イラスト2

ヒプステ、お疲れさまでした。

 2019年12月1日。ヒプステが終わった。
 約二週間、全25公演。わたしはそのうち12公演観に行った。たくさんあると思っていたけどあっという間だった。
 元々2.5次元自体にはそれほど関心がない、というよりは、数年前まであまり好きではなかった。とある出来事から許容範囲が広がり観劇もするようになったが、それでも最近だと好きなジャンルが舞台化されれば1〜2回観に行く、チケットが自力で取れなければ今回は諦めるか、程度で、これだけの回数観に行くのは普段では考えられない。実際正気じゃなかった。
 すごく楽しかった。まだ観たいし、実際追いチケの申し込みもした(ご用意はされなかった)。
 楽しいことは忘れてしまうので、思い出せるように文字にしておこうと思う。なので、これは感想ではなく日記です。だらだら描くよ。

 死ぬほど長いのであらかじめ三行にまとめておきます
・ヒプステ、演出・脚本・キャスト・全部よかった
・ブクロ・ハマはもちろんだけど、アカバネをすごく応援したくなった
・ツイートを見てメッセージをくださった方々、ありがとうございました

2.5次元を受け入れるようになった話

 上にも書いたけどわたしは元々2.5次元のことをよく思っていなかった。
 だって二次元でかっこいい推しがいるのにわざわざ三次元でそれを表現する意味ないもん。
 実写ドラマ化、映画化、舞台化、色々あるけど二次元より顔がいいことなんかなかった。そりゃ三次元にだってかっこいい人はいるけど、二次元は二次元だからいいんだし、どんだけ顔が良い人を使っても下位互換じゃんとしか思わなかった。
 三次元にも推しはいるので三次元自体が嫌なわけじゃない、でも二次元のキャラとは別物だしわざわざそんなことする意味ないと思ってた。
 昨今人気作品はたいてい舞台化するので、自ジャンルの舞台化なんかしなければいいなぁと思っていた。

 そんなわたしが舞台を初めて観に行ったのは、Kだった。
 舞台化が決定したとき、ついに来てしまったか〜と思ったものだ。前評判では、有名どころの俳優ばかりを使っていたので、舞台が好きな人の間でも少し話題になっていた気がする。まあ舞台俳優に疎いわたしにとっては知らない人に変わりはなかったので、どの道良い気はしなかったが、自ジャンルのコンテンツなので、という気持ちだけで観に行ったと思う。
 結果的には、すごく面白かった。当時のKステは予算をみんな俳優につっこんだのか?というくらい演出がひどくて、学園祭(笑)と思っていたが、それでも面白かった。たしか最終的に4回観に行った。
 なにがそんなに面白かったんだろう。もう記憶もおぼろげだけど、楽しかったという記憶がちゃんとある。
 このときにわたしは舞台に対する認識を改めた。どうやら良いものらしい。舞台というだけで食わず嫌いするものではないな、と思ったのがこのときだった。
 回数重ねたのはたぶん初演のときだけで、そのあとは期間中1回観に行く程度に留まった。これはおそらく伏見猿比古の俳優が替わったのがショックでモチベーションが下がったせいだと思う。

 その後は刀剣乱舞の虚伝に一度行った。このシリーズは単純にチケットが取れなかったのでそれほど行ってないし、取れなくても諦めがついた。たぶん鶴丸国永の俳優が替わったのがショックでモチベーションが下がったからだ。

 2.5に行ったのはこれくらい。
(追記:これくらいだと思ったけど他の作品にポツポツ行ってました。嘘ついちゃった。すみません)

ヒプノシスマイクにハマった話

 わたしは最初、ヒプマイについてもあまり良い印象がなかった。
 好きなものでかためたはずのタイムラインに、突然よく知らない流行りジャンルが席巻しだしたときの気持ちは腐女子ならだいたいわかると思う。あれ。
 第一印象が悪かったし、ラップには興味がなかったのでどうせハマれないだろうと思っていた。実際DRBは一度聴いたがふ〜んで終わった。
 でもなんか…ズルい!って気持ちになった。みんながめちゃめちゃ楽しそうなのが羨ましかった。嫉妬してた。
 それで、まだ1曲しか聴いてないんだし、とりあえず全部聴こう、っていって、友達とprime musicに入って一緒に聴いた。

 俺が一郎に落とされた。
 センセンフコクがかっこよかった。
 3 SEVENの子が上手いと思った。
 この3曲の存在によって、わたしはヒプマイの曲をちゃんと聴こうという気持ちになった。
 そもそも「どうせ聴いてもハマれないだろう」という気持ちがあったのがよくなかったんだ。この気持ちがあるせいで、どこか斜め聴きしていたというか、良いものの良いところを「良い」と受け取る心持ちになれていなかったと思う。

 結果は見ての通りで、ダダハマりした。最初はふーんで済ませた曲も全部大好きになったし、新しく出る曲も大好きになる。
 楽しむつもりがあればなんだって楽しめると思ったし、食わず嫌いは損しかしないと身をもって実感した。
 元々食わず嫌いしがちな人生を送ってきていたので、これは革命に近い出来事だった。
 この頃から、目につくものはできるだけ手を出してみようと思うようになった。

ヒプステが発表された話

2019年9月20日、ヒプステが告知される。

 前項までの理由があったので、わたしにはヒプステを楽しみに思わない選択肢はなかった。
 槍玉にあげられるがちなコミカライズ炎上とかドラマパートのキャラ崩壊とかも別にさほど気にしていなかったし、ヒプマイの展開に対する不満がなかったのもある。盲目というよりは「まあ、ヒプノシスマイクだしね」くらいのものなので…。ヒプマイくんについてはなにが起こっても評価が甘めではある。

 一方で世間のヒプステに対する事前評判は散々だったように思う。
 最初の告知ツイートのリプ欄なんかは非難轟々だし、タイムラインも強めには言わないけど「え〜?ちょっとな…」という空気。長文の拒否反応ツイートはRTでよく回ってきた。

 嫌なことは早めに忘れるようにしているので定かではないが、当初の彼女たちの主張は概ね2種類だったと思う。

1. 「ヒプノシスマイクは男性声優キャラクターラッププロジェクト。声優じゃないヒプノシスマイクなんて認められない」
 多分一番多かった意見だろう。(表記あってる?)
 このタイミングでヒプノシスマイクの公式アカウントの表記が”音楽原作キャラクターラッププロジェクト”に変わったこともあり、ヒプマイ自体が方向転換したように見えて戸惑った人が多かったんじゃないかと思う。
(追記:訂正頂きました。表記が変わったのは舞台発表のときではなく、フルアルバム発売頃だそうです)
 これについては、言ってることは解らなくもなかったけど…
 舞台はあくまで「原作の舞台化」であって、別に原作そのものが舞台作品になるわけじゃないし…そこまで言うことか?と思った。コミカライズの時点で声優から離れてるし…。コミカライズも駄目って人は多分全部駄目なんだろうから今に始まった話じゃないのでここでは触れない。

2. 似てない
 これは解らんでもなかった。
 いや…なんか…他の舞台作品の写真もっと良くない…?キービジュなんか写真良くないよね…?レタッチがよくないのか…?
 当初はTOPの一枚しか写真がなかった(たぶん)しこれしか判断材料がないので、ここで引っかかった人も多かったと思う。とはいえまだ一枚しか出てないし…まだ駄目って言うのは早いんじゃないかと思った。
 とりあえずわたしはこのとき山田一郎役の高野洸くんのTwitterを見に行ってメディア欄を見た。めっちゃかっこいいじゃん、一郎って感じの顔してる。笑顔とか超一郎。う〜んこれはキービジュが悪いだけだな!と思った。
 後日ひとりずつのプロフィール写真が出たが、やっぱり写真は良くなかった。なんでやねん。

 他にも言ってる人はいたのかもしれないが、なるべく見ないようにしていたわたしが目立つなあと思っていた意見はこのあたりだった。
 まだなにも始まってないのにそんな言うことなくない…?と思っていたと思う。ウチのタイムラインは普段、ネガティブなバズツイがあまり流れてこないわりと治安が良い城なんだけど、ヒプステについては非難ツイートが何百とRTされ、それがタイムラインに流れてきていた。自ジャンルに関するネガティブなツイートがバズっているのは普通に気分がよくなかったし、鍵パカで自ジャンルのネガティブなことを言う人がそれだけいるっていうのがちょっと悲しかった。

 あんまり楽しみだって言えない空気だったと思う。言ってたけど。
 好きに呟けばいいんだけど、なんかあんまり言うとつまはじきにされそうな勢いがあった。被害妄想だし、言ってたけど。
 実際、「楽しみだけど、みんなそうでもないのか…」って感じの人を見かけた。なんか…楽しみなのにシュンとしてしまうのは、しんどいなぁと思った。

 項にするほどじゃないのでアカバネディビジョンが告知されたときのこともちょっとここでしゃべる。
 舞台オリジナルに賛否出るのはしょうがないと思った。アニオリだってそういうものだし。
 でもアカバネの告知がツイートされた直後に「だから嫌なんだよ」という旨のリプライがついているのを見たときは「めっちゃチェックしてんじゃん」と思った。
 文句言うためにチェックしてるんだろうか。もっと時間を有効に使うべきだと思う。

チケットがやばいという話

 全席一律18,000円。

 チケット代ワロタピーポー(9月20日のわたしのツイート)

 いやっ……たけぇ〜〜〜よ!なんかグッズついてるけどグッズいらないから安くしてよ!中王区貴賓席18,000円と一般野郎共席9,000円どっちも設置しておいて(9月20日のわたしのツイート)
 舞台って2回観に行くのが面白いと思っているので2回は行きたいんだけど2回行ったら4万円?!こ、ころされる…

 話に聞いたところ俳優がすごいらしい。阿部顕嵐くんにはもれなくジャニオタもついてくるとか。ジャニオタなんてチケ戦の猛者じゃないですか、こわ。高野くんも刀ミュに出ていたのでオタクのファンがついているらしい。刀の2.5も割とチケ激戦じゃないですか?こわ。
 だから倍率の分け目はチケット代なのではないかって聞いた。なるほどね。
 いっぱい当たりすぎても困るけど2回行けないと死んでしまう。
 幸い公式トレードがあるらしい。いっぱい当たったら譲りに出せばいいよね。軽い気持ちで友達が1週目、わたしが2週目で、分担して全公演申し込むことにした。
 この申込方法がまた手間で、作業の合間に少しずつやればいいか…と思っていたのだが、申込締切前後外泊しており、気づいたら締切が終わっていて、わたしの分が28日の公演までしか申し込めていなかった。のちにこのことで一喜一憂することになる。

 当落の日、「複数公演申し込んだが、かなりの数当選してしまい請求金額がやばい」というツイートが回ってきた。検索してみるとそういった人が何人もいる。
 ちょっと焦った。倍率は想像以上に低かったらしい。全部クレカ払いにしたし多分複数当たってるだろう……。
 友達の分と合わせて14公演当たった。28枚だ。
 爆笑した。
 このときわたしが申し込み損ねた3日分が光る。ファインプレーやん。不幸中の幸いだと思った。

 「こんなバカみたいに高いチケット、複数口申し込む方がどうかしてる。自業自得」というツイートも回ってきた。
 ごもっともだ。どうかしていた。
 しかしよく考えてみたい。わたしたちは、4thライブのチケットのためにCDを万単位で積み、その全てを落選にされた人間である。
 冷静に考えることができただろうか? できる人もいるだろう。でもこれだけチケットが用意されすぎてしまって考えてもやはり、「申し込み当時の自分は、落選の恐怖に囚われ、冷静な判断はできなかっただろう」と思った。
 そうであれば仕方ない。現実を受け入れよう。倍率が低すぎたとすれば公式トレードも望み薄だろうが、ワンチャン賭けて出すだけ出そう。駄目なら行くだけだ。もしかしたらめちゃめちゃ楽しいかもしれない。俺たちのヒプノシスマイクだぜ!頼む最高の舞台にしてくれ。
 わたしはまな板の上の鯉となった。

スポット映像が公開された話

2019年11月1日、スポット映像が公開される。

 これがめちゃめちゃ良かった!!!
 あんまり知らないけどこの映像で手のひら返した人が多いのでは?!と思う。実際そういうツイートを見た。

 まず曲がかっこいい。原作のAll Stars曲へのリスペクトを感じる。この時点では誰が作っているのかは解らなかったけど、もしかしてinvisible mannersなのでは?と思ったりなどするくらいだった(実際は違った)。
 キャストさんの歌い方からも、原作の声優さんへのリスペクトをすごく感じた。2.5の舞台はさほど観ていないが、「2.5の俳優さんは声やしゃべり方を似せててすごいな〜」と思っていた。思ってたけど、にしたってすごいって思った。とくに左馬刻と理鶯なんか感動した。すごいや。

 この時点でステの出来への不安はなかった。楽しみで仕方ない。
 この日からずっと、この1分半の動画をリピートし続けた。

実際ヒプステに行った話

 2019年11月15日、ヒプステが始まる。

 わたしたちは初日のチケットは取れなかったので、16日の夜公演が初めてだった。
 余談だが、この時点で21日と28日以外のチケットは公式トレードに出品しており、16日のチケットは成立していなかったので手元に残っていた。友達に「何時に行く?」とLINEすると「今日行くと思ってなかった」と言われた。21日と28日以外行かないと思っていたらしい。笑った。

 観た。
 めちゃめちゃよかった。
 観てもひとつも損がない(当時のツイート)

 OPでGimme The Micのイントロが流れ、スクリーンに原作の山田一郎の立ち絵が映され、そこから高野洸くん扮する山田一郎が出てくる。
 山田一郎が出てきた。
 本物だった。顔が解釈一致。顔ちっさ…脚なっが…二次元体型…。見た目だけじゃない。動きが山田一郎だった。原作のほうでは動く山田一郎が見られるわけではないが、木村昴さんが一郎としてニコ生やライブに立つので一郎は彼のイメージがすごく強い。昴さんは手の動きとかが大ぶりでTHE HIPHOPの人って感じだと思うんだけど、これがすごい再現されてた。強くて骨太な声も。一郎いる…すごい…一郎いるよ…

 松田昇大くんの山田二郎。二郎が立ってた。身体が完全に二郎。立ってるだけだと石谷くんの声が出てきそうに見えるのでしゃべると声帯が違って驚いた。前髪が分かれているのもあって表情の変化が解りやすいんだけど、にっこにこだったりムッとしたり表情がコロコロするのがすごく二郎っぽくてかわいかった。

 秋嶋隆斗くんの山田三郎。顔がロリ…かわいい…。ちょっと舌っ足らずで中学生男児って感じだった、かわいい。いい意味での悪ガキ感がすごく出てると思った。秋嶋くん自身が10代なのもあってまだ出来上がってない少年の身体感があるのもよかったし、なにしろしょっちゅう腹が見えていた。ヘソもワンチャンあった。

 阿部顕嵐くんの碧棺左馬刻。華ッッッ奢。銀髪こんなに似合う日本人がどんだけいる…? 喋り方のガラ悪さが最高。顔がいい。元ジャニーズだけあってダンスめちゃめちゃ上手い(原作では踊らないけどなにさせても天下一品の碧棺左馬刻は最高だ)。なんかたまに浅沼さんに似てるんだよな…表情なのか? 仕草なのか?
 原作と違って銃兎より大分背が低いんだけど、銃兎に二の腕を掴まれてるとき左馬刻の華奢さが際立ってよかった。

 水江建太くんの入間銃兎。顔がFINAL FANTASY。えっ…いましたよねFFに…? どの角度も顔が綺麗だしスタイルが解釈一致。スーツバチ似合う。姿勢がよくてマジ銃兎。いやなんか顔がFFしか言うことがないんだよな…顔が良すぎて銃兎見てると顔が良い…って思っちゃうんだよな…。
 多分声がちょっと細いんだと思うんだけど、駒ちゃん再現するためにすごく声張ってて、それが左手に出ててかわいかった。キャラ柄、身体で迫力出すわけにもいかないしね。かわいかった。

 バーンズ勇気くんの毒島メイソン理鶯。ガッチリめの体型に綺麗なハーフ顔…さらに神尾さんのあの低い声がすごく再現されて本物みが強い。神尾さんは色気もあるけど、こっちはそれが控えめでより軍人感が増してた気がする。
 余談。バーンズくんは天てれで見たきりで、めちゃめちゃ小柄で華奢な子だった気がするんだけど、顔も身体もすごく男らしくなってて、立派になったなぁ…と思った。近所のおばさん感。

 あと演出がすごい。プロジェクションマッピングとか、光るスーツとか、なんか、機材の名前はよく解らないけどすごい色々使ってた!お金かかってるのがわかる。
 ダンサーさんを使った表現もすごかった。ディビジョンダンスバトルってなんぞ? と思っていたけど、うまく場面や心情を表現していて、変だと思うことがまったくなかった。

 入場特典のCDに入っているものを含めて劇中歌がいくつもあるが、それも全部よかった。全体的にサビがキャッチーでとっつきやすい曲が多かったと思う。作った人がジャニーズ等にも曲提供している人だそうで、納得って感じだった。
 その点アカバネのチーム曲はHIPHOP色が強いんじゃないかと思った。原作にあっても違和感なさそう。
 二郎と三郎の兄弟喧嘩、わちゃわちゃ感があってとてもかわいい。あとこの曲の最後に一郎が「うるっせぇぞ近所迷惑だろうが!!」って言う声が一番でかいの最高だよね。おまえが一番うるさい(にっこり)
 一郎とカズのデュエット、ホールニューワールドって言われてて笑った。いい曲なんだよなぁ…。
 わたしのお気に入りは、理鶯が蛇穴について説明するところから始まるMTC三人の曲。サビが超好きだしダンスもすごい好き。最後に三人がハンドサインを掲げ後ろを向くところなんか最高。
 カズの独白のような曲もすごくいい。「孤独を積み重ねてきた分だけ頂上で歌うんだぜ」はすごく刺さる歌詞だった。
 最後、一郎のマイクが復活したあとの、カズに食らわせたリリックもよかった。なにしろ高野くんの演技がすごい。迫力がすごい。
 やっぱりヒプノシスマイクというジャンルにおいて曲がいいことはすごいパワーだと思った。

 脚本については、(観客的にどうしてもぽっと出に見えてしまう)カズが一郎にとって大事な存在であるかをいかに上手く書くかが肝であったと思うけど、わたし的には納得いく形で書かれていたと思う。
 この話は"19歳の一郎が友達といる姿"を見られる貴重な機会だ。
 19歳の一郎は、三兄弟の長男として、萬屋ヤマダの経営者として、ディビジョンの代表として、どこかで気を張り詰めている立場なんじゃないかと思う。左馬刻、空却とは決別し、施設では同年代がいなさそうだし、学生の頃から借金取りの仕事をしたりして、生きるのに精一杯だった、有り体に言って友達が少なそうな子だ。気兼ねなく話せる人間なんて、そういないんじゃないかと思う。
 そんな一郎が、旧友に会い、普段と違う年相応の笑顔を見せ、話そうぜ、飯食おうぜ、と言っている。カズの存在感の表現として、これだけでもう充分だった。ぽっと出に見えるのはわたしが観客だからであって、一郎の過去にそういう友達がいた可能性なんか否定できない。人生という息遣いが聞こえて、山田一郎という存在をより身近に感じた気がする。
 もちろんカズは舞台オリジナルなので、原作の展開によってはカズと友達だった可能性ごとなくなるかもしれないし、齟齬は絶対に発生すると思う。でもいいじゃん、現時点で解る情報のすきまで。同人誌みたいなもんだ。舞台は公式の二次創作だ。そうなったらそのときよ。
 つっこみどころとしては「10年ぶり」の部分かな。10年前…9歳…? 9歳の一郎も不良で強かったのか…? まあ一郎については原作でもわからない部分が多いので気にしないことにした。気にしないことにしたけど、このこともあってステの一郎は24歳って感じだったな。
 ブクロとアカバネのバトルがメイン、一郎とカズの物語ではあったが、なんせMTC…左馬刻の立ち回りが最高だった。絶対銃兎や理鶯にわかるように表立って動かないし、絶対一郎にも悟られないようにする。照れて銃兎に蹴り入れるとこまで満点。一人で勝手に一郎を助けたけど、助けたつもりはなくて、あくまで一郎をぶち殺すためのステージを整えただけで、そのあと一郎に会ってもおくびにも出さない…碧棺左馬刻という男だ。解釈一致。すごい。
 大満足の一幕。

 二幕はライブ。
 これがめ……………っちゃくちゃ楽しかった。これがあることで現場の価値が爆上がりする。
 曲がいいことは前述の通りだし、ダンスも一幕より増えた。ヒプノシスマイクは踊らねえ! でもこれがかっこいいんだな…ダンスが上手い推し、かっこいいぜ…

 友達曰くわたしは観劇中ずっとニッコニコだったそうだが、終演後も永遠にニッコニコだった。マスクがあってよかった。

 ところでこの日の夜は、木村昴さんが観に来た回だった。

 2.5舞台自体がそういうものなのかは解らないんだけど、ヒプマイ公式がヒプステの宣伝に消極的だった(ように見えた)ので、ヒプノシスマイクの象徴ともいえる昴さんがヒプステを観て、良かったとツイートした、これはすごく熱い。
 ファンの間でも「自分のキャラクターを他人が演じることを声優さんはどう思うのか」という声が聞こえていたので、中でも山田一郎と一番近い木村昴がヒプステの存在を肯定しているということ、これは原作ファンがヒプステを受け入れる理由になったと思う。
 昴さんのことだから観に行くだろうとは思ってたけど本当に観ていて嬉しかったな。
 ところでこの2枚目の写真、めっちゃ一郎と一郎が並んでるって感じしない?昴さんは名実共に一郎だし高野くんはまじで顔が一郎だし、夢の一郎ツーショットって感じ。最高だな。

 そんなこんなでわたしの初日は終了した。
 この日すでに公式トレードを取り下げたいと思っていた。まだ理性があったので下げはしなかったが、気持ちは全通だった。トレードが成立しなければいいとも思った。でも取り下げない。わたしはヒプノシスマイクに感情をぐちゃぐちゃにされていた。

ヒプステに通い続ける話

 それからしばらく、相変わらず公式トレードは成立しなかった。
 でももう行きたくて仕方なくなっているので、毎日「今日もチケットは無事だった」と、会場に向かう日々を送る。
 が、ヒプステが始まってから一週間が経つ21日、メールが届いた。
 取引完了のお知らせ
 ついにトレードが成立した。
 焦った。出品しておいてなんだがめちゃめちゃ焦った。えっ…わたしの席…。感情がぐちゃぐちゃなのでやってることと言ってることもぐちゃぐちゃである。
 この頃くらいになると、公式トレードのページでもじわじわ取引成立が伸びてきていた。色んな人が高評価していたし、やはり様子を見てから買おうと思っていた人が多かったんだろう。多分このまま出品していたら手元からチケットがなくなる。
 わたしたちはついに(わたしの予定があったもう1公演を除いて)出品を取り下げた。行ける分は全部行く。チケット代はまあ、もうすでに払ってるし、実質無料だよ(ぐるぐる目)
 こうしてわたしたちは12公演行くことにしたのだった。

 これチケット安かったらステシャブガン決まりリピ勢で会場埋まって誰も現場行けないから18000円でいいんかもしれんわ。

 何回言っても楽しかったし、何回行っても新しい発見があってよかった。ステージ上に3〜6人いる場面が長いので、基本的に目が足りないのだ。表情や仕草、どれだけ見ても飽きなかった。一度見たけどまた見たいところもあった。

 一郎が三郎に「いい加減にしろ」と怒鳴るシーンがある。「ダチを疑えるわけねえだろ」と。
 わたしは2,3回目で理解したんだけど、一郎はその時点で既にカズを疑ってたんだよね。三郎の言うことを突っぱねたんじゃなくて、自分に言い聞かせたセリフだった。
 山田一郎自体が元来、疑うよりも信じることをしたいタイプの人間なんだと思う。このときの三郎の進言はまだ直感に過ぎず、明確な根拠があったわけじゃない。この状況では「疑わないべきだ」と考えそうな男だ。
 疑いたくない一郎もいたと思う。前項で書いたように、カズは一郎にとってかけがえのない大事な存在だった。そんな彼を”疑いたくない”、これはまだ19歳の、年相応の青年の姿。
 疑えない一郎もいたと思う。山田一郎は、良くも悪くも自分の道に頑なにまっすぐな男だ。過去、そして現在、自分が信じたカズを疑うという行為は、カズを信じた自分の否定になる。これは多分一郎という人間にとってすごく重大なことで、そう簡単に考えを変えられることじゃなかったんだと思う。
 カズを疑うことが、一郎にとってどれだけ大きな決断だったか。
 そして、それをさせた碧棺左馬刻が、一郎にとってどれだけ大きな存在なのか。
 すごく上手く描かれていたなと思った。

 とにかく脚本が良かった。すごい解釈が詰まっていて、観れば観るほど深くこのストーリーのことが理解できる。元から味が濃いスルメ。

 そんな中で、舞台オリジナルのアカバネディビジョン、North Basterdのこともどんどん好きになった。
 初見で解ることだが堂庵和聖役の岸本勇太くん、歌が上手い。声が綺麗でラップ上手いしメロ部分も耳触りがすごく良い。EXILEとかにいそう。プロの人なのかと思ったらプロの人だった。
 VSイケブクロのラップ部分が日に日に良くなっていったのもよかった。最初の頃はもっとさらっとしてたんだけど、どんどん感情がこもっていって、怒りも涙も全部声に乗ってきた。何度見ても毎回よかったし、見るごとにカズを応援する気持ちが強くなる。

 狐久里梁山役の南部海人くん、蛇穴健栄役の松浦司さんはたしかもともとHIPHOPの人だっていうのもあって、安定感がすごい。ラップうめえ〜。チーム曲にあるふたりのダンスパート、毎日違っていて、多分その場で自由にやってるんだよね…? 職の人の為せるワザだな…。蛇穴はキャラ柄もあると思うけど涼しい顔でサラッと難しいことやってるのがすごくかっこよかった。梁山はすごくわたしの好みのキャラだった。三下、かわいい、最高です。

 アカバネばっかり観ていた回があった。
 カズが自分の境遇を話すところ、梁山がちょっと驚いた顔で見てる(気がする)んだよね。イケブクロにリリックを食らわせたときにも、ビクッとしていたりする。梁山は何も知らなかったんだろうなって思った。
 一郎のマイクが復活して三郎が出てきたときに、梁山はカズをおさえて前に出る。カズが倒れたとき、梁山はカズを背負ってはけていった。
 多分アカバネのチーム感っていうのは、カズの告白の瞬間に生まれたんだろうなと思った。仲間に協力したい、守りたい、みたいな。
 健栄は基本スンとしてるから表ではちょっとわかんない。

 カズもカズで、「孤独」「仲間なんてもんなんの意味もねえ」と言っていたけど、三郎に倒された梁山をすごくオロオロ見ていたり、二郎に倒された健栄を庇うように前に出てきたりする。
 一郎の言った「仲間のためなら躊躇なく身体張れたじゃねえか」がストンとくる。
 あ〜本当のこの子はこういう子なんだ。泣き虫なところは表情に出ていた。優しいところは態度に出ていた。カズは多分、本当になにも変わってなかった。
 憎しみと怒りで、自分を奮い立たせていただけだったんだ。
 アカバネはこの戦いを通して”仲間”になったんだなぁ。
 二幕のアカバネがみんなニコニコで楽しそうでとってもかわいい。アカバネもいつかこんな風に笑ってバトルの場に立てる日が来るんだろうか。

 さて、いよいよ手持ちのチケットが減ってきた。
 正直まだ見足りない。毎日行きたい。しかしさすがにチケットが高い。仕事も作業もある。
 まだ冷静だった。わたしたちはここまでで終わろう。千秋楽はニコ生で観よう。(でも申し込みだけはした。ご用意はされなかった)

千秋楽の話

 2019年12月1日、最後の日。

 この2週間、本当に夢のように楽しかった。キャストさんにお礼が言いたくて、手紙を書いて持っていった。時間がなくて全員には書けなかったけど、4通ほど。現場のチケットはなかったけど千秋楽の空気を吸った。
 このとき、会場前にいつもはなかった長蛇の列があった。気になったのでスタッフの人に聞いてみた。
 「当日券の列です」
 すごいびっくりした。並の列じゃなかった。この時点でたしか開演1時間前だった。今から抽選するのか…? 一体このうち何人が会場に入る権利を得られるんだろうか。こわい。わたしたちはおとなしく予約しておいたカラオケへ向かった。

 この日はカラオケの大画面でニコ生をリアタイした。
 酒を飲みながら、ここちょ〜〜好き!とか解る!とかここのカメラ天才!とかなんでここ映してんだよぉ!とかぎゃあぎゃあ言いながら観た。これはこれで楽しかった。観劇中はしゃべれないから、観ながらココ!ココ!って言うのも悪くない。
 悪くないけど…
 最後Gimme The Micが一回多かったじゃないですか。あれがめちゃめちゃ羨ましかった。

わたし「千秋楽いきたかった;;;;;;」
友達「アンタが申し込まなかったからでしょうがァ!!!!!!」
わたし「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい(園崎魅音)」

 申し込みしなかったことを完全に後悔した瞬間だった。
 完全敗北。
 無念。ごめんなさい。

ヒプステがおわった話

 こうして約2週間はまたたく間に過ぎていった。
 心から楽しい2週間だった。後悔がひとつもない。

 最初の頃、心配がないわけじゃなかった。もしも万が一席がガラガラだったらと思うとキャストさんの心情が心配だった。どれだけ良いものだったとしてもちゃんと評価されるかは、わたしには解らなかった。
 大好評に終わり、本当によかったと思う。

 終わってこれだけ観た今改めて18,000円について考えてみるけど、このチケットが高いのか安いのか、わたしには結局解らなかった。普通に高いけど、この舞台はこれを払うか払わないかの二択しかない。これを払うことで舞台が観れるなら、この値段は妥当だとかそうじゃないとか以前に、18,000円でしかないんだと思う。考えることをやめた。観て満足した今になってはどうでもいいことだ。

 この舞台を通して、わたしは山田一郎のことがより一層好きになった。
 原作そのものの一郎ではないから、この好きがそのまま原作の一郎にリンクするものではないのかもしれない。でも舞台の一郎は山田一郎の「そういうところだよ」がたくさん詰まっていたし、やっぱり山田一郎だったと思う。推しはどこまでいっても推しだった。

 最終日間近になって、演出家の方のツイートを見た。

 ウッ…ってなった。
 制作陣も俳優さんもダンサーさんも、発表当初の心無いコメントの数々を見ていただろう。そんな逆風の中でこんなに良いステージを作ってくれたことに心から感謝した。
 あと岸本さんのインスタもなんだけど、その逆風に対して「愛するものだからこそ心配していた人」って言うんだよな。なんて強くてかっこいい人たちだろう。
 マジでみんなヒプノシスマイクの舞台を良いものにしようって全力でがんばってくれたのが伝わってきてすごく嬉しい。原作へのリスペクト爆盛の最高の作品でした。本当にありがとうございました。

 ところで、わたしは期間中Twitterでヒプステを絶賛していた。
 といっても楽しいから楽し〜〜〜!って言ってるだけで、別に布教?の意図はなかった。
 受け入れられないことを決めている人に「これ良いよ」と言ったところで伝わらないと思っていたからだ。これは別にネガティブな意味ではなくて、わたし自身がめちゃめちゃ食わず嫌いする人間だったので、受け入れられないと思う人の気持ちが解るからである。嫌なものをむりくり見せられても、当人に受け入れる心の準備ができていないので、どれだけ良いものでも良いと感じることはできないと思う。
 ということは、その人にとってヒプステを観ることは”今じゃない”んだと思った。その”今”は一生訪れないのかもしれないけど、とにかく”今”じゃない。そうであるなら、布教なんてものは無駄だし、されても鬱陶しいだけだろう。
 だからわたしは楽しいことについて楽しくしゃべっていた。気になる人がいるなら観てみてほしいとは言ったけど、みんな観るべきとか観ないのは損だとは言ってない。たぶん。ちょっと自信がない。

 なんだけど、思いの外、わたしのツイートやレポを見てステを観に行くことにしたとか、ライビュやニコ生を観ることにしたというメッセージをたくさん頂いた。実際観に行った人からとても良かったというお礼のメッセージまでもらった。
 いや、わたしの方こそお礼を言いたい。観てくれてありがとうございます。ステのなんでもないわたしが礼を言うというのも変な話なんですが。
 別にわたしのツイートに力はないと思う。ただのインターネットおえかきマンだ。こんななんでもない個人のツイートで腰を上げるにはチケットが高すぎる。ニコ生でいいかと思っていた人が現場に行くことにした場合チケットだけで値段は6倍になる。高すぎる。もともと難色を示していた人ならそれ以上だ。高えよ。
 それでもわたしのツイートを見て観に行った、それで楽しめたと言う。それって多分、その人自身の度量の広さなんだと思う。他人の話を聞こうとすることができる人だし、その上で斜め見するんじゃなくて、ちゃんと楽しもうとできる人なんだと思う。
 これは数年前のわたしにはできなかったことだ。
 すごいなぁと思った。
 おかげで好きなものを、楽しかったねと言い合うことができる。素晴らしいことだと思う。
 広い視野で物事を楽しむことができる心を持っていてくれてありがとうございます。どうかそのままでいてください。

 俳優さんのファンの方からもメッセージをたくさんいただいた。
 発表当初の批判でとても不安だったが、褒めてもらえて嬉しい、ありがとうとのこと。
 いや…こちらこそありがとうございます。そしてすみませんでした。
 別にわたしはファン代表でもなんでもないので、非難していなかったわたしが謝るのも変な話なんですが。でもちょっと負い目はある。あのときわたしは声を大にしてヒプステが楽しみだって言うことができなかった。ちょっとは言ったけど、あのときの流れにはかき消されて、誰にも届かなかっただろう。
 あのとき心配だったのは俳優さんだけじゃなくて、俳優さんのファンの人もだった。絶対に嫌な気持ちになったと思う。悲しかったと思う。
 そういう人たちに、わたしは応援してますって伝えることができなかった。ごめんなさい。
 だから実際に観劇して本当に良いと思ったものについて「良かった!」ってちゃんと言うことができたのがすごく気持ちよかったし、それがそれまで不安を感じていたであろう俳優ファンの人に届いて嬉しかった。
 こんな素敵なキャストさんたちが大好きなキャラクターを現実にしてくれたこと、本当に感謝しているし、今この人たちがステージに立っているのは彼ら自身の努力に加え、これまで彼らを応援してきたファンの存在があるからこそだって思う。だからありがとうはこっちが言いたい。あなたが応援している彼は素晴らしい人です。彼をヒプステの舞台にあげてくれてありがとうございました。

 書きたかったことは一通り書いた気がする。
 ここが好きとかあれが好きとかはレポで書いたしここではいいかな。これは日記なので。
 BDとビジュアルブックは予約したが4月までお預けで寂しい。これがロスか。今はニコ生のタイムシフトをいつ観るかについて悩んでる。
 でも原作も3月まで毎月CDが出て、5thライブも控えているし、ここから半年も怒涛のように過ぎていくんだろうな。わたしもそろそろ本家の現場に行きたい。

 こんな独り言を読んでくれる人がいるのかどうかは解らないけど、こんなところまで目を通してくださってありがとうございました。
 おわります。

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