族のいざこざから目を背けたり実家に帰らないことを正当化する。また第2話では良太と志保の不妊治療が描かれるが、良太側の生殖に課題が見つかったにもかかわらず非協力的な態度、そして仕事の連絡を優先する言動により彼らは離婚する。家族や夫婦という社会的には強いつながりの中にある、個人的なもろさが印象的だった。
その一方で社会的には弱い(というか認められない)つながりである同性愛者である樹子と愛は、第3話の最後に抱き合ったままゆらゆらと揺れる。ジェンダー・年齢的に不安定とされてしまう彼女らが連帯しともに揺れる様は、「生きている」という単純なことを思い出させる。全員が微量な部分で、淡く揺れながら生きている、小さい心強さと心細さの描写が非常に巧みである。

戯曲が素晴らしい一方で上演に関しては、静かな演出を試みすぎたという印象で少々つまらなく、また戯曲がよくできているだけに演技の時点で少し誇張するとそこが気になってしまった。作品を観たときは戯曲ほどの巧みさが前面に出てこなかったのが少し残念ではあった。


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