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地方の構造エンジニアの自邸建築日記⑤

あけましておめでとうございます。
前回の投稿から3か月が過ぎました。相変わらずあまりの忙しさに全然設計が進められないわけなのですが,そうこうしているうちに2024年になってしまいました。
2025年4月には娘が小学校にあがるため,それまでには何としても竣工させたい。そこから逆算すると夏には着工しないといけない。
構造がとにかく特殊なので確認申請は適判行き覚悟の上,審査も長引くとなればGW明けには実施をまとめて申請出すところまで持って行きたい・・・
え?あと3か月??時間がない!!!
ということでギアを入れ直して今年は本腰入れて設計します。プロセスを忘れないように少しだけ備忘録を書きます。

もうあらかたの構造システムは実は決めています。Xの方で何度かチラ見せしたことはあるのですが,架構の全体像はいまのところこんな感じです(屋根はまだデザイン中)。

最近,いくつかのプロジェクトでレシプロカル構造を使うことが増えて,自邸でもチャレンジできないかなと思って色々スタディしていました。

レシプロパターンのスタディの様子

建築家から提案された前回のプランAという案をベースにしつつも,一旦プラン度外視で完全に構造からつくりにいきました。とにかく高低差が10m近い崖地ですので,つくりかたのデザインが最重要ポイントです。僕の買った土地は広島駅から徒歩10分にも関わらず,殆ど二束三文の値段で売られていたわけですけれども,それはとても家を建てるような場所じゃないからなんです。
普通の家を建てようとすると,大規模な造成工事を入れて平場をつくる必要がありますが,それだけで4桁万円の費用がかかりますし,そんなことしても何にも面白くない。
せっかくの崖地がもったいない。その敷地の魅力を引き出すように建築はつくられるべきです。
ですから,これまで手掛けてきた数々の崖地建築での経験を踏まえて,鋼管杭をぶっ刺して建物を浮かせる軽井沢山荘方式を採用することにしたわけです(これは前回までに話した内容)。

軽井沢山荘を設計した時は,鉄骨の梁組で人工地盤を作ってその上に木造の平屋を乗っけたわけなんですが,今回の建物はそう簡単にはいかなさそうです。

なんてったってスパン20m超。これでも短くした方で,最初は30m以上あった(笑)。こんなのを普通の梁組でやったらとてつもない鉄骨量になってしまいます。
そこで最初,建物の外周部分にくの字型のトラスをかけてあげることを考えました。その時の架構モデルはこんな感じです。

この形式だと,トラスがくの字に折れているので,1本だけでは成立せず外側に倒れてしまいますから,屋根面で繋ぎ材があってはじめて大スパン架構として成立します。完成した構造のことだけを考えれば,まあこれでも良いかなとなりました。
でも,考えてみてください。屋根部分まで構造が組まれてから初めて安定する構造・・・それまではずーっと支保工で支えていなければならない。ここは崖地です。つくることを考えた時,仮設工事の金額が大爆発するのは目に見えていました。
つくかたからデザインするのが構造家。これではダメだと思い直しました。

そこからまた色々と建築家とスタディを重ねる中で,崖地に橋を架けるという発想が生まれました。土木的な考え方です。
現状隣の敷地(整地されていて平場)はまだ建物が建っていないので,そちら側から杭打機を入れて,崖下に杭を打ち,崖上については地山へ直接基礎でランディングさせます。この2点をまっすぐ繋ぐ橋をかけるのです。

一旦そこでがっちりとした構造をつくってしまって,あとはその鉄骨の橋を頼りに木で建築を生やしていくことを考えました。こうすれば,この橋を頼りに吊り足場で工事ができそうです。高速道路の高架の補修工事などでよく見かけるアレです。
その時に,当然床から作っていくわけですが,部材は全部4m以下として広島県産の一般流通製材でつくりたい。これは,この敷地の裏山に建てられた建築家の自邸「はこ」

と全く同じです。あの時は狭小崖地で手運びできる部材でないと施工ができないという制約がありましたが,この土地も平場は隣地しかないので,手運びできない部材となると全てを重機に頼る施工となってしまいます。SDGsうんぬんの話も当然ありますが,やはり小さな部材の集積で大きな空間をつくりたい。僕が常日頃意識している構造デザインの手法の一つであるので,大断面を直交に並べて終わりとするのではない構造の在り方を模索しました。
そんな中でレシプロカル構造に行きついたわけです。
橋の近くから組んでいきジワジワと外にはね出していく。まるで鳥が巣をつくる時のように。
プランとの調整の中で,橋の幅はなるべく小さくしたいということになり,限界まで抑えつつ,そのときに生じるモーメントの形に寄り添うようにお椀型にレシプロカル構造を生やしていくこととしました。
施工性や長期的な構造の安全性を考慮した結果,単純に橋にレシプロカル構造を吊り下げるのではなく,一番上の上弦材は橋を構成するトラスの下弦材の上部に引っ掛けるようにつくることにしました。

打ち合わせ時のメモ(汚い・・・)

そんなこんなで最新の打ち合わせ模型はこんな感じです。

プランもかなり煮詰まってきたのですが,またそれは話せば長くなるので,また後日書きます。
次の打ち合わせは1/30。ここからは2週に一度のペースで対面打ち合わせを積み上げて実施設計アップまで突っ走りたいと思います。

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