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地方の構造エンジニアの自邸建築日記⑥

筆不精でまたも3か月空いてしまいました。自邸の設計は一応進んではいますが,それよりもとにかく年度末は色々な事があって右往左往しておりました。
1番変わったことは,2018年から丸6年勤めた北九州市立大学を退職したことです。退職理由は本当に様々あるのですが,誰もが納得する理由としてひとことでまとめると,家族との時間を確保するため,といったところでしょうか。コロナ渦を機に妻の実家に引っ越し,新幹線通いを3年ほど続けてきたのですが,オンライン化が急速に進むと踏んだ未来予想図は見事に外れ,あらゆる校務が対面に戻ってしまいました。交通費の赤字も年100万程度となかなかのオーダーになり,内容的にはオンラインでも全く問題ない30分の会議のために往復15000円と4時間半をかける日も出てきたりして,今風に言えばコスパ・タイパが急激に悪化してきたため,事務所経営や家庭との両立を考えた時,これから先も新幹線通いを続けていくのが現実的ではなくなりつつありました。向こう半年は非常勤講師として「構造力学II」「建築構造デザイン」「構造解析学」を引き続き担当するのと,継続して私の指導を希望する大学院生を北九州に3人ほど残してきてしまったので,外部指導教員として2年間は隔週程度で通う予定なので,もうしばらく新幹線通勤は続きますが,専任教員としては卒業となりました。ということで,私の後任人事(10月採用,5/7応募締切)が出ていますので,構造関係の若手の研究者または実務者の方はぜひご応募ください。
大学の教員自体を辞めたわけではなくて,4/1付けで近畿大学に着任し,大学教員を続けています。近畿大学というと,関西?というイメージをお持ちの方もいらっしゃるかと思いますが,工学部建築学科は実は広島にあるんです。近大広島の建築は非常に歴史があって,特に設計製図教育に関しては,澤登宜久先生から始まり,古谷誠章先生→小川晋一先生→前田圭介先生+土井一秀先生というとても地方とは思えないプロフェッサーアーキテクトの系譜があります。特に前田先生とは,UIDDN-Archiとして以前より複数のプロジェクトで協働させて頂いています。その他にも,学生時代から付き合いのある藤井先生や,私の恩師である大崎先生が広島大学に在籍中に助教をされていて共著論文もある松本先生,藤村龍至委員長時代の建築雑誌で編集委員を務めて以来の付き合いの樋渡先生など,昔から縁のある先生方も多いので,今後の展開がとても楽しみです。
近畿大学の本部からは,どちらかというと研究者としての業績を期待されているのですが,建築学科からは構造家として今後のカリキュラム改変等に合わせて設計製図教育への参画を期待されており,特に教育には今以上に力を入れていこうと情熱を燃やしております。
そんなこんなで,とにかく年度末は研究室の引っ越しやら退職の手続きやら研修やらでバタバタで,息つく暇もなかったわけです。事務所の決算月を世間で一般的な3月じゃなくて12月にしていることがせめてもの救いでした。
そんな超多忙な中にあって,もう1つ大きな話がありました。感覚する構造展への出展です。東品川の寺田倉庫が主宰するこの展覧会は,建築の模型にスポットを当てる展覧会で,前期展後期展に別れて開催され,前期展は2023年9月30日~2024年2月25日に開催され,成功裏に終わっています。後期展は前期よりもさらに規模を拡大して2024年4月26日~2024年8月25日に開催されます。

  1. 伝統建築と木造の未来

  2. 次世代を担う構造家たち

  3. 構造デザインの展開

  4. 宇宙空間へ

という4つのテーマが掲げられているのですが,2の枠で恐縮にも自身の近作を展示させて頂くことになりました。既にYoutubeにインタビュー動画があがっていますが,この長編版が会場では流れることになっています。

他にも,荒木美香,下田悠太,柳室純,平岩良之(敬称略)という今脂の乗った若手構造家が出展しています。
では私自身は一体何を展示するのかというと,色々と迷った挙句,DN-Archiとしては,広島のプロジェクトに限定して展示させて頂くことにしました。はこ(kufu),さかみち(kufu),VOXEL APARTMENT(藤村龍至/RFA)という幾何学的に特徴的な3作品に加えて,今まさに設計中の自邸の構造模型も展示します。自分で言うのも何ですが,自邸の構造模型はなかなかの迫力ですので,ぜひ東京にお越しの際はお立ち寄り頂ければと思います。展示映えしそうな仕事は他にもいくつかあったのですが,やはり他の出展者にはない私自身の特徴として,故郷広島に居を構えて地方で活動しているという点がありますので,その切り口が一番コントラストが出るだろうと考えました。
そしてもう1点の私の特徴は,大学教員であるということです。ややゴリ押しした感も否めないのですが,DN-Archiとしての展示に加えて,北九州市立大学藤田慎之輔研究室としてもいくつかの展示をさせていただきます。実作としてのメルディア高機能木材研究所(北九州市立大学福田展淳研究室)に加えて,学生との研究教育活動の中で生まれた成果物も展示させて頂き,そこに可能な限り学生のクレジットも加えさせて頂くことになりました。私自身の北九州市立大学の教員としての卒業展示のつもりで,6年間の学生のアクティビティまとめた冊子も会場に置かせて頂く予定です。
今回の展示にあたり,kufuRFA北九州市立大学福田展淳研究室より意匠模型を賃借協力いただきました。改めて御礼申し上げます。

と,いうことで,自邸の設計は?という話なんですが,模型を展覧会に展示するということは構造は完全にFIXしているということです。アクソメで簡単に説明すると下記のようなシステムになっています。

プランもほぼFIXできていて,トラスのフランジを利用して棚が製作できるようにしたりといった細かい話題も入れつつ構造のディテールも詰めています。あとは仕上げをどうするかというところです。
一方で,設計とは別の問題として,管理放棄地,急峻崖地,土砂災害特別警戒区域という三重苦の負動産ならではの問題もここへきて表面化してきておりますが,その辺の話はまた別の機会に。


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