世界最大の直接選挙、インドネシアの大統領選挙まで、10日を切った。

世界最大の直接選挙と呼ばれる5年に一度のインドネシアの大統領選挙は2024年02月14日。

憲法の規定で3選が認められていないジョコ・ウィドド(Joko Widodo)大統領の後任を決める。

3組の正副大統領候補が争う大統領選の最大の争点はジョコ政権の継承か変革かである。

では2期10年間のジョコ政権とは何だったのか。そして次期大統領候補たちは何を訴え、有権者はどうみているのか。現政権の主要な経済政策を振り返りつつ大統領選の行方を読み解く。

「3期目の出馬はできない。失うものはなく、国のためにベストを尽くす。」

2019年05月09日。その約3週間前に行われた大統領選挙の結果が未確定ながらも、既に再選が確実視されていたジョコ大統領はこう述べた。

この日、ジョコが発表したのは45年に先進国入りを果たすための長期ビジョン「ビジョン・インドネシア2045(Vision Indonesia 2045)」だった。

同ビジョンでは、45年に世界5位の経済大国となるため、
◇人間開発と科学技術の習得
◇持続可能な経済開発
◇開発の均等化
◇国土強靱化(きょうじんか)と行政ガバナンス――の4つを柱とする開発の方向性などを提示。

長期ビジョンは「黄金のインドネシア2045(Golden Indonesia 2045)」のスローガンとしても定着していく。

そこから4年7カ月余りたち、2023年12月に開かれた次期大統領選挙の副大統領候補による討論会。「2030年までの10年間は『人口ボーナス』が得られることに感謝しなければならない。生産性を向上させるチャンスで、黄金のインドネシアを達成する機会は広がっている。ただ、このチャンスは一度しか来ない。若者が助け合えば黄金のインドネシアは達成できると確信している。」

声高に主張したのは、中ジャワ州スラカルタ＝ソロ＝市長ジョコ氏の長男の36歳のギブラン・ラカブミン(Gibran Rakabumin)だ。

ギブランは、ジョコ・ウィドドに過去2度の大統領選で敗れ3度目の挑戦に懸けるプラボウォ・スビアント(Prabowo Subianto/国防相、グリンドラ党党首)の副大統領候補となり、「ジョコ路線の継承」を唱える。プラボウォ＝ギブラン組は、主要な世論調査のトップを走っている。

同ペアの対抗馬として、ジョコ政権からの変化を打ち出す、アニス・バスウェダン(Anies Baswedan/首都ジャカルタ特別州前知事)とムハイミン・イスカンダル(Muhaimin Iskandar/国民覚醒党＝PKB＝党首)のペアは、選挙戦の開始後に支持率を伸ばすも差を縮められていない。

一方、最大与党の闘争民主党(PDIP)が擁立し、当初はジョコの後継とも目されてきたガンジャル・プラノウォ(Ganjar Pranowo/中ジャワ州前知事)とモハマド・マフッド(MMohammad Mahfud/調整相＝政治・法務・治安担当)のペアは後退している。ジョコ氏がPDIPの所属ながら、同党のメガワティ党首との確執がうわさされ、実質的にプラボウォ＝ギブラン組の支持に回っているため、ガンジャル＝マフッド組は大統領人気にあやかれず苦戦を強いられている。

また、リードするプラボウォ＝ギブラン組を下支えする存在としては、「若者の党」とも呼ばれるインドネシア連帯党(PSI)の党首を務める、ジョコの次男カエサン・パンガレップ(Kaesang Pangarep)もいる。黄金のインドネシアの達成に向けた政策は、ジョコが2期10年の任期を終えた後も、ジョコ一族が音頭を取る可能性がある。

2014年に誕生したジョコ政権の基盤は、当初脆弱だった。

だが、貧困対策に力を入れつつ、15～16年に連立を組む政党を増やして安定化させた後、開発主義路線を加速させた。

ジョコ政権は成長の源泉として鉱物資源も利用してきた。

世界最大の埋蔵量を持つとされ、電気自動車(EV)用バッテリーの原料となるニッケルに重きを置いた。

国内で加工し資源産業の高付加価値化を優先するため外国投資を誘致し、2020年01月からは未加工のニッケル鉱石の輸出を禁止。

近年は資源高の影響もあったが、インドネシアの名目国内総生産(GDP)に占める鉱業の割合は、2022年に12%を超え10年以降で最高を記録した。

さらにはカリマンタン島への首都移転という目玉政策も打ち出し、投資が集中するジャワ島外での経済的な成長・発展にも注力してきた。

こうしたジョコの政治手法は、かつて強権的にインフラや資源開発を進めたスハルト政権が「開発独裁」と称されたのに対し、国民の高い支持率の下で実行されてきたため「民主主義下の開発主義」との見方もなされている。

ジョコ路線の継続か否かを最大の争点として3つどもえの大統領選は最終盤に入った。仮に現在リードするプラボウォ＝ギブラン組が1回目の投票もしくは決選投票で勝利した場合、産業の高付加価値化や外資誘致、首都移転、インフラ開発重視といった、ジョコ政権の経済政策の大局的な方向性が大きく変わることはないとみられる。

ただ、動向は注視していくべきだとの指摘もある。