5000年の時を経て明らかになる湿原人の生涯と凄惨な死。

2024年2月25日 07:42

Nature Briefingのイーウェン・キャラウェイ(Ewen Callaway)は2024年01月26日に、30代で亡くなったヴィットラップ・マン(Vittrup Man)は、紀元前3300年から紀元前3100年の間に定住したスカンジナビアの放浪者だった。

彼は5,000年以上前、中石器時代の狩猟採集民のコミュニティに生まれた。
彼らはおそらく祖先が数千年にわたってスカンジナビア北部に住んでいたと考えられている。しかし、ヴィットラップ・マンは、成人してから海を渡ったデンマークの農村地帯で過ごした。その先祖は中東出身であった。

ヴィットラップ・マンが生涯にどのような人生に触れたのかを知ることは不可能だが、数千年後の人々の想像力を掻き立てたのは彼の死であった。足首とすねの骨、少なくとも8回の強い打撃で骨折した顎の骨と頭蓋骨の遺体は、20世紀初頭にデンマーク北部のヴィットラップという町近くの泥炭湿地で、おそらく殺害されたと思われる木製の武器こん棒と一緒に発見された。

スウェーデンのヨーテボリ大学の考古学者、カール・ゴーラン・シェーグレン(Karl-Göran Sjögren, an archaeologist at the University of Gothenburg, Sweden)は、彼の「異常に暴力的な死(unusually violent)」がヴィットラップ・マンを、沼地で発見された他の同様の年齢の遺骨と区別したと述べている。彼は、先週に発表された研究1でヴィットラップ・マンの生涯を図表化したチームの共同リーダーである。

OPEN ACCESS PEER-REVIEWED
RESEARCH ARTICLE

Vittrup Man–The life-history of a genetic foreigner in Neolithic Denmark
Anders Fischer ,
Karl-Göran Sjögren ,
Theis Zetner Trolle Jensen,
Marie Louise Jørkov,
Per Lysdahl,
Tharsika Vimala,
Alba Refoyo-Martínez,
Gabriele Scorrano,
T. Douglas Price,
Darren R. Gröcke,
Anne Birgitte Gotfredsen,
Lasse Sørensen,
Verner Alexandersen, [ ... ],
Kristian Kristiansen [ view all ]
Published: February 14, 2024
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0297032

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0297032

しかし、研究者らが今年初めに発表した研究で彼の祖先を調査するまで、ヴィットラップ・マンについて他に目立ったものは何もなかった2。彼らは、ヴィットラップ・マンは現在のノルウェーとスウェーデンの狩猟採集民と関係があり、彼の死の数百年前にデンマークに到着した中東にルーツを持つ農村社会と関係がなかったことが分かった。

「これは、彼の起源がもう少し北にある可能性があることを示しています」とシェーグレンは言い、おそらく人々がまだ漁業、狩猟、採集をして暮らしていた北極圏の近くにあると考えています。骨や歯の炭素同位体および窒素同位体レベルは、食事の側面を明らかにする可能性はあるが、ヴィットラップ・マンが子供の頃に海からカロリーを摂取し、10代で淡水魚や野生動物に移行し、穀物、乳製品、乳製品などの食事に移行したことを示唆している。農村地域では若者から肉を食べるのが一般的です。彼の歯に組み込まれた研究者らは、アザラシ、クジラ、魚、さらには羊やヤギのタンパク質の断片を発見した。

スカンジナビア北部の狩猟漁民の中で幼少期を過ごしたヴィットラップ・マンは、デンマークへの長い外洋航海の準備をしたのかもしれない。明らかではないのは、彼がなぜ慣れ親しんだものを離れて農民の中に住んだのかということだ。シェーグレンの共著者の一部の考古学者は、ヴィットラップ・マンは殺害される前に捕らえられ、奴隷にされたのではないかと推測している。これは、多数の社会集団が共存していた初期新石器時代のスカンジナビアでは珍しいことではない。

シェーグレンは、ヴィットラップ人が農民と狩猟採集民の間の商品交換を仲介する外国商人のように暮らしていたという考えを支持している。ノルウェーの海岸沿いで確認されている高品質のデンマーク産の石で作られたフリント斧は、玄武岩などのスカンジナビア北部産の材料と交換された可能性がある。

ロンドンのフランシス・クリック研究所の生物考古学者トーマス・ブース(Thomas Booth, a bioarchaeologist at the Francis Crick Institute in London)は、「おそらく彼が成人すると、社会における彼の役割は海の向こうに住む農民とのつながりを築くことだった」と語る。彼は人生の最後の数十年間、農民たちと暮らしたが、古い家と新しい家の間を行ったり来たりしたことは想像できないことではない、とシェーグレンは付け加えた。

では、おそらく30代前半のヴィットラップのマンの非業の死はどうなったのでしょうか？
数十の新石器時代の人間の遺体。その多くはヴィットラップ・マンのような若い男性が沼地で発見されており、考古学者はこれらの死の多くは儀式的な犠牲によって説明されると考えている。

シェーグレンによると、これらの人々の多くは骨奇形を患っており、仲間内で目立っていただろうが、ヴィットラップ・マンはそうではなかったという。

ゲノム分析によると、ヴィットラップ・マンは青い目で、肌の色は典型的な新石器時代の農民よりも暗かったかもしれないが、彼の黒髪の色と身長は目立たなかっただろう。「なぜ彼らが何人かを犠牲にすることを選んだのかを、言うことは本当に難しいです。」とシェーグレンは言う。

ヴィットラップ・マンの狩猟採集民の祖先は、彼の死後数世紀の間に多かれ少なかれスカンジナビア全土から消滅しており、近親者が生き残ったかどうかは明らかではない。
数百もの古代ヒトゲノムの配列を解読している研究者たちは、古代家族の系図を構築し始めており、いつか親戚が見つかるかもしれないということも考えられないことではない。

ヴィットラップ・マンの生と死は、彼のような狩猟採集コミュニティが新しい生活様式の端に座っていたヨーロッパ最大の変遷の中心にあるとブースは言う。「それは、これらの人々が住んでいる世界の感覚をあなたに与えます。」

doi: https://doi.org/10.1038/d41586-024-00537-3

References
Fischer, A. et al. PLoS ONE 19, e0297032 (2024).

こういう論文を読むと、研究者の一員として、科学は進化していると感じて嬉しくなる。

AIだけが話題になっているが、地道な研究があらゆる分野で続いている。

https://www.nature.com/articles/d41586-024-00537-3
https://nature.us17.list-manage.com/track/click?u=2c6057c528fdc6f73fa196d9d&id=efc6db12af&e=c59321b19d
https://nature.us17.list-manage.com/track/click?u=2c6057c528fdc6f73fa196d9d&id=7da9875712&e=c59321b19d
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https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0297032

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